第1話 2
2
狩場沢製造部長が旧事務棟の環境安全課に、めずらしく大事な話があると言ってやってきた。
しかもいつもは絶対に見せないような笑顔で。気持ち悪い。
この段階であたしはもっと警戒するべきだったのだ。
部長からの話はこうだった。
・六月の下旬ころに、親会社の衣カンパニー本社のエライさんが六月上旬から新しくMoNStErの第二世代を製造することになっている第3プラント、通称3Pを見学したいと言ってきた。
・会社のアピールにもなるので、ついでに広報に使える写真を撮影したいそうだ。
・しかし汚かったり安全に問題がある場合、事業自体を他社に売却する話も上の方から出てきているとのこと。
・実質工場監査みたいなもの。
・なんとか見せられるようなかたちにしないと工場の存続が危うい。
・しかし今はこれから第二世代MoNStErを立ち上げるための準備で忙しく、また第一世代MoNStErの生産量も多くて現場は忙しく、なかなか綺麗にする余裕がない。
・さらに現状の安全管理についてもお世辞にもいいとは言えない。
・製造現場に注意しても、忙しい、設備が古いなどといってはぐらかされる。
・改善するためには相当な労力と時間とお金がかかる。
・リーダーシップをもって改善できる人材もいないし、知識もない。
さてどうしよう?
今のところ六月に向けて三つのオプションを考えている。
1) 間に合わないので、現状をそのまま見せる。 → 工場は売却されて閉鎖に至る。
2) その場しのぎの対応。見た目だけでも綺麗にする。 → 六月には間に合うかもしれないがすぐ元に戻ってしまう。ばれると工場は売却されて閉鎖に至る。
3) 見学をお断りする。 → 工場は売却されて閉鎖に至る。
狩場沢製造部長、柳沢環境安全課長、そしてまさかの本能寺先輩まで、妙に優しい表情で穏やかに話をしている。しかもみんなあたしの方をちらちら見ている。先輩はともかく部長と課長には奥さんがいるでしょう!駄目ですよ、あたしに惚れたら。
部長は、工場が売却されて閉鎖されると困るが、この中で一番現実的な案として2)の「見た目だけでも綺麗にする」を採用しようと考えている。と言っていた。
ふーん。そうですか。がんばってくださいね。




