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第4話 5

5 

 先に工場に赴任しているメルちゃんの案内で、工場の応接室に通された。

 工場は思ったよりも古くて、海の近くのせいか、建物の屋根、配管、ラックなど、あちこち錆が浮いている。製造の建物の壁も薄汚れている。築何年かなあ?

事務棟だけは新しくて綺麗だね!あたしはこの事務棟で働けるんだー。おらワクワクすんぞー!


 実はあたしはすごく楽しみにしていたことがある。

 女子の事務服を着たかったのだ。だって素敵じゃない?黒か紺色のベストとスカートで、書類のバインダーを持って颯爽と歩くの!かっこよくて、できる大人の女性って感じがするでしょ?


 今日は最初に応接室で総務の人から工場の概要とか勤務時間とか工場の決まり事について説明を受けることになっていた。

 ドアを開けて入ってきたのは銀縁眼鏡をかけた本社の研修担当の万歳梨奈乃さんだった。

 「あれ?万歳さん、本社じゃなかったっけ?」

 「鉄火さんごきげんよう。わたくし今週から三崎工場へ転勤となったのですよ。どうぞよろしく」

 もしかして、万歳さん新入社員研修がもとで責任とらされて、左遷されたとか?

ううう、あたしのせいだよー。万歳さんごめんなさい!申し訳なくて左遷とか聞けないよー。

 

 まっすぐ万歳さんの顔を見られなくなったあたしにお構いなしに万歳さんの説明が始まった。万歳さん、なんか事務的で冷たい感じ。やっぱり怒ってるの?嫌われちゃった?


 「・・・・というわけで、説明は終わります。なにかご質問は?

 特になければ、制服に着替えてもらって、あなたの勤務する課へ移動してもらいますね。

 これが鉄火さんの制服となります。」

 万歳さんが渡してくれた制服は、なんと言っていいか、これ間違ってませんか?

 「あの・・・、これは?」

 どう見ても男の人が作業現場で着る薄いベージュ色の作業服に見える。

 「作業着ってご存じなかったですか?これは鉄火さんの作業着になります。突然だったので女子の丁度いいサイズがなかったのよ。男子用で一番小さなSサイズを用意したの。サイズが合わなかったらごめんなさいね」

 今、作業着って言った!女子の事務服はどこ行ったの?万歳さんは事務服着てるよね?

「もうすぐ、あなたの職場の方が迎えにくるので、先に女子ロッカー室へ案内します。着替えを済ませてください」

 ええー、あたし製造現場で作業するの?たしか物流課じゃなかったっけ?


 作業着は上が両胸にポケットのある長袖シャツで下がスラックス。男子のSサイズはあたしには大きくてだぼだぼだし、袖も裾も二つ折りしても余るくらい。

 黄色いヘルメットの正面には、衣ケミカルのことだろう、「KC」となんの飾り気もない黒い文字がプリントされている。ヘルメットもあたしには大きすぎてぶかぶかだ。

 靴は安全靴といって、つま先に鉄板が入っているので重い。この靴でどこへ行けと?見た目は黒い皮靴で靴紐が黄色いデザインだ。靴だけはサイズが合っている。

 うう、可愛くない。これじゃ小さなおじさんだよ。ますます女子力が遠ざかっていくよ。


 着替え終わった頃、女子更衣室に、メルちゃんが入ってきた。

 「きゃー、マキちゃん可愛いです!」

 え?

 「わたくしも作業着着たいですわ!女の子の作業着すがた萌えますです!」

 「え、そーかなー、でへへ」

 そう言われると可愛い気がしてきたよ。うん。これはアリかな?あたし可愛いって!

 って、そうじゃなくって!

 「メルちゃん、物流課って女子も作業着で作業するの?」

 「マキちゃん、あのね、えーと・・・」


 すると突然、女子更衣室入り口のドアが開いて、怒鳴り声が聞こえて来た!

 「いつまで待たせるんだ!早く準備しろ!」

 きゃー!女子更衣室に男の人が入ってきたよ!ヘンタイ!


 「あ、あなたは?ヘンタイおじさん?」

 「誰がヘンタイだ!着替えにどれだけ時間かけるんだ!」

 

 メルちゃんの様子が変だ。笑顔だけど、目が笑っていない。

 「本能寺様、ここは女子更衣室ですわよ?ノゾキは犯罪なのはご存じですわよね?

 マキちゃんの着替えを覗こうなどと。当然、懲戒免職を覚悟してのことですわよね?」

 「あ」

 「あ、じゃございません!わたくしの目が黒いうちはマキちゃんに指一本触れさせは致しませんから、覚悟して下さいませ!」

 「いや、あたしはそんなに気にしてないから・・・。見られてないし」

 「マキちゃんは気になさってくださいまし!」

 「はい・・・。ごめんなさい」あたしまでメルちゃんに怒られちゃったじゃん。


 「懲戒免職の話はおいといて、なんで本能寺さんがここにいるの?」

 「懲戒免職は忘れてもらって欲しいんだが。レイカの妹さん、あんた今日からウチの部署に配属だから迎えに来たんだ。着替えが遅くて心配で来てみれば・・・。ここが女子更衣室ってこと、すっかり忘れてて・・・。ゴメン」

 「よくある話なので大丈夫ですよ。あなたは雪ちゃんのスカートをめくろうとしていたし。この、ヘ・ン・タ・イ・お・じ・さ・ん」あたしは執念深いので受けた屈辱はあんまり忘れない。


 「本能寺さんは物流課だったんですか。先輩なんですね。これからよろしくお願いします!」

 あたしは体育会系なので先輩後輩の礼儀はきちっとしている。なので、ヘンタイおじさんでも先輩は敬うよ?

 「え?物流課?なんのことだ?オレは環境安全課だけど?お嬢様、なにか間違いがあったのか?」

 本能寺先輩もメルちゃんのことをお嬢様って呼ぶんだ。メルちゃんお嬢様っぽいからかな?


 「本能寺様、会社ではお嬢様と呼ばないでくださいまし。

 それから、マキちゃん・・・、えーと、配属先は物流課じゃなくなりましてぇー、そのぉー、本能寺様と一緒のぉー」

 「君は今日からオレと一緒の環境安全課だ!よろしくな!」

 ふーん、そーなんだ。あたしは粒あん以外はこだわらないから別にいいけど。

 「環境安全課ってなにするとこなんです?」

 「マキちゃん、ここはまだ女子更衣室なので、部屋を出てからの方がいいかと・・・」

 そうだよね。ヘンタイおじさんをココに置いておくわけにはいかないよね。

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