第3話 8
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緊張感の欠片もなくなってしまったけど、突然戻って来たお姉ちゃんを加えて、雪ちゃん奪還作戦会議再開だ!
「みなさん、雪ちゃんを取り戻すにあたって、わたくしいくつか疑問がありまして、是非とも解消させていただきたいのです。とくに、レイカ様がいらっしゃるこの場で」
メルちゃんが厳しい表情で疑問があるという。あたしなんて疑問以外ないよ?なに聞いていいかもわかんないもん。
「お嬢ちゃん、どうぞ」お姉ちゃんが余裕の表情で答えた。
「あまりゆっくりとした議論をする余裕はございませんので、今まで得られた情報から、わたくしが考えた推論をお話しします。
これはあくまで推論ですので間違えていたら遠慮無くご指摘下さい」
「最初からおかしいと思っていたのです。
そもそも、なぜ衣ケミカルの新入社員研修で第二世代のモニターを行うと決まったのか。わたくしは最初から反対していました。発売前の第二世代の情報漏洩の危険があるのに、実施する意味があるのでしょうか?と」
ん?なんでメルちゃんが会社の研修内容に反対できるの?メルちゃんってナニモノなの?
「次に、レイカ様の研究所で第三世代「MoNStEr」が完成したとの噂が流れ始めたこと。
そして、第三世代と思われる雪ちゃんが実際にマキちゃんのパートナーとして研修を受けていること」
「ふふん。それだけ?あの子が本当に第三世代と思っているの?ただの変わった第二世代かもしれないのよ?」
「いいえ、雪ちゃんは間違いなく第三世代で合っていると思います。
この新入社員研修の内容を考えられたのは、レイカ様と御祖父様のお二人ではないのですか?」
ん?お姉ちゃんはともかく、普通おじいさんって家でのんびりお茶すすってるよね?あ、今は働きにでないと家計が厳しいのか!
「そして、研修の目的は第三世代の能力の覚醒。そのために第二世代とパートナーの新入社員とを一緒に研修を受けさせて、刺激を与えて覚醒を促せようとした」
雪ちゃんのためにこの研修があったってこと?
「さらに言うと、なかなか覚醒しないため、しびれを切らして奴らに襲わせた。より強力な刺激を与えるために。どうです?わたくしの推論は?」
メルちゃんはお姉ちゃんをにらみつけながら言った。もし本当だとしたら、自作自演ってやつなの?
「うーん。五十点ってとこかしらね?ぎりぎり赤点は逃れたわね」
お姉ちゃんは嬉しそうに指をくるくる回しながら微笑んだ。四十九点で赤点なの?厳しすぎない?
「お嬢ちゃんの御祖父様に今回の研修をお願いしたのは正解よ。これで二十点」
もしかして五問全問正解で百点満点とか?いや、おじいさんナニモノ?
「新入社員に第二世代を与えて、雪ちゃんと一緒に研修を受けさせて、刺激を与えて能力を出しやすくしようとしたことも正解。これで四十点」
いやいやこれって重要でしょう?なにげに衝撃の事実が暴露されてんの?
「そして、奴らに襲わせったってところは不正解。
そもそもわたくしの研究所で第三世代が出来たと噂が流出したのだって、研究所に潜入していたスパイかなにかが情報を盗み出したからのようだったし、彼らの組織はわたくしの研究所や衣カンパニーとは全くの無関係だし。
逆に、彼らの組織には絶対に情報を渡してはいけないのだから。ここはゼロ点」
その口ぶりだと、お姉ちゃんは敵の組織の正体も知ってるようだけど。
「次に、あの子はまだ第三世代かどうか、わかってないから、とりあえず二十点中十点をあげておくわ。これで五十点」
「そして残りのゼロ点の配点は、なぜ雪ちゃんのパートナーがマキちゃんだったか?とう質問がなかったこと。で、合計五十点。うん。赤点じゃないから。補習はナシね。なにかご質問あるかしら?」
さすが大学教授。学生相手に話しているみたいだ。お姉ちゃんが大学教授ってこともすっかり忘れてた。
「はい。わかりました。ご説明ありがとうございました。敵の組織は弊社には関係が無いと言うことですね」
あれれ、メルちゃんが少しすっきりとした表情をしている。なんで?五十点だったんだよ?それでいいの?
「それではわたくしは雪ちゃんを全力で奪い返すことにいたします。たとえなにがあろうとも」
にこにこしているメルちゃん、なんか顔がこわいよ。隣で乱ちゃんや層君も同じ表情してる。なんで?
「お姉ちゃん、最後の『なぜ雪ちゃんのパートナーがマキちゃんだったか?』ってとこ。なんであたしなの?」
「そ・れ・は、内緒でーすっ。うふっ」えー、いいじゃん教えてよ-。
お姉ちゃんは一旦内緒というと絶対に教えてくれない。たとえ天地がひっくり返っても。たとえ末の妹のスズちゃんがおねだりしても。