第2話 9
今回は衣奈メル視点でお送りします。
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【メルレポート 第一報】
わたくし衣奈メルは今年の衣ケミカルの新人研修で、全ての新入社員に第二世代「MoNStEr」のモニターを依頼することに反対していました。
そもそもこの度の新しい第二世代「MoNStEr」の開発には秘密裏に多額の国家予算が組み込まれています。
本プロジェクトには大学などの、衣カンパニー以外の組織の人も多数参加しているため、情報が漏洩するリスクが非常に高いことは明らかなのです。そこへ、さらに新入社員を加えるとなると、犯罪結社や他国のスパイに狙われても守りきれる保証はないのです。
しかし、将来の後継者候補の一人とはいえ、一学生のわたくしの意見が通る筈もなく、衣カンパニーは子会社の衣ケミカルにて、新入社員による第二世代「MoNStEr」のモニター実施を決めてしまいました。
衣ケミカルでは、昨年までは普通の理系や事務系の学生を採用していましたが、今年については上記の不安を払拭するためなのか、それぞれの分野で頭角を現している若者をいつの間にか採用しておりました。特に体育会系の学生が多いように見受けられます。
他企業や犯罪組織のスパイの潜入を阻止するために、彼らの身元については十分調査を行った筈でした。しかし、今思うと不十分であったと言わざるを得ません。
わたくしが衣ケミカルに入社したのは、(反対はしていましたが)なにか事故があったときに、経営者の一族として責任をとらなければならない、と思ったからでございます。
少なくとも一番危険と思われる研修期間中の、情報漏洩の阻止が必要であると思われます。
衣ケミカルの入社式当日、わたくしはとても興味深い女性と出会いました。「MoNStEr」研究で有名な鉄火レイカ様の妹君のマキ様です。
今回のプロジェクトでは国立大学の鉄火レイカ様を中心にした研究がメインとなっていましたので、もしも鉄火レイカ様が抜けるようなことがあれば、プロジェクトが破綻してしまう恐れがあります。
衣カンパニーとしてはどうしても鉄火レイカ様との繋がりを保ち続ける必要があるのです。
鉄火マキ様の衣ケミカルへの入社は、当カンパニーにとっては幸運なことで、マキ様が会社から決して離れないようにする必要がございます。
マキ様の衣ケミカル入社については、お姉様のレイカ様はあらかじめご存じだったようですが、親会社の衣カンパニー本体側には一週間前まで一切知らされておりませんでした。どこからか情報操作がされていたようです。
さらに驚いたのは、経済産業省付きのエージェント、レイノルズ・乱およびレイノルズ・層姉弟の二名が新入社員として潜り込んでいたことです。
わたくしは彼らとは過去にお仕事をご一緒したことがあるので、お互いに面識があります。
わたくしは彼らが潜入して来ることについては、事前に知らされていなかったので、とても驚きました。
わたくしも彼らも正体を他の人達に知られるわけにはいきません。わたくしには、彼らの目的がなんなのか不明なのです。ましてや、彼らがマキ様へ接触してくるなんてまさに異常事態です。
しかも彼らは妙に目立ちやすいのです。声が大きく、突然意味不明のことを話し出すので、エージェントであることが露見してしまわないかと、いつもひやひやさせられています。
わたくしは同じ工場採用の立場を利用して、マキ様と繋がりを深くしようと画策し、見事さりげない接近に成功しました。
ところがエージェントの一人がわたくしを差し置いて、先に親密な関係を築き上げるのに成功するとは!わたくしも直ぐに親密な関係になりましたけど!わたくしの親密度の方が上ですけど!
わたくしはなんと、マキ様を「マキちゃん」と呼んでもいい許可を取得することに成功したのです!
マキ様は予想外に親しみやすい性格をされていました。また、男勝りのさっぱりとした性格も相まってか、あっという間にわたくしの心の大部分を占めてしまわれました。
いつもマキ様を目で追ってしまいます。
なぜだか、マキ様が他の人達と会話をしていると、わたくしとだけ話をして欲しいと心がもやもやしてしまいます。
さらなる不確定要因は、マキ様の古い知り合いが同じ工場勤務者の中にいたことです。
わたくしはマキ様に接触してきたこの男のことを至急調査させました。
その結果、マキ様は忘れていらっしゃるようですが、小学校の時の同級生であり、大学時代は(別の大学で別の競技ですが)陸上の全国大会で何度か接触しているとの情報が得られました。
その男の視線の先にはいつもマキ様がいるようで、かなりマキ様を意識していることがわたくしにはすぐにわかりました。
単刀直入に言いますと、邪魔で排除すべき存在です。
ただし、マキ様にはその男の記憶がなく、熊男と呼んで敬遠されているため、もうしばらく観察を継続していくつもりです。
この男が今後どのような影響を及ぼしてくるか全く予測がつきません。
ここに来て、もう一つ不確定要素が追加されてしまいました。
入社式で配布される第二世代「MoNStEr」と新入社員のカップリングです。
第二世代「MoNStEr」とパートナーとなる社員との相性が全く不一致と思われるケースが多々あるようです。
わたくしについては、希望通りウサギ型RBTが配布されましたが、彼女は非常に怠惰な性格で、わたくしと相性がいいとはとても思えません。
他のメンバーのパートナーも同様で、中にはとても卑猥な言動をする第二世代「MoNStEr」もおりました。全体的に性格に難ありと言わざるを得ません。
件のマキ様のパートナーに至っては、完全にディスコミュニケーションで、未だに会話すらする事が出来ない状況です。
昨日は大雨の中、外に逃げ出す始末で、マキ様を始め同じ工場勤務のメンバーはずぶ濡れになって危うく風邪を引いてしまうところでした。
それから、これはとても重要なことなのですが、研修センターの食事のメニューについてです。
わたくしのリクエストでビュッフェスタイルとなったのはいいのですが、料理の質、量、および種類が少なすぎると思います。
今日の夕食までに今の倍の種類のメニューへ変更するように業者へお伝え下さい。
もしも業者が無理だと回答をしてきた場合は、業者を直ちに変更し、わたくしのお屋敷の料理人を派遣するようにご指示下さい。
食事の予算にいとめはつけられません。
研修センターでの宿泊の部屋割については、わたくしの配下の万歳梨奈乃に調整させて、マキ様と一緒になることができました。
彼女はわたくしのお屋敷のメイドでしたが、今回の事態を予測していたわたくしは一年も前に衣ケミカルへ潜入させておいたのです。わたくしの先見の明はすばらしいですわね!
ところが残念ながら当センターの部屋数に余裕がなく、エージェントの一人も同室になってしまいました。
マキ様と二人っきりでガールズトークというものをしてみたかったのですけれど・・・。
昨夜のマキ様はパートナーの看病をされるということで、部屋へはご帰還なされませんでした。
そういえばエージェントも昨夜は部屋へ戻っては来ませんでしたわね。
はっ、もしかするとわたくしの知らないところで二人きりで!?
わたくしもマキ様といちゃいちゃしたいです!
・・・取り乱してしまいました。申し訳ございません。
そして、研修三日目の今朝、経済産業省側より連絡があり、国際犯罪組織の工作員とおぼしき数名が当研修センター付近に出没しているとの情報がありました。
目的は不明ですが、第二世代「MoNStEr」に関係することであると思われます。
二名のエージェントにも連絡が行っている可能性はありますが、彼らとは指揮命令系統が別のため、わたくしから本件を伝えることは出来ないのです。
当研修センター内にはわたくしの配下は梨奈乃一名だけなので、仮に工作員と戦闘行為に及んだ場合には戦力不足であると認めざるを得ません。
すでにわたくしのお屋敷に、応援を要請いたしております。
しかし準備に時間がかかりますので、この研修センターでも別途増員を用意しておこうと思っております。




