第28話 小百合さんの保健委員ライフ ― 前編
三香と宇宙世界で遊んだ5日後の金曜日、
日時は10月26日の放課後でさ。
あたしはクレアさんに島百合団での別の仕事を頼まれて
高等部の保健室に来てるわけ。
そんであたしの隣には超美人でスタイル抜群な
保健委員長――峯雲小百合さんがいるんだけど、
この子のお手伝いをいなくちゃいけないわけさ。
で、この人が三香の噂のお友達でもあるらしい。
つうかあいつ、こっそり小百合さんの部屋にも
泊まりに行ってるしでやりたい放題過ぎる!
まあ、一応母さんには許可取ってるらしいが……
なら尚更あたしの姉としての威厳ゼロじゃないかよ!
まあそれはいいとして、相変わらず小百合さんは
腰まで届く綺麗な長い黒髪をしてんな。
背中の途中で後ろ髪を交差させてなんかお嬢様っぽいし。
で、身長は160センチくらいなのに白衣がとっても似合う。
たぶん白衣から不自然に膨らむ胸が
彼女の魅力を思いきし引き出してんだろうね。
「羨ましいばい!」
「あの……どうかなされましたか?」
ほげっ、つい本音が声に!
「な、なんでもないでえす!」
「そうですか、それなら良かったです」
そんでこの屈託のない笑顔……。
母性や……これが本物の母性ってやつや!
「それではええと……二実さん、
私はこちらの会計書類を片付けますので、
二実さんはこちらの新規部活承認書にこの不採用印を……」
ちょ、ちょっと待って小百合さん!
「えっと……あたしがこれ押しちゃってもいいの?」
「はい、こちらの部活は軽い気持ちで作ろうとしてる方達の
物ですので」
なるへそ、それなら遠慮なく押させて貰おうかな。
ええと何々……。
「君と恋愛しよう部……?」
とにかくアウトだな、不採用印をポンっと。
うむ、否を丸で囲んだデカい印が目立つなあ。
「ええ、そう言った部活ばかりが
その承認書に書いているのです。
おおよそ100枚ほど有りますが、
全て生徒会長が目を通してる筈です」
うげ、なんかぶ厚いと思ったらマジでそんだけあるのか……。
「ええっと……」
あっ、マジで理由も書いてある。
何々?
「恋愛は外でやってくれって書いてんね」
「ふふ、生徒会長が直々に書いてくれていますので
私達も非常に助かるんです」
喋りながらも小百合さんは
すごい速さで会計書類を片付けてゆく。
つうかなんだ、会計書類の束はこの不採用印を
押すだけの紙と比べて10倍ぐらい分厚いんですけど!
「ええと、小百合さん?」
「はい、なんでしょうか?」
「その……なんでそんなに会計書類が大量にあるんです?」
「そうですね、生徒会で使用する公費と
正式に決められた一部の部活費、
レクリエーションなどに使う費用とその他もろもろと、
それはもうたくさん有りますから」
うん、なんかすごい事をサラリと言いのけてるけど
あたしには縁のない事に違いない。
「あははっ! すごすぎて言葉が出ないやあ。
というか、そういうのって先生とかがやる仕事じゃないの?」
なんせあっちは給料貰ってんだ。
こんなとんでもねえことを
生徒にタダ働きさせるとかおかしいもん!
「そうですよね。
私もそう思うんですけど、生徒達が関わる事は
全て生徒間で片付けてと言う
学園の方針が私達をそうさせているのです」
「でもだよ小百合さん、
あまりにも量が多すぎて生徒会辞めたいとか思わないの?」
こんな仕事量、あたしなら即座に辞めるがな!
「いいえ……どちらにしても誰かがやらなくては
いけない事ですから」
「そっか」
うむ、小百合さんは本当に優しい子なんだな。
だって、確かに小百合さんがこの仕事をやらなければ、
その分他にしわ寄せが来るんだもんなあ。
「でも流石に……その量の会計書類は多すぎるし、
そもそも保健委員の仕事の範疇を超えてるじゃん?」
「そうですよね、でも園内管理委員もとても忙しいですからね。
これと同じくらいの一般書類を片付けないといけないですし」
え、園内管理委員……?
なんかすごそうだけどあたしゃ全然知らんのだけど。
「えっと小百合さん、仕事中ゴメンけど聞いていい?」
「はい、なんでしょうか」
「園内管理委員って、どんな仕事してるのん?」
パッと聞いただけだと園内にあるガーデニングとか
管理してそうなんだけどな。
「そうですね、簡単に言えば学園内にある
生徒達が使う備品や施設などを
書類上で管理するのが仕事ですね」
「うへえ……」
だから会計なんかもそこがするワケかよ!
「そこは会計の他に総務と簡易的な
施設管理などもありますから、
生徒会の中では一番忙しい委員になります」
「あはは……」
どうしよう、あまりにも生徒会の規模が大きすぎて
笑うしかできんのだけど。
「そりゃあ島百合団みたいな組織がないと
仕事が追っつかないワケだ……」
「うふふ、本当に島百合団の方達には助けられてます」
そっか、小百合さんは島百合団員じゃあないのか。
「へえ、あたしはてっきり小百合さんが島百合団に入ってるものかと」
「そうですね、本当は入りたいのですけど
保健委員長として入るのは許されませんから」
「そうなんだ。
じゃあありすは特別なんだねえ」
「はい、元々ありすちゃんは生徒会にはいませんでしたから」
「あっ、そっかあ」
そりゃそうだ、当時小2のありすが
流石に放送委員長なんかしてるわけないもんなあ。
「でもよくありすは島百合団に入ったまま
放送委員長なんかなれたね」
それもすごい気がする。
「ありすちゃんは優秀な子ですから
陸奥生徒会長の推薦で放送委員長になれたのです」
「ああなるほど。
でもそれだと学園長がうるさかったんじゃない?」
なんかすげえ邪魔されそうなイメージするんだけど。
「はい、最初はありすちゃんを生徒会に入れる事を
とても反対してました」
「だろうね」
あたしの勝手な憶測だけど、
なんか学園長とさいひーはウマが合わなそうな気がするしな。
きっとあの館をもらう時も一悶着あったに違いない。
「それでどうしても引き下がらない
陸奥生徒会長に折れた学園長が、
ある条件付きでありすちゃんを生徒会に入れたのです」
「それって、ありすが委員長として
生徒会に意見を言えないって奴だろ?」
「はい、その通りです。
もしかしてありすちゃんから色々と聞きましたか?」
「おう、放送委員の仕事に関する事だけね」
「そうでしたか」
それにしても小百合さんはすごいなあ。
こうしてあたしと喋ってるのに、
なんのミスも無く会計書類を片付けていってるし。
見た感じだともう半分しかなかったさ。
つうかヤバいあたし。
口ばっか動かしてて手が全然動いてないじゃんか!
あたしのボケやろう!
と、とにかく続きをやってやるですわ!
「ええっと……山に登って大声で叫部……」
ダジャレかよ!
で、生徒会長のコメントは山岳研究部でやってくれ、だってさ。
そりゃ当たり前すぎて最早笑う気すら起きんよ。
とにかく不採用印をポンっと。
「そう言えば小百合さん」
「はい、なんでしょうか?」
「あたしの妹に三香っていてさ、
本人から友達って聞いたんだけどマジ?」
「はい、その通りです」
ああ、やっぱり本当なのかあ。
「そっかあ、もしかして結構ここに遊んで来てたり?」
「はい、みーちゃんはいつも私のところに
遊びに来てくれるんですけど、
ひと月前から全く来なくなってしまって……」
あら、寂しそうな顔してる。
本当に三香が来なくて寂しいんだろうね。
「へえ、もしアレなら呼んでみよっか?
携帯掛ければ繋がるし」
「あっ、でももう家に帰ってるでしょうし
みーちゃんに悪いから今日は大丈夫です」
「そっか。あっ、そういえば三香とは
どうやって知り合った感じなの?」
なんかさっきからすげえ不躾だけど許して。
だって小百合さんと三香が友達になる
接点が気になるんだもんよ。
「そうですね、もう2年前にもなるんですけど
下白水公園で出会ったんです」
「そうなんだ」
因みにその公園はあたしが黒猫と寝てた場所でもあって、
夏と絶交された場所でもある……。
うぐ、思い出すと地味に辛い……。
「あの、とても辛そうな顔してますけど
大丈夫ですか?」
やば、あたしが辛そうにしてる顔を見られちゃったかも。
なんか恥ずかしいじゃん。
いや、今は空元気マックスで行くぜよ!
「あははっ、うん大丈夫!
あたし、なんともなし!」
そんな感じで強がってたら、
小百合さんが仕事を一旦止めて
あたしの右手を両手で握りしめてくれた。
とつぜんだったからビックリしたけどかなり温かい。
「大丈夫ですよ、辛い時は無理して笑わずに
悲しめばいいのですから」
「あっ……、うん」
いかん、思わず甘えたくなるぐらい小百合さんの包容力は高い。
なんという母性力、
そりゃあ三香も小百合さんのお友達になるわけだわ。
「うふふっ……」
ああ、できればずっとこうしていたいけど、
流石にそれは小百合さんに申し訳ない。
仕事もいっぱい溜まってるしな。
だからあたし的にはこれしかない!
「小百合さん?」
「はい、なんでしょうか」
「これ終わったら何か用事とかあるかな?」
「ええと……ありませんね」
「それじゃあ、お仕事終わったら
お話がてら近くのファミレスで食事しようよお!」
「あっ……喜んで!」
うむ、少し戸惑ったけどすぐ笑顔になってたから
大丈夫って事なんだよね。
まあ本人も喜んでって言ってるしさ。
「おう! じゃあちゃっちゃとこんな仕事終わらしてしまおうぜ!」
「はいっ!」
んで、小百合さんはさっきよりもめちゃ速で仕事をこなしてく。
なんかルンルンと鼻歌混じりだし。
うっし、あたしも負けてらんない!
毒電波研究部……ボツ、
でんでん太鼓部……ボツ、
きのこ研究部……ダメだよ、
遊んでくら部……あかんやろ!
んまあこんな感じでホントどうでもいい
新規部活承認書を
片付けていたわけ。
つうか小百合さんに比べたら5分の1も
仕事してないのか……。
あたしダメな子すぎる!
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