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あたしは女の子にしかモテない!  作者: 美浜忠吉
第2章 困惑日和
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第7話 奇妙な寒空の夜風に吹かれて

 礼さんから預かったサキュバスの封印された箱を夏に届けるため、

あたしは空手部の部室に向かって歩いていたのさ。


 その間にあたしは学園長室での事を考えてた。


 まず、あたしの中に宿るインキュバスという悪魔の事。

 この悪魔があたしの体質を大きく変えているらしいけど、

それをハッキリと感じる事を今はできない。


 だけど、インキュバスがあたしの体から出てきた時は

体が女の子らしくなる変化を確実に実感できたさ。


 それは今でも夢心地だし、

もしかしたら本当に夢かもしれないと思える程。

 それでもあたしにとっては間違いなくリアルだった。


 だけど今のところはそれしか分からないから

インキュバスの事は置いておこう。


 次はハガネちゃんを助けようとしてくれたサキュバスの事。


 サキュバスもインキュバスの様な姿をしている事から

同類の悪魔に違いない。

 そしてあたしの知っている知識から考えると、

サキュバスは世の男性を魅了する力を持っている筈だ。

 だから世の男性を夏は操れる力があるのかもしれない。


 そう考えると恐ろしい力だぜ。


 それからあの色気満々な姿は理想的な女性の姿だから、

夏の体ももしかしたら実際は――。


『ピロロローロロ』

「うひゃっ!?」


 考え事をしてたら突然携帯電話が鳴り響く。

 とにかく、肝を冷やしながらも携帯を開いて画面を確認だ。


「うはっ……クレアさんからじゃん!」


 そう言えばすっかり忘れてたけど、

もともとあたしはクレアさんを迎えに行くんだった!


『ピロロローロロ』


 さっきから着信音が鳴り響く度に、

あたしの肝がどんどん冷えてしまうんだ。


 だってクレアさんから何を言われるか

分かったもんじゃないもん!


『ピロロローロ!』


 だけど早く出ないと更に怖い事に……。


「えーい、ままよ!」


 あたしは恐れる気持ちを捨て、電話に出た。


「もしもし……二実っす」

『やっと出たわね二実。少し遅かったのではなくて?』


 おおう、やはり若干怒り気味でいらっしゃる。恐いよ!


「あの、ごめんなさいクレアさん……

ちょっと込み入った事情がありまして」

『はあ……

まあ日向さんから連絡がありましたから構いませんけれど』

「えっ、そうなんすか!?」


 ちょっと意外というか、

あの夏がまさかクレアさんに連絡するとは予想外だった。


『そうよ。何故か辛そうな声だった気がしますけど』

「えっ、それマジですか?」

『いえ、あくまでもわたくしの気のせいよ。

とにかくわたくしはその……

二実の……声が……ゴニョゴニョ』

「えっ? ごめんクレアさん。

最後の方が聞き取れなかったんすけど」

『な、なんでもありません!

とにかく気を付けて帰りなさい!』

「うひゃっ!?」


 クレアさんが電話越しに大声で怒鳴ったかと思ったら

電話を切られてしまった。


「み、耳がキンキンするう……」


 うう、よく分からないけどクレアさんは

あたしを心配して電話を掛けてくれたんだよね?


 もうそれでいいや。


◯


 時刻はすでに午後7時。

 空手部部室の中に辿り着いたあたしは夏を探していた。


「うーん、待機室にいるかと思ってたんだけど」


 夏は部室内にある待機室にはいなかった。


「とすると、更衣室にいるのかな」


 うん、あたしも女だから大丈夫と心に叩き込みながら

更衣室へ向かったのさ。


◯


「しっつれいしまーす……」


 静かにそう言って若干だけど薄暗い更衣室に入り込む。


 別に悪さしてるわけじゃないんだけど

何故か罪悪感を感じる不思議。


「うーんと、確か夏のロッカーは奥側の方に……っ!?」


 大変なものを見つけてあたしはひどく驚いたよ。

だって夏が苦しそうに息を切らしながら床に倒れているんだもん!


「おい夏! 大丈夫か!?」

「はあ……はあ……」


 あたしは急いで夏を抱え上げ、おでこに手を当てがった。


「マジかよ……すごい熱じゃないか……っ!」

「はあ……はあ……大丈夫……よ?」


 まだ喋る力は残っているけど、

どう見ても夏は大丈夫なんかじゃない。


「バカ言うな! 今すぐ保健室に――」

「安心……してよ……。

私の……言う通りにすれば……すぐ治まる……から……」

「クソ……いったいどうすればいいんだよ!?」


 ダメだ、混乱して何をすればいいか全然分からない。


「落ち着き……なさい……。二実なら……できるから……」

「分かってる……分かってるけどさ!」

「幸子……二実の隣に……いるんでしょ……?」

「幸子って?」

「サキュバスの……ことよ」


 そうだ、そう言えばさっき礼さんから預かった箱。


「あ、ああっ、それならこの中に!」

「良かった……それを……私の胸元に寄せて……」


 あたしは夏の胸元に箱を添えてあげた。


「これでいいんだな!?」

「うん……次は……二実がその箱に……

口付けを……して……」

「そ、そんな事でいいのか?」

「私を……信じなさい……」


 ちょっと恥ずかしいけど、

今はそんな事気にしてる場合じゃない!


 早く口付けして夏を助けるんだ!!


「夏……ちょっとだけ目を瞑っててくれよ。

流石に間近で見られるのは恥ずかしいから……」

「うん……瞑っとくから……」


 そう言って夏は辛い筈なのに、

ニッコリと微笑みながら目を瞑ってくれたよ。


「それじゃあ失礼するぞ……」

「遠慮無く……なさい……」


 あたしは夏の体調がよくなる事を祈りながら

謎の箱にキスをした。


「うわっ、眩しい!」


 するとその箱が強く光り輝き、

まるで花が咲くよう十字に開いたのさ。


「キスされ飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」


 そんなふざけたセリフを吐きながら、

サキュバスは開いた箱からポンっと飛び出して来たのさ。

 さながらびっくり箱のオモチャみたいにね。


 即座にサキュバスは夏の体内へと入り込んでしまったし。


「い、いったいどうなってんだ?」


 あまりの出来事に混乱しているあたしを置いて、

夏は何事も無かったかのように立ち上がる。


「ふう、夢でも見ていたんじゃない?」

「おいっ、しらばっくれるのかよ!」


 流石のあたしでも騙されんぞ!


「私はこの通りピンピンだし二実は何も見ていない。

それで終わりでいいじゃない」

「バカやろう、あたしがどんだけ心配したか知らないだろ!

それなのに今更知らない振りしてあたしを巻き込まないとかさ……。

そんな冗談やめてくれよ!」


 あたしは思いの丈を夏にぶつけてやった。

 すると夏はあたしに思いきり抱き付いてきたのさ。


「夏……?」

「バカ。

こんなわけ分からない事に二実を巻き込みたくないから

今の今までずーっと黙っていたのに……」


 夏の声はとても震えていた。

 あの破天荒な夏が何かに怯える様に。


「でも、やっぱり駄目だ私……。

結局二実が側にいないと自分を制御できない……」

「夏、天使とか悪魔とかそういうのについて何か知っているのか?」

「うん、知ってるけど……ここでは教えられない」

「そうか……」


 まあさっきまで憔悴しきってたんだ。

 もう今日は話せないたろうね。


「その代わり明日……教えてあげるから私の家に来て」

「わかった。その時に全部教えてくれよ?」

「大丈夫、この事に関しては全て教えるから」


 それだけ言うと夏は部室を出て行こうとする。


「ちょっと待ってよ。家まで送るからさ」

「ごめん、今は一人にさせて。

今の顔……二実にだけは見せたくないから」

「あ……」


 これ以上あたしには何も言えなかったし、

夏を止める事なんて到底できなかった。

 とにかく今は構わない事が

夏にとっては一番いいに決まってるから。


◯


「ただいまあ」


 自分家へと帰ったあたしはトーンの低い声で言う。

 すると奥から一葉姉さんがやってきたのさ。


「おかえりぃ――どうしたの、なんだか元気無いわねぇ」

「うん、ちょっと色々あってさ……」

「うーん、私でよければお話し聞くわよ?」


 そうか、礼さんの友人でもある姉さんなら

何か知っているのかもしれないな。


「じゃあ、お願いしようかな」

「うふふ、とにかく先にサッパリしてきなさいな」

「うん」


 とにかく手短にシャワーでも浴びてこよう。


◯


「ああさっぱりした」


 あたしはシャワーを浴びた後、

居間にあるテーブル座席に腰掛けた。


「さあ、お腹空いているでしょう?

お母さんの作り置き料理があるから食べましょうよ」


 テーブルの上には作り置きとはいえ美味しそうな料理がいっぱい。

 で、姉さんは缶ビールを片手に持っている始末である。


「姉さん、2本でやめときなよ?」

「まあまあ、そんな事どうでもいいじゃな~い」


 いいや、姉さんの体のことを思えばそんな事ないっての。


「それよりも、お風呂入って少しはスッキリできた?」

「あ、うん。まあ少しだけ……」


 なんだかんだで最後に冷水浴びたからね。

 頭のモヤモヤはサッパリしたよ。


「それならいいの。

それで今日はいったいどうしちゃったの?」

「うん、なんか現実的じゃない事ばっか押し付けられてさ。

頭が混乱してんの」

「そうなの。

それじゃあその話、聞かせてもらえるかな。

私は意外と幻想的なお話や夢物語とか大好きだから

何か参考になるかもよん」


 確かに姉さんはそう言ったのが好きだった。

 前にもその手の本をクレアさんと語り尽くしてたし。


「じゃあ、聞いてもらおうかな」

「どうぞ」


 あたしはさっきあった出来事を簡単に述べる。


 普通の人には見えない天使ユリリウムのこと。

 ユリリウムを操る学園長のこと。

 あと、夏の中に入ってしまったサキュバスのことを。


 そのかわり夏の事は黙っておいたけれど。


「――というわけなんだ」

「ふぅん……慧さんったら、天使なんか使役してたのね……」


 意外にも姉さんは学園長を名前で読んでたけど、

まあ友達である礼さんの姉に当たるからおかしくはないか。


「というか姉さん、天使とか悪魔の事を何か知ってるの?」

「さあ、知らないわね」

「いやいや、さっきの感じは明らかに……」

「うーん、私も詳しい話は本当に知らないんだけどなぁ。

まあ強いて言えば、幽霊みたいな存在じゃない?」

「幽霊ねえ」


 なんかアレはそう言ったのとは違う感じだけどな。


「でも感触自体はあったし、温もりだって感じたよ?」

「へぇ~。二実は天使に触れる事ができたんだ。

すごい体験をしたものねぇ~」

「ちょっと姉さん。

やっぱりあたしの話信じてないでしょ?」

「あら、そんな事無いわよ~」


 言いながらビールをぐびぐび飲んでるし。酔っ払いめが。


「じゃあさ、さっき言ったサキュバスって悪魔の存在はどう思う?」

「ん? 男の子にエロい事する悪魔のこと?」

「そうだよ。でもその言い方はやめて」


 なんか夏がエロい子みたいな言い方でイヤだ。


「まあまあ、そんなに怒らないの。

そうねぇ……やっぱり非現実的過ぎてよく分からな~い」


 ああ、やっぱりそうだわ。

 姉さんはあたしの話なんてちゃんと聞いてやしないんだ。


「はあ……ごめん姉さん、やっぱりいいや」


 もうこれ以上話しても無駄そうだし。


「ごめんなさいね。言い方が悪かったかしら?」

「んや、姉さんの言う通りきっと夢だったんだよ」


 今となってはそう思わないがね。


「うん。そう、夢よユメ」

「そうだね。じゃあ姉さん、あたし疲れたからもう寝るわ」


 結局母さんの美味しそうなゴハンは喉を通りそうもない。


「そっか。じゃあ二実、最後に一言だけ」


 居間を出ようとするあたしを姉さんは呼び止めた。


「なに?」

「あまり危険な事には首を突っ込まない事。

それが賢くて正しい生き方よ?」


 そう話す姉さんの顔は真剣そのものだった。


「姉さん……やっぱり何か知ってんじゃ」

「さあて、私もそろそろ寝ようかな。明日早いし」

「ちょっと、姉さん!?」


 だけどもよく分からないまま

姉さんはあたしよりも早く上の部屋へと行ってしまった。


「テーブルに残っている料理は

母さんが片付けるよぉ」と、一言残してさ。


「なんだよ、姉さんったら……」


 結局姉さんは何か知ってる風なクセして

あたしに大切な情報をくれなかった。


 もういいや。

 少しイライラするし残ってる料理全部食べて寝てやる!


◯


「うう、胃がもたれた……」


 翌日の朝9時、あたしは起床後にお腹を抱えて苦しんでいた。

 理由は昨日の夜に食べ過ぎたせいね。

 恥ずかしながら少しお腹も出てる。


「バカだなあ、あたし……」


 まあいいや。

 おかげでお腹はあんまし空いてないから

朝は食べずに夏の家へ行こう。


 そうしてあたしは出かける支度をし、

母さんに一言告げてから家を後にしたのさ。


◯


「うげ、まだお腹が気持ち悪い……」


 歩道を歩くごとに胃へダメージが来る。

 別にお腹は壊してない筈だけど

辛くて下を向いて歩かざるを得なかった。


「はあ、流石にあの時間に食べ過ぎたのはまずったなあ。

いくらイライラしてたとしてもさ」


 思わず独り愚痴をこぼしてしまう。


「うええ……むぎゅっ!?」

「あっ?」


 全く前を意識せずに歩いてたもんだから、

知らない人の逞しい背中に頭をぶつけてしまった。


 振り返ったそのおっさんは強面だし、

目が殺気立って鋭くガタイがかなりいい。


 つまりはヤクザかチンピラって奴だ!


「おいコラ!」

「ひっ……?」


 鋭い眼光と強烈な怒声があたしを萎縮させる。


「お前両目ちゃんと持ってんのかぁ?」

「あの、その……」

「とりあえずなんか身分証見せろやぁ!」

「あ、あたしそんなの……」

「見りゃ分かんだよ、学生だろ!」

「ひっ、い、今見せますっ!」


 やたらと捲し立てるヤクザを前に、

あたしは気が動転してた。


 見せなくてもいいのに

震えながらズボンのポケットにしまっていた生徒手帳を

なんとか取り出そうと奮闘してしまったのさ。


「ご、ごめんなさい……手が滑って……」

「おう、早くしろテメエ」


 とにかく見せるだけ見せて、この場を逃げなきゃ。


「生徒手帳……あっ!」


 生徒手帳を取り出すと、

ヤクザは勢いよくあたしの手から奪い取ってくれた。


「ヤダ、返してくださいよ!」

「――チッ、おめえ女かよ。まあいい、とにかく来いや」


 このヤクザ、生徒手帳を見るまであたしを男とでも思ってたのかよ。

 なんか腹立つけど今はそんなところではない!


「やっ、ちょっと手を離してって!」

「おう、おとなしくついて来い」


 まずい、このままだとどこかに連れてかれて何かされてしまう。

 そんなのヤダ……誰か助けて!


「ちょっと、あなた?」

「あっ?」

「あ……」


 そんな時、

とっても頼もしい女の子――夏がヤクザの肩に手を乗せた。

 それでヤクザの気が緩み、

あたしの手を握る力も弱まっていた。


「離してよ!」

「おい!」


 だからあたしはヤクザの手を振り払い、

夏の背中に隠れるため思いっきり駆けたのさ。


 おかげであたしは無事に夏の背中に移動できたよ。


「夏、あたしマジで怖かった……」

「分かってる。とにかくおとなしくしてなさい」

「うん……」


 それでヤクザはカンカン。かなり切れてるっぽい。


「てめえ、余計な事しやがってよ」


 ヤクザは夏の顔をキッと睨んでいた。

 だけど夏は怯える事なんて無く、

ニッコリと微笑みながら続ける。


「ねえ、お兄さん」

「あ?」

「その生徒手帳をこの子に返して

今すぐお兄さんの故郷に戻りなさい。

そしてこの女の子の事は一生忘れるの。

いいかな?」


 それから何を思ったのか、

夏は満面の笑顔で命令しやがった。


「おい夏、そんな事したら――」

「お、おう……帰ってやるよ」


 ヤクザはブチ切れる――かと思ったら

顔を赤く染めながら、

あたしに生徒手帳を渡してから

照れ臭そうにどこか行ってしまった。


 結果、あたし達二人は無事だったよ。


「ホッ、どうやら効いたみたいね」

「な、なんだったんだ一体……」

「ただ笑顔で命令しただけ。それ以外何もしてないから」


 夏は真顔でそう語るけどさ。


「いや、ありえないから!」

「まあどうでもいいじゃない。

それよりも二実がうちに来るのが遅いから

迎えに行こうとしてたのよ?」

「うん、それはゴメンだけど」

「ふふ、とにかく無事で良かったわ。

私の家まで行く手間も省けたし早く行きましょうか」


 そう言って夏は、夏の家とは反対の道を歩き始めた。


「ちょっと夏、どこに行くのさ?」

「ついて来れば分かるわ。

それとあまり人に姿を見られたくないから急ぐの」

「分かったよ!」


 だからあたしを置いてかないでってば!


◯


 あたしは今、見たことも行ったこともない

草木が生い茂る林道を歩いている。


 夏の背中に着いてね。


「なあ夏、この先に何かあるのか?

なんか不穏なんだけど……」

「もちろんあるよ。

かなり入り組んでて面倒だけど、

ここからでないと入れない仕組みになってるから」

「それってどういう……」

「すぐに分かるから私を信じて着いてきて?」

「うん、分かったよ」


 あたしは夏を信じて、特に疑うことなく着いて行った。


「ねえ、二実?」


 歩きながら夏があたしに呼び掛ける。


「どうした?」

「二実はさ、初めて一太郎を見てどう思った?」

「一太郎って誰?」

「あっ、ごめん。二実の中にいる男の子の事なんだけど」


 ああ、インキュバスの事か。


「ふうん、この子の名前は一太郎って言うのか」

「ええ、まあ付けたのは私なんだけど」

「えっ!?」

「それも後で話すからそんなに驚かないでよ」

「そう言われてもなあ……。

まあ、それなら一太郎って呼ばせて貰おうかね」

「うん。そうしてくれると一太郎も嬉しいと思う」


 夏は最高の笑顔をあたしに向ける。

 思わずあたしの顔も綻んじゃうよ。


「あははっ!

でさ、さっきの質問の答えだけど可愛い男の子って思った」

「そうでしょうね。一太郎は本当に可愛い男の子だもの。

それにとても優しい男の子だよ」

「あれ、さっきから思ってたんだけど

もしかして夏はこの子と会話したことあるの?」

「ええ、もちろんあるわよ」


 でもそれだと矛盾してしまう。


「えっとさ。学園長が言ってたんだけど、

一太郎はまだ目覚めてないんだよなあ?」

「うん、確かに今は二実の中でグッスリ眠っているね。

幸子からもそう教えられてるし」

「まさか幸子って、夏の中に入っていった女性のこと?」


 あたしはサキュバスを悪魔とは言わなかった。

 助けてくれた人を悪魔呼ばわりしたくないし。

 それに夏だって知り合いが悪魔呼ばわりされるのは、

やっぱりイヤだろうからね。


「そうだよ」

「その名前も夏が付けたわけ?」

「もちろん。何か文句でもある?」

「いや、別に無いけどさ」


 でも、いかにも悪魔っぽい格好した方達を

その名で呼ぶのはちょっとだけ笑いそうになるんだけど。


「うん。話を戻すけど実は一度、

一太郎は目を覚ましているの」

「えっ、そうなの?」

「そうだよ。

それは二実が中等部2年生の頃だったんだけど……。

うん、それよりも着いたみたいね」

「あっ、ここは――」


 あたし達が話しながら辿り着いた先には

立派なんだけどとても古びた神社が奥にある。


 そしてあたし達の目の前には大きな石の鳥居が1基。


「うそ……こんな辺鄙なところに神社があるわけ?」


 辺りは生い茂る森に囲まれて何もない。

 なのに葉っぱは一枚も落ちて無いし、社には埃一つない。


「そうだよ。

しかも、みっちゃん以外は足を踏み入れてはいない筈だから」

「みっちゃんって、まさか……」

「ヤッホー、ふ~みちーん!」


 そして拝殿の隅っこの方から、

夏がみっちゃんと呼ぶ

あたしの生意気な妹――三香が元気に手を振りながら、

呼ばれたくないアダ名であたしを呼びやがった。


 しかも何故か巫女装束を着てやがるし。


「おい三香あーっ!

朝いないと思ったらお前、

こんなところで何してんだよおー!」


 あたしは大声でそう叫びながら鳥居をくぐり、

社に向かってズカズカと歩いていった。


「あっ、コラ二実!」


 あたしは苛立ってたせいで夏の呼び掛けを無視してしまった。

 だから神社目掛けて歩くのみさ。


 そんで神社のすぐ前に辿り着くと、

愉快に笑う三香があたしを見下ろしてくれた。


「やあ、ふみちん。

まさかこんなところで会うとはねーっ」

「だからその呼び方はやめろって!」

「まあまあふみちん、そんなにカリカリすんなよー。

とにかくこの子でも見て落ち着きなってー」

「あん?」


 三香は床から何か黒いもふもふしたモノを持ち上げた。


「じゃーんっ!」


 いや。


 それはあたしを慰めたり癒してくれたり、

はたまた夢の中で女の子に変身してくれたりした

正体不明な謎の黒ネコだったよ。


「お前、そのネコ……」

「ふみちん、この子に見覚えあるんでしょ?」

「ああ、間違いなくあるが……降ろしてやれば?

嫌がってめちゃくちゃ暴れてんぞ」

「フミャー! フシャー!」

「あわわ、あ、暴れないでよー……うわあっ!?」


 黒ネコがあまりにも大暴れした結果、

三香は尻から痛そうに倒れてしまった。


 ざまあみろだぜ。


 そんで暴れた黒ネコはあたしの懐にふわりと飛び込んできた。

 だから頭を撫でてやったぜ。


「おーっ、よしよし。可愛いやつだなあ」

「フミャ~ン」


 しかも甘えた声も出してくれて、ホント可愛いぜ!


「全く二実ったら……怒りに任せて勝手に行かないでよね」

「あ痛っ」


 呆れ顔の夏がこちらに来ると、

あたしの脳天を軽く小突いてくれた


「うう、痛いじゃないか……」

「勝手な行動したバツよ。

まったく……神様があなたを受け入れてくれたから良かったものを」

「なんだよ神様って……」

「決まってるじゃない。ここの神社の神様よ」

「いや、その神様の名前を知らないんですけど……」

「そうだったね。

ここの神様の名前は……うん、

私も教えてもらってなかった」

「なんだい、それは!」

「あははは、まあいいじゃない。

割とここの神様は寛容なお方だし」

「あのなあ……」


 いや、それよりもさっきの話を聞きたい。


「なあ、中2の時に一太郎が目を覚ましたって……」

「ちょっと待ってね二実、その前に着替えてくるから。

大丈夫、すぐに戻ってくるから」

「へっ?」


 夏はそのまま拝殿の中へ入っていってしまったのさ。


「なんだよ着替えるってさ……」

「あー、ふみちんは知らないのかー」

「三香、お前は知ってんのかよ?」

「もちろん!」

「早く教えてくれよ」

「えっとねー、なっちゃんはこの神社の巫女さんなんだー」

「はっ? それってどういう……」

「つまりはそういう事だよ。二実」


 本当にすぐに出てきた夏の姿は――

確かに巫女装束を身にまとっていた。


 そんで両手でお祓い棒を握りしめている。


 その姿はあまりにもサマになりすぎて、

本当に巫女のようにしか見えなかったよ。


「あの……夏なのか?」

「バカね。どこからどう見ても私――日向夏じゃない」

「うん、まあそうなんだけど」

「それで、中2の時に一太郎が蘇った話を聞きたいんでしょ?」

「そう、それが聞きたかったんだよ!」

「それじゃあ、耳の穴かっぽじってよく聞きなさい。あと覚悟しなさい」

「おう!」


 ついにあたしだけでは知る由も無い過去話が聞ける時が来た。


 まあ話を聞いて今まで通り、

楽しく笑ってられるかは正直わからないがね。

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