三巻目(さんまき目) まけない! 第1話 1
三巻目はドイツ編となります。
三巻目(さんまき目) まけない!
第1話 巻かれる範囲拡大中2
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「マキちゃん、原子と分子の違いがまだわかんないのか?」
「マキちゃん、水の分子はHO2じゃなくて、H2Oだって何度いわせるんだ?」
「マキちゃん、標準状態の1モルの気体の体積は224リッターじゃなくて22.4リッターじゃないか!しかもなんだ?アボガドロの法則は野菜の育て方じゃないぞ!」
「マキちゃん、原子番号1の水素から113のニホニウムまでまだ憶えてないのか?」
あたしが環境安全課に配属になってから今日までで、おおよそ半月が経過した。その間は毎日毎日朝から晩までひたすら座学を受けさせられている。
環境安全課で働くには、あたしには決定的に化学、物理などの理科系の知識が足りてないと本能寺先輩が言って、中学校、高校の教科書をどこからか引っ張り出してきておさらいをさせられている。おさらいだけでなく、テストまで用意されていて、間違うと最初からやりなおしなのだ。
あたしの頭はきっちりとしているので、一つ憶えると一つ押し出されて忘れるように、うまくできているのに。
本能寺先輩は化学オタクのヘンタイなので、講義するのが楽しくて楽しくて仕方がないのだ!あたしをいじめて喜んでいるのだ!これはきっとパワハラに違いない!
誰に訴えようか?課長や製造部長は先輩のグルみたいだし、あの優しそうな工場長は、それこそ砂漠のなかの一粒の砂金を探すくらい、出会うのはレアだと言われている。
そうだ、児童相談所に電話してやる!と言ったら先輩に頭をげんこつでぐりぐりされてしまった。
家に帰って、先輩にいじめられているとレイカお姉ちゃんに告げ口したら、翌日にはレイカお姉ちゃんから化学の問題集が山のように宅配便で会社に送られてきた。さらにやることが増えてしまった。もしかしてレイカお姉ちゃんもグルなの?
妹のスズちゃんからはあたしの勉強を見てあげようか?と言われたが、あたしにも姉としてのプライドがあるのでお断りした。だって高校一年生の妹に社会人のあたしが教えを乞うなんてそんな情けないことやだよ!
そうはいってもやはりスズちゃんに教えてもらおうと、教科書を渡してみた。スズちゃんは高校化学の教科書をぱらぱらと三十秒ほどめくって、全て理解したという。なんで高校行く意味あるのよ?ってきいたら、「御心君に会いたいから」って頬を染めて、ぬけぬけと言いやがった。スズちゃんは頭が良くて、可愛くて、彼氏までいる。あたしなんて可愛いだけしか取り柄がないっていうのに。
ずっと勉強していると体がなまって無性に体を動かしたくなる。あのシンナー臭い工場でもいいから早く現場実習がしたくなる程だ。
まさかこれが狙いなの?それともあたしに知識を詰め込んで太らせて美味しくいただくつもりなの?
でも知識だけだといざというときに応用がきかないよ?と言ったら、先輩にまた頭をぐりぐりされてしまった。
それでもいよいよ五月連休明けから待ちに待った現場実習が始まる。
もう勉強は沢山だ。一生分の教育は受けた。残りの余生は勉強なしで送りたい。




