第8話 マイン・オールドヒストリー
「まずは二実の過去のことを話させてもらうね」
「えっと……うん」
なぜ今更そんな事を。
そうあたしは疑問に思いつつ、
ちょっぴり悲しそうにする夏の顔を見ながら頷いた。
夏はチラっと三香の様子を伺い、
三香もうんと頷いてから話を始めてくれた。
「二実、あなたは中等部2年生の頃って
とくに勉強が捗らなくて悩んでたでしょ?」
「ああ、うん。マジでその通り」
「それでひどく落ち込んだ挙句、
無気力感を覚えたんじゃない?」
「えっと……そうかも」
あれ、でも少しだけ記憶がおかしい。
なんか一部欠けてるような気がする。
「そんな困った顔しなくても大丈夫。
二実の記憶は少し封じられてるだけだから」
「えっ……?」
そんなことを聞くと、
あたしはなんとも言えない気分になる。
「記憶が……封じられてる?」
あれ、もしかしてこれってこの間のハガネちゃんみたいな。
でも確かあっちは消すとか言ってたな。
「ええと、それは――」
「それはわたしが代わりに説明するよ、なっちゃん」
「ごめんね、みっちゃん……」
しどろもどろする夏を庇うためか、
三香が申し訳なさそうな表情であたしに目を合わせてきた。
「三香が……説明?」
「うん。
だってお姉ちゃんの記憶を封じたのは……わたしだもん」
三香からそう聞いてあたしに頭痛が走る。
「痛っつ……」
閉じ込められてた大切な記憶が……どんどん蘇っていく。
○
あれはあたしが中2の始まりから終わりまで全部だったかな。
当時あたしは勉強が心の底から嫌いで仕方なかった。
まあ今も少しあるんだけど。
しかもそんな中、
中3に上がる時にある程度取らないと
補修地獄が待っていると当時の先生から言われ、
補修を受けたくない一心でできる限り勉強に努めてたのさ。
まあ受けたくない理由は、
部活に専念したり、
夏と遊ぶ時間が欲しかったからなんだけど。
それでもあたしの点数は上がる事はなかった。
父さん、
とくに母さんから努力が足りないんだと強めに叱られてたよ。
あたし的にはこの一年だけは相当頑張ってたんだけどね。
それで一学期の終わり頃だったかな。
叱られすぎて頭に来たあたしは
小学生みたいな暴言を母さんに吐き捨て、
夜だろうとお構いなしに家を飛び出したのさ。
そんで誰もいない河川敷にある橋の下に隠れちゃったんだ。
その時あたしは飛び出した事にかなり後悔しながらも
帰るもんかと意地になり隠れ続けたのさ。
我ながら小さすぎて恥ずかしくなる。
それから30分ぐらい経っただろうか。
あたしの前にやって来たのは泣きそうな顔した三香だった。
三香はあたしに「お姉ちゃん、とても辛そうな顔してる」
って言ったもんだから、
あたしは苦笑いしながら「そんな事ないぞ」と口にしたさ。
そんな事ないわけないけどね。
それから一緒に家に帰ろうと三香に言われても、
意地になってたあたしは帰ることを拒んだわけ。
すると三香は
「じゃあお姉ちゃん、
辛い記憶ならわたしが消してあげるから」と笑顔で言われ、
あたしは大いに笑いながら
「じゃあ消してくれ」と頼んださ。
その時は冗談だと思ってたけど、
三香が記憶を封じるための
大きなピコピコハンマーを取り出してから、
あたしは目を丸くしていた。
「お姉ちゃんごめん!」と三香は辛そうな顔で言いながらも、
それで思いきりあたしの脳天をビコンさ。
その後のことは気絶しててよく覚えてない。
気付けば家のソファで横になってたわけだ。
それからあたしは反省して維持になるのをやめ、
勉強の時間を更に増やしたんだけど、
それでも成績は少ししか上がらない。
そんで2ヶ月も経ち、
二学期の夏休みをむかえても遊ばず勉強尽くしだから、
あたしのフラストレーションは溜まる一方なわけ。
でも一学期終わりの時みたいに
母さん達に暴言は吐きたくないから
我慢して勉強に励んだのさ。
そんな事を続けたせいか知らないけど、
だんだんとどうでもいいって気持ちが増したのかな。
もう全てを投げ出したいと、日に日に感じて来たわけ。
そんななかでどうしても解けない問題があったから、
いつもの感じで夏に手助けを頼んだんだけどなぜか断られた。
その時の夏は空手の大会前もあって、
焦ってイライラしてたから断ったみたい。
あとで事情を軽く話したら何度も必死に頭を下げてくれたよ。
まあ話を戻すけど、
断られてからあたしの中で何かが弾けた。
家に帰るまでにあたしはブツブツ何か言ってたはず。
言葉は思い出せないけど。
それから家に帰ると、
今以上に遊び盛りな三香が一緒に遊ぼうとせがんできた。
それと聞いてあたしはどうでもいいやと思いつつ
遊ぼうかと考えたけど、
結局勉強の方を優先してしまった。
その時の三香の淋しそうな顔が
あたしの心を揺さぶっていたけど、
それでも出来の悪いあたしが成績を上げるためには
勉強するしかなかったからね。
だいぶキツい精神状態で勉強を続けていると、
あたしの中にいる男の子――
一太郎の声がボソリと聞こえてきた。
「そんなに辛いなら好きなように遊ぼ」って感じでね。
初めあたしはその声をただの空耳かと思った。
だけどその声は
「僕の声、聞こえてるよね?」
と続けるもんだから
答えを返さざるを得ないわけ。
「何さ、君は一体誰なの」って囁くと、
「僕は君の中にいるよー」なんて返ってくるから
あたしは混乱を極めてたのさ。
それでも
「そんな事よりも一緒にお外で遊ぼう。
起きたばかりで退屈なんだ」
なんて言うもんだからあたしは少しイラついた。
「悪いな。今あたしはいい成績取らなきゃならないんだ」って
投げやりに言うと、
「成績よくなると何かいい事あるの?」と返ってきた。
一太郎の言うように、
別にあたしの成績が上がったところで何が変わるわけでない。
ただ、やらなければいけないのだ。
とまあそんな感じで伝えると、
「へー、人間ってよくわかんないね」という軽い返答さ。
それで呆気に取られたあたしは何も言えなかった。
「ねえ、お外でいっぱい遊びたいー!
そのほうがおねーさんも楽しいよー!」
だんだん頭の中がうるさくて仕方なくなり、
怒ったあたしは思わず
「ああもう、うるさいな!
ちょっと黙っててくれよ!!」
と叫んでしまった。
だけどそれがいけなかったのよねえ。
あたしの怒声をきっかけに
一太郎は大声で泣き叫びやがったのさ。
「うあああーん!
おねーさんのバカ!
外で遊びたいだけなのにー!」
もう本当にうるさくて仕方ない。
しかもあたしの怒声を聞いて
隣の部屋にいた三香もやってくる始末。
「お姉ちゃんどうしたのっ、大丈夫!?」
「あ、ああ、大丈夫だ……うっ、頭が痛い!」
それはもう割れそうになる程に。
でも一太郎の泣き声はピタリと止まっていた。
「……お姉ちゃん、
遂に悪魔が目覚めちゃったんだね?」
「あく……ま……?」
何言ってんだこいつと思いながらも、
鬼気迫る三香の顔を見てツッコミすらできなかったさ。
「……アリギエル、封呪の儀式の準備をお願いね!」
「はいはい……ったく、めんどくさいわねぇ」
そこには三香の隣に派手だが三香と同じぐらいの身長、
短めの金髪ツインテールを垂らし、
雪のように白い肌をした吊り目の女の子が
音もなく姿を現した。
そいつは首下から股の間辺りまで赤タイツを包み、
その上に大きな黒マントを羽織っている。
背中には大きな黒いコウモリの翼、
お尻には長い黒しっぽ、
幼い顔の口元には鋭く少し長い八重歯が二本。
それはまるで吸血鬼のような印象をあたしに与えてくれたよ。
「だ、誰だよその子……」
「ごめんねお姉ちゃん、
今は少しでも早くお姉ちゃんの中の悪魔を
封印してあげなきゃだから!」
あたしの話を聞こうともせず、
三香は可愛らしい桃色ステッキの先端をあたしの胸に向けた。
「だ、だから何を――」
「悪魔さん、魔法少女三香が命じるわ!
現世に真実の姿を現しなさい!」
まったくもって現実的でないセリフを三香が吐くと、
あたしの胸が熱くなり苦しくなってきた。
「ぐっ……な、なんだこのキツさ……っ」
それは学園長が無理やり、
あたしの中から一太郎を取り出したのと同じ苦しさだったよ。
胸の苦しみが取れたと思った時には、一太郎が隣に立ってたんだもん。
それでも当時のあたしは初めてな事もあって、
ひどく疲労して床にぶっ倒れてたけどね。
しかし中2の時は体の成長が乏しかったのか、
女の子らしい見た目に戻ってるなんて思いもしなかった。
「はあ……はあ……いったい何……この男の子……誰なの?」
「お姉ちゃん、この子は悪魔インキュ――」
「くすくす、僕を出してくれてありがとー!」
三香が話しているのも無視して、
一太郎は嬉しそうにお礼してた。
「そうだよ、また封印してあげなきゃだからね」
「そっか、つまんないけど仕方ないねー」
「いやっ、なんか君ら言ってる事軽くないか?」
そりゃもう、
さっきまでの妙に殺気立った雰囲気が嘘のようにね。
「まあまあお姉ちゃん、
この子は純粋にわたし達と遊びたいだけなんだってば」
「そーだよおねーさん!
僕、またいっぱいいっぱいおねーさん達と遊びたい!」
またってなんだとあたしは思いつつ、
気にせずにあたしの事情をここにいる皆に伝える。
「はあ……だけど勉強しなきゃ本当に赤点だしな……」
「そこは大丈夫っ!
そんな時のためになっちゃんを呼んでおいたよー!」
「おまっ、なに勝手なことを!」
もうね、本当に焦ってたよあたしゃ。
だって夏はこういうのとは無関係な人だと思ってたもん。
「ふふ、遊びに来たわよみっちゃん」
「おまっ、なんで窓から入ってきたよ!
しかも誰その美しい女性!」
隣には男を魅了する力を持つ
悪魔であるサキュバス――幸子が
当然のようにいたしな。
「わあっ、サチお姉ちゃんだ!」
「よっ、イッちゃん。元気してたー?」
一太郎は笑顔で、
意外と軽い調子な幸子の胸に遠慮なく飛び込んでた。
「サチお姉ちゃん会いにきてくれたんだ! 大好きー!」
「よしよし、
今夜だけだけど前みたいにいっぱい皆と遊ぼうな~」
「うんっ!」
ショタっ子の無邪気な笑顔を見てると、
あたしの心も癒されてくる。
本当にそう思った。
「ね、お姉ちゃんも一緒に一太郎くんと遊ぼー!」
「……ったく、仕方ないな!
今日はいっぱい遊ぼうじゃねえか!」
「わーいっ、おねーさんも遊んでくれるってー!」
うむ、本当に心から嬉しそうだったね一太郎は。
「ていうかさ、幸子とか一太郎って名前なんだ。君たち」
「そうよ、ご主人様に付けてもらったからねぇ」
「そーだよおねーさん、
夏おねーさんが付けてくれたのー!」
「おいおい夏っ、いつの間に付けたんだよマジで」
とくに一太郎の名前を付けた時のことを
あたしは知りたがってたね。
「ええ、ちょっとみっちゃんに頼んでね。
あなたの夢の世界に潜り込んで
一くんと御対面した時に着けたのよ」
「はえっ!?」
これはさっき思い出したんだけど、
テーマパーク『宇宙世界』に
三香と二人きりで遊んでた時のこと。
宇宙世界にある3Dプラネタリウムでぐっすり寝てたあたしは
とんでもなくおぞましい夢を見てたのさ。
そこに漆黒ゴスロリ衣装を着た三香が乱入し、
いろいろあって中の化物を倒してくれた。
まあその化物の正体は、
確かあたしが絶望した時の名残りとか
どうとか言ってたっけな。
純粋に忘れたわ。
つまり夏のやつもそんな感じであたしの夢に
入り込んで来たんだろう。
「ていうか人の夢にそんな軽ーく入り込むなんてえげつない!」
「ごめんね二実、
でもこうしなければあなたは一くん……いいえ、
一くんの魔性に心を支配されてしまうんだもの」
その時は夏の言ってる意味が全然分からなかった。
ただ、辛そうに話していた事は覚えているけど。
「なんだよそれ……どういう事だよ?」
「つまりねお姉ちゃん、
一太郎くんはわたし達とは違う存在だって事なんだよ?」
「それが分からないんだって!
見た感じ普通の男の子じゃないか、
何が違うってんだ」
でも今思えば
頭に羊みたいな角の生えた人間なんているわけないわな。
この時はあたし自身が
生理的に受け付けてくれなかったのかもね。
「ねえ……そんな事より早くあそぼー。
僕つまらないよ……」
一太郎はつまらなそうにしてて、早く遊びたがってた。
「うん、そうだね。まずは遊ぼっかー!」
「そうね。
一くんの前でこんな話するのも酷だもの」
「そうよそうよ、
ワタシも早くイッちゃんと遊びたいわぁ~!」
なんか皆も一致団結してるし。
「ちょっと早くしてよね。
封呪の準備してるアタシが一番キツいんだからさぁ」
アリギエルと名乗ってた悪魔|(?)は、
なんかかったるそうだった。
「ああうん。
まあ……よく分からないけど早く遊ぼうぜ!」
「わーいっ!」
「じゃあ早速、わたしの夢の世界に案内するー!」
「えっ?」
夢の世界ってなんだよと思っていると、
アリギエル以外の全員が床に寝そべり始めたのさ。
「ほら、お姉ちゃんも早く寝そべるのー!」
「ああうん……」
仕方ないからあたしも寝そべらざるを得なかったよ。
「さあ、開けわたしの心の扉。
この部屋に寝転がる人達を夢の世界に導いて!」
チラリと横目で三香の様子を伺ってると、
ステッキを天井に掲げてそんな変な事言ってたね。
だけどその言葉を聞き終えた途端、
あたしの部屋は何処かへと消え、
たくさんのアトラクションが盛り沢山の
巨大な遊園地が広がっていた。
かなり驚いたあたしは即座に立ち上がってしまったよ。
「な、なんだよここは!」
「えへへ、ここはわたしの夢の世界。
楽しい楽しいスリーポプリ遊園地だよー」
「そ、そんなバカな!
だってさっきまであたしの部屋だったじゃないか!」
驚いて声を荒げるあたしの肩を夏がポンと叩く。
「まあいいじゃない。
今は夢だと思って素直に楽しもうよ?」
「でもさあ……」
更には超笑顔が眩しい一太郎が、
あたしの手を引っ張ってきた。
「わあっ、おねーさん早く遊ぼーよーっ!
僕あれに乗りたいー!」
一太郎が指差したのは、
大きいけれど緩めなジェットコースターというか、
アトラクション系の乗り物だこれ。
これなら絶叫マシン苦手なあたしでも余裕だぜ。
「うん、まあいっか……。
よしっ、遊ぼうか一太郎!」
「うん!」
あたしは一太郎と手を繋ぎ、
真っ先に謎のアトラクションへと向かった。
「ああーっ! ワタシも一緒に行くー!」
なんか幸子の悔しそうな声も聞こえてたけどさ。
「待ちなさい幸子、
今は二実と一緒に遊ばせなさいって。
あの二人は今初めて心を合わせたんだから」
「むう……仕方ないなぁ」
まあそれを空気の読める夏が止めてた訳だけど。
「ねーねー幸子さん。
一太郎くんがお姉ちゃんを飽きるまで、
わたしとあっちの超絶叫コースター乗ろうよー」
「あっ、楽しそうな絶叫マシンだね。
じゃあ行こっか三香ちゃん!」
「うんっ!」
でだ、
なんだか気があってるのか幸子は三香と一緒に
軽く東京タワーを超えそうなくらい高いレールの敷かれた
絶叫マシンに行ってしまったよ。
「うーん、幸子って現金なヤツだなあ」
「まあそうね、悲しい事に否定できないわ」
夏も呆れて眉間を指で抑えてたし。
「それで夏は一人余りだけど、
あたし達と一緒にアトラクション乗る?」
「一緒に乗ろーよっ、夏おねーさん!」
「うん、そうだね。一くんがいいならいいよ」
「えへへ、じゃあ皆で手をつなごー!」
「おっとっと」
「うふふ」
一太郎は左手であたしの手を、
右手で夏の手をかなーり嬉しそうに握ってた。
「えへへー、まるでお父さんとお母さんができたみたい!」
悪魔とは思えないほど無邪気なセリフが、
あたしの心をくすぐりまくる。
「あはは、そうだなあ。
つまりあれだ、夏はあたしの嫁ってヤツかあ?
なあ夏……夏う?」
なんか夏の顔がめっちゃ赤い。
「な、ななななによ二実!」
しかもめっちゃ動揺してるし。
「いや、夏はあたしの嫁だ――痛っ!!」
夏のヤツ、
体を捩じらせてでも
空いた手でバチコーンとあたしの後頭部を
いきなりぶっ叩いてきやがった。
この一撃は本当に痛かった!
「バババ、バカ! 誰があなたのよ……よよ、嫁なのよ!」
「うぐ……痛え……。
ここまで全力でぶん殴って否定しなくてもいいだろ……」
「あっ、違……別に拒んでるわけじゃ……」
ううむ、
いつもの様にちょっとした冗談を言っただけのハズなのに
どうしてそこまで落ち込むのか。
なんか気まずくなるじゃないか。
「ん? 夏おねーさんは二実おねーさんの事が好きなの?」
ああ、一太郎がとても無邪気に質問してるし。
「あ、ああああのね!
べ、別に好きとかじゃ……」
「それじゃー嫌い?」
「き、嫌いなわけないよ……」
「じゃあ大好きなんだっ。
僕と一緒だね、夏おねーさん!」
「う、うん……一くんと同じだよ……」
くうーっ、
二人から大好きとか言われるとこうグッとくるものがある。
「もうーっ、あたしだって二人とも大好きだぜえ!」
だから思わず二人の前に移動し、
まとめて抱きしめてやったのさ。
「きゃっ……」
「えへへ、嬉しいなー!」
「……うん、私も嬉しいな」
「ははは、二人ともいい笑顔だな。
じゃあさ、とにかく今日は遊び尽くそうぜー!」
「うん!」
「ええ!」
それからあたし達は今日いっぱい、
嫌な事なんて全部忘れて一生懸命に遊んだよ。
三香が案内してくれた遊園地は
そりゃもう遊ぶ所が多すぎたからね。
30個ぐらいあるアトラクションのうち、
絶叫マシン系以外は全部周っちゃったよ。
その過程で一太郎の嬉しそうな笑顔も見れたし、
いつもクールな夏だってホント楽しそうにはしゃいでた。
だいたい半分ほど周った所で三香や幸子と合流し、
更に騒がしく遊んだしな。
とにかくもう、
この時は快楽の絶頂みたいな気分だったよ。
だけど楽しい時間はすぐに終わるもんでさ。
窮屈なあたしの部屋に戻ってみれば、
とうとう一太郎とのお別れの時がきてしまったのさ。
「帰ってきたようね、おかえり」
「ただいまアリギエル。
ゴメンね、わたし達だけ楽しんじゃって」
どうやら三香が一番、
アリギエルに対して申し訳なく思ってたらしい。
「あたしからも謝っとくよ」
「私も謝るわ、そしてありがとう」
「まっ、ワタシからも一応謝るか。
ゴメンちゃい」
幸子は本当に謝る気があるか分からないが、
概ねみんなが申し訳ないと思ってた。
「スー……スー……」
一太郎は遊び疲れて、
夢の世界から戻ってもぐっすり寝てたけどね。
「まっ、別にいいわ。
アタシは全っ然気にしてないしー」
と言いつつ、言葉にトゲがありまくりじゃないか。
「それにしても……
イイ感じにフミの絶望を消したじゃない三香ぁ~?」
そう言えばあたしは勉強がイヤで疲れてたんだった。
「うん。
お姉ちゃんにはいつまでも楽しい気分のままでいて欲しいもん」
「まっ、これからちょっと暗い気分になるかもよ~」
「それは……仕方ないよ。
これも一太郎くんの力を暴走させないためだもん」
「そうね、本当に二実には申し訳ないけれど……」
「これもイッちゃんの安全のためだし、
しょうがないってぇ」
なんだろう、
なんかみんながお通夜モードみたいですごく悲しいぞ。
そんなのさ、
駄目元でも聞いてみるしかないじゃん。
「なあ、本当に一太郎を封印しなきゃ駄目なのか?」
「うん……。
せめてお姉ちゃんが
豊穣女学園を卒業するまでは絶対に……」
「そうだよ。
一くんの魅了の力はそれ程までに恐ろしいんだから……」
「そういうわけだけど、まあ大丈夫!
また来年になれば封印が解けて、
こうして遊べるわけだしさぁ!」
どうやら封印とは言っても、
実際には時が経てば簡単に解けてしまうものらしい。
「そっか。
一年に一回しか会えないなんてなんか悲しいけど、
それも仕方ない事なんだな」
「うん……というわけでお姉ちゃんはここまで」
「はっ? 何がここまでなの?」
三香以外は何も口を挟まず、
あたしから目を逸らして黙ってた。
唯一あたしと正面向いて話す三香の両手には、
例の大きなピコピコハンマーが。
「お、おいっ、その物騒なハンマーはなんだよ!」
「ゴメンね……お姉ちゃん!」
三香が謝りながら
両手でピコピコハンマーを振り下ろした後の事は
もう何も覚えてないや。
朝になってて、
ベッドで目が覚めたという記憶だけだったよ。
○




