第27話 アトラクションと魔法と黒猫と ― 後編
「……あれ、あたしどれだけ寝てたんだろ」
目を覚ませばあたしは立体映像プラネタリウム室の中に独りさ。
あれだけたくさんの人がいた筈の周囲には誰もいない。
恐ろしいほどの静寂に包まれていたよ。
「……つうか三香はどこだ!?」
まずい、一番目を離したくない三香を放って
あたしは眠りこけてしまったのかよ!
「あたしのクソバカ野郎……!」
こんなところでジッとしてられるもんかよ!
とにかくあたしは急いでプラネタリウムの外へと出たのさ。
○
そんで園内を走り回ってたんだけど、どうも様子がおかしい。
夕方でもないのに空はなんか怪しく赤色に蠢いているし、
こんな広い園内の中で人っ子一人としていないんだもんよ。
「なんだよこれ……いったい何が起きてるってんだよ!」
人はいない癖して陽気な音楽があちこちで流れてくる。
もはやこれはホラーだ!
「三香あああ! どこにいるんだよおお!」
とにかくあたしは三香の名前を叫んだ。
そうしてないとあたしの精神がおかしくなってしまうから。
つまりあたしは自分のために叫んでいるわけだ。
情けなさすぎて涙が出てくらあ。
「お願いだ……あたしを一人にしないでくれよおおお!」
「ニャーン」
「はっ!?」
そんな時、あたしの背後から猫の声が聞こえた……。
それが猫の声かと思ったらちょうど三香くらいの背丈をした
とても可愛らしい小さい女の子の声だったのさ。
寧ろ三香にそっくりだが……。
でもその女の子の姿はどこかおかしい気がする。
だって背中まで届く開いた長い黒髪には
本物みたいな猫耳付いてるし、
お尻には長くて黒い尻尾があるもん、
しかも動いてる。
いや、でもよく見たらこの黒猫をイメージした衣装……
この前三香の部屋で見た奴にそっくりだから、
只の飾り物っぽいな。
まあ尻尾が動くギミックがよく分からないけど。
「いやいや、それよりもどうして
三香が作った衣装そっくりなモノをこの子が着てるわけ……?」
それに黄色いネコ眼だし八重歯なんかも目立つ。
だから本当に人間か怪しいな。
「お、お前は誰だ?」
「ミャ」
で、少し声をあげたと思ったらいきなり振り返って走り出したんだ。
「あ、おいちょっと待てよ!」
でもその速度はちょうどあたしが走るのと同じ速度だから
余裕で追いつける。
いや、もしかしたらこいつは
あたしを誘導してくれてるのかもしれないな。
気のせいかもしれないけどさ。
とにかくアレだ、
どうせこんなところでボーっとしていても
何も始まらないんだから、あの謎の女の子に着いてくしかない。
あたしはその子の背中を走って着いていった。
○
「あれ、ここはたしか……」
そこは宇宙からやってきた異星人を光線銃みたいなので倒す
アトラクション――〈宇宙人襲来〉だったはず。
なにせ3年前にあたしは、
ハマり過ぎて何度もここに入ってたんだからな。
で、一緒に来ていた夏に心底呆れられてた
苦い思い出の場所でもあるわけ。
いや、今は感傷に浸ってる場合じゃない!
謎の女の子がその中へと入っていってしまったんだからな。
「クソ! とにかく後を追いかけるぞ、あたし!」
ここにきっと三香がいる、あたしはそう信じてるから。
○
「ひええ……なんかここ、以前より怖いんだけど……」
中はすごく薄暗いし、なんか壁が蠢いてる気がする。
とにかく怖いのなんのって。
「ミャー」
あたしは猫なで声を出す謎の女の子に
ずっと着いてきているわけだが、
その子はなかなか止まろうとしない。
という事は、きっとかなり奥の方に三香はいる事になる。
もちろんそれはあたしの勝手な思い込みだけどさ。
「とにかくそんな急がないでくれよお!」
なんかこの子さっきより全然速くなってるんだけど。
もしかして焦ってるのかな?
「フミャンッ!」
で、その子がなんか横に曲がったと思ったら既にその姿は無かった。
「ま、マジかよ……」
どうやら見失っちゃったみたいだ。
やだ、結局あたしはまた一人になっちゃったんじゃないか。
「こ、怖い……」
そっか、なんか3年前に比べてずっと怖いなあって思ってたら、
いつも隣で励ましてくれる夏がいないからなのか。
失って初めて分かるあたしの大切な親友の優しい温もり。
でももう後悔したって遅いっての。時間は戻らないんだからね。
「ひえっ!?」
ガシャリと、今なんか向こうの曲がり角で変な音が。
「だ、誰かいるの……?」
頼む、それが三香であってくれ!
「オオ……ウオオオオオ…………」
だがそいつは三香じゃない。そもそも人間ですらないんだもんよ。
「う、嘘でしょう……?」
なんだよあいつ、つうかなんだあ、ここはよ……。
映画とかでよく見るエイリアンみたいな醜い化け物じゃないか!!
あそこまで鮮明なバケモノなんか、
このアトラクションにいなかったはずだぞ!?
つ、つうかまさかあの子……こいつに!?
「フシュルルル……」
や、ヤバい、こっちに近付いてくる!
「いや……こっち来ないでよ……」
やだ……足が震えて動けないし……。
体の震えも止まらない……。
そもそもその場でへたって何もできない!
「シャアアアアア!」
イヤだ……こっちにヤバい勢いで突っ込んでくる!
「いやあああああ!!」
もうダメだ……あたしはもうここでお終いなのかよ!
そんなバカな……まだ彼氏すらいないのに……。
そもそもキスすらした事ないのに……!
やだ、やだよ……死にたくない!
死にたくないよ!!!
「――マジカル・ニンジャソード!」
「ギェ!」
マジカルなんて間抜けなセリフが聞こえてきたと共に、
目の前にいたエイリアンは真っ二つになって消えてなくなった。
だからあたしは無傷だし体は何ともない。
というか、その声は間違いなく三香のモノだった。
何度か瞬きしたけど、やっぱり三香だね。
でも恰好はチャイナ服ではなく、漆黒のゴスロリ衣装だった。
そんで右手にはおそらく真剣の短刀を握ってたし。
あたしはもう全部が全部ぐちゃぐちゃで
何が起こったのかもさっぱり分からないけれど、
とにかくいつもの三香がそこにいたんだからそれだけで安堵したさ。
「お姉ちゃん、体へーき!?」
「あ……あ……三香ああああ!」
「きゃっ!」
だからとにかく今は三香に抱きつくしかあたしにはできなかった。
だって怖かったんだもん。すごく……心細かったんだもん!
「うわあああん、怖かった……怖かったよおおおお!」
「うん、大丈夫だよお姉ちゃん……
わたしがお姉ちゃんを『死んでも』守るから!」
「うう……ぐすん……」
三香があたしを優しく受け止めてくれる。
そうか、きっとこれは夢なんだ。
そうでないとこんな怖い思いできないし、
三香だってこんな優しくないもんな。
「さあお姉ちゃん、向こうからまた『絶望のお人形さん達』が
やってくるからわたしの背中から絶対に離れないでね?
怖かったら目を閉じててもいいから」
三香の言うとおり向こうには
数体のエイリアンっぽいバケモノがいた。
非常におぞましい光景だけど、
今は1人じゃないからまだ安心できる。
「う、うん……」
しかし情けない……本当にあたしはなんて情けない姉だ!
夢とは言え、ここまで妹に頼りきりなんて流石にありえないよ!
「怖いけど……あたしも三香の援護をするから!」
「そうだね……。それじゃあお姉ちゃんも安全の為にこれを持っててよ?
……マジカル9mm拳銃!」
それで三香は何もない所から拳銃みたいなのを創りだし、
あたしに手渡してくれた。
「これ……何?」
「うん、マジカル9mm拳銃だよ?
弾は無限に精製されるから弾切れなんか心配しないで使ってよ」
「ま、待ってよ! これって本物……?」
「弾は特製だけど、構造はほとんど本物と同じかな。
だから間違ってもわたしに銃口向けないでね?」
嘘でしょう……?
まあ夢だからこんなのもありか……。
「とにかく……これ以上はお人形さん達も堪えられないだろうから、
急いで親玉を倒しに行こうね!」
「ショオオオオオ!」
「きゃあああああ!」
1匹こっちに飛び掛かってきたあ!
「セイ!」
それでも三香はなんら戸惑う事なく、
そのエイリアン1匹を真っ二つに斬り裂く。
つうか、強い!
「や、やるねえ三香……」
「ふふん、もう2年ぐらい戦ってるもん!
武器だって改良してるよ!」
な、何のことだよ2年とか改良とか……。
て言うか今はそんなこと考えてる場合じゃねえ!
次は3匹同時に来やがったぞ!?
「フシュルルルル!」
「……テイ、タア、トヤ!」
それでも三香はなんら苦戦することなく三匹を斬り伏せる。
夢だからかね、このくらい強くて当たり前なのかもしれんね。
「おおう……グレイト」
「にゅふふ」
うむ、すごい余裕そうだなあ。
なんか頼りになるからあたしも超安心だわ。
よし、あたしも勇気が湧いてきたぞ!
「それじゃあ三香、早く親玉の所に案内してくれよな!」
「うん、分かってる!」
そんで三香は先陣切ってどんどん前へと進んでいく。
その道中でたまにエイリアンは現れるが、
それでも三香はまるでハエでも叩くように
斬り捨てながらどんどん進む。
あたしもたまに上から落ちてくる小さ目なエイリアンを
狙っては撃ち、狙っては撃ちを繰り返して三香の手助けをしてた。
最初は拳銃の反動がヤバいのかなって思ってビビってたけど、
反動は異常なまでに無かった。
むしろ本当に威力があるのか疑うレベルでね。
まあ実際には小さ目のエイリアンに弾が当たれば、
そいつはまるでいなかったかのように消えるし問題なしだろう。
うん、こりゃあまるでゲーム感覚ってやつだわ!
なんか今あたしがやってるのが完全にアトラクションの一部として遊んでるんだと考えると、逆に楽しいしウキウキする。
「流石お姉ちゃん、
もうすっかりマジカル9mm拳銃の使い方も慣れたね!」
「ああ、このくらいあたしにとってはちょちょいのちょいさ!」
そのマジカルってのを付けるのは正直やめてほしいけど。
「さあ、そこの扉を開けたら親玉が出現するから心して掛かってね?」
「おう、もちろんさ!」
で、三香は無遠慮に頑丈そうな扉を思い切り蹴って壊し、
無理矢理こじ開けたのさ。
なんつうか、ワイルドすぎてカッコいい。
○
室内にはエイリアンの親玉っぽいのがいて
そいつの姿を見たあたしは正直、気が気ではなかった。
だって10メートル超えそうなぐらいデカいし、
気持ち悪い顔したタコを更に思いっきりグロくしたような感じだし、
8本の大きな触手がウネウネしてて最高に気持ち悪い。
もう鳥肌がとまらんレベルですわ。
「み、三香……こんなん倒せるの?」
「うん、これはまだ絶望としては小さい方だね?」
「な、なんだよ……さっきからその絶望って言うのはさ……」
正直意味が分からな過ぎて頭痛いんですけど。
「簡単に言うと誰しも持っている絶望がああして形になるんだよ、
お姉ちゃん?」
「おいおい、それマジで言ってんのか?」
「そうだよ?
この〈マジカルドリームワールド〉では、
そんな絶望的なお人形さんしかいないんだよ?」
うぐ、なんだよその頭お花畑みたいな名前はさ……。
なんかいろいろ信じられないぜ……。
まあ、これは夢だ。何があってもおかしくはない。
「というわけでお姉ちゃん、
わたしはここからちょっと本気出すから、
お姉ちゃんはそこで黙って見ててね?」
「えっ、でも……」
「大丈夫、わたしはこんなのに倒される事なんてないもん」
「あっ、うん……」
ダメだ、わたしもう動けないや。
だってこのデカい化け物見てから
足がめちゃくちゃ震えて動けないんだもんよ。
だからもう強がりなんてやめようか、あたし。
これ以上はなんか、夢とは言え逆に三香の足手まといになりそうだ。
「いつもわたしを守ってくれてありがとう、お姉ちゃん……」
「な、なんだよそのセリフ……」
今それを言うのはやめてくれよ……
マジで縁起でもないんだからさ。
「ふふん、言ってみただけ!」
「そ、そうか……」
「さあニャーちゃん、怖がらないで出ておいで?」
「ミャー!」
あれ、あの黒猫……この部屋の隅に隠れてたのかよ。
「じゃあ行くよニャーちゃん……マジカルチェーンジ!」
「ミャミャーン!」
なんか三香がすごいベタなセリフを吐いたと思ったら黒猫がキラッキラと
白く輝く光に包まれた。
「うおっ、まぶし!」
やばい、眩しすぎて直視できないんですけど!
しばらくしたら黒猫の姿はどこにもない。
ただし、三香の隣に三香と同じ背丈した
さっきの猫耳フードと尻尾付けた女の子が立っていたのさ。
「さあニャーちゃん、次はマジカルフュージョンだよ!」
「フミャー!」
も、もしかしてあの黒猫が……あの謎の女の子なの?
つうか、マジでかよっ!
今度は三香とニャーちゃんとか言う子が
キラッキラと白く輝きだし、
またあたしは目を背けてしまう。
「だから眩しいんだって!」
そんで眩しくなくなる頃に
あたしがその二人のいるところを見てみれば、
なんと本物の猫耳と尻尾を生やした
我が妹がいるではないか!
そんで右手にはなんか、
ごつくて白いステッキの様な物を持ってるし!
ていうかなんだ、あのステッキ尖端の3本の突起物……
なんかどこかで見た事あるんだけど……?
「さあニャーちゃん、この魔法で1ヶ月分くらい無くなるかもだけど、
悲しまないでね!」
『あたちは悲しまないにゃ!
でも姉ちゃん悲しませんにゃ!』
「それは今言わないで……迷いを生じちゃうから」
『すまにゃいにゃ』
な、なんか三香の中から別の声が聞こえるんだけど?
それに1ヶ月分とかなんだよ一体さ!
つうかあの3本の突起物思い出した……
あれ原子炉で使う制御棒じゃなかったっけ!?
なんかステッキの形状もどことなくそれっぽいし!
マジかよおい! あたしビックリしてばっかじゃんか!
「さあニャーちゃん、あたし達二人の力を合わせて……」
『あのキモブサ絶望タコオバケをニュークリアしてやるにゃ!』
「せえーの……」
なんか杖の先がバッチバチ音出してやがんの。
あ、ちょっと待って! あたしこの部屋にいたら巻き込まれ……っ。
「マジカルぅー――」
『核融合!!!』
その後ステッキの3本ある突起物から
とんでもない大きさの白くてぶっといレーザーが射出された。
それは真っ直ぐ気味悪いタコのオバケに向かっていく。
んで、そのレーザーはタコのオバケを全て包み込み
ジュバアっと一瞬すごい音がした後に
アトラクションの建物の壁ごと穴を開けてしまった。
「あれ……あたし……なんか意識が遠のいて……」
もちろんタコのオバケは跡形もなかった。
そもそもそいつが消えると同時に、
なんかあたしの周りも歪んでいくし、
意識も遠のいていくんだもん。
気付けばもう辺りは真っ暗。
何もない闇の空間にあたしは一人ぼっち。
「ああ、そっか……もう覚めてしまうのか」
直感的にあたしはそう思う。
『ううん、これからがお姉ちゃんの頑張りどころだよ?』
「えっ……?」
で、気付いたら淡く光るマッパの三香があたしの右手を握って
何もないところを指差してた。
そしたら、その方向に明るい日ざしのような光が差し込んでくるし。
「あ……眩しいけど温かい光だなあ」
『ふふん、これからはお姉ちゃんらしくもっとしっかりしてね!』
「う、うるさいよ!」
何も反論できませんけどね!
『さあ、それじゃあさようならお姉ちゃん……ううん、おはようだね』
「ああ、あたしを起こしてくれてありがとな?」
そんであたしはその光に吸い込まれるように向かっていったのさ。
あたしの背中に向けて、笑いながら手を振る三香を横目で見ながら。
○
「……ちん……て!」
「うあ……?」
「ふみちん起きてってばー!」
ああそうか……やっぱりさっきのは夢だったのか。
だって目覚めたところは立体映像プラネタリウムの中だもんよ。
それにたくさんの人で席が埋まっているし。
で、隣には胸の若干開いてるチャイナ服着た三香がいたわけだしな。
「ふわあああ……あっ!」
あたしゃ思わず大きな欠伸をしてしまったよ。
「もう……やっと起きたアルね!?」
「え、うん。まあね?」
「バカだねふみちん。もう1時間くらい寝てるんだよ?
おかげでわたしプラネタリウム3回も見ちゃったアルじゃん!」
「はっ……? ま、マジでかい!?」
いやまずは腕時計を見よう……うげえ、
マジでもう夕方4時じゃん!
「あはははは、悪いね三香~」
「ぶーっ……でもすごく気持ちよさそうに寝てたから
特別に許してやるアル!」
ホントなら殴りたいところだけど
今日は勘弁してあげようじゃないか。
なんせあたしは今、すげえ気分がいいのでね。
それに三香も条件反射でもするかのように
さっと頭を両手で抱えてたから、正直微笑ましいぜ。
「うへえー手厳しいっす三香さんよお」
「あれ、頭チョップしないの……?」
いつまで経ってもあたしがチョップしてこないから、
三香は焦ってたんだろうね。
なんかキョロキョロしてて可愛かった。
「ん? チョップして欲しいのかい?」
「絶対やだアル!」
「そうだよね、だから代わりにこれをくれてやる」
「きゃっ……」
あたしがそーっと三香の頭に右手を近付けると、
三香はギュッと目を閉じて歯を食いしばってた。
あたしはそんな三香の頭を優しく撫でてやると、
キョトンとして間抜けな顔をしてたのさ。
「あれ……ふみちん?」
「へへ、起こしてくれてありがとな?」
「いいよ……っ」
あはは、照れちゃって可愛いやつめえ!
「それじゃあ、もうそろそろ帰ろうか。
あまり遅いと母さんも心配するしな?」
「うん……」
「ほれ、離れない様に手つないで帰るぞ?」
「わかってるもん……」
そんであたしは三香を連れて家に帰る為、
三香の右手を握ったまま立体映像プラネタリウムから出ていったのさ。
○
時刻は夜の10時頃、
家に帰って全ての手入れを済ませたあたしは
桃色パジャマに着替えてベッドの中に入っていた。
同じく黄色のパジャマに着替えた三香が、
何故か隣で寝てるんだけどな。
「で、どうして三香は今日あたしと寝たいって思ったわけ?」
「ふふん、たまにはこうしてあげないと
ふみちんが寂しがるかと思って!」
「あっそ、じゃああたしは寂しくないから1人で寝れば?」
生意気妹めっ!
「うそうそゴメンってば!
そんなにマジにならないでよ、ふみちんのイジワル!」
「うん、まあ冗談だし。
それにこうして一緒に寝てやる分ならたまになら構わないがな」
お金は掛からないしこの時期だと二人で寝る方が暖かいからねえ。
「えへへ、ふみちんのそういうところは大好き!」
「はいはい、煽てても何もでませんよお」
「じゃあね、ふみちんの胸の中で寝たい!」
「えっ、まあいいけど別に」
だけどあたしには胸がないのだ。
悲しい事にな!
「わーい!」
「おっとと」
そんで三香は勢いよくあたしの胸に顔を埋める。
まったく、無い奴の胸に顔を埋めて一体何が楽しいんだかね?
「えへへー、暖かーいっ!」
「そりゃあ良かった」
「でもやっぱり、さゆりちゃんと比べるとちょっと残念――ぁ痛!」
「うるせえ!」
あんなスタイル抜群な美人さんと一緒にすんなあ!
あ、あたしだって好きでこんな胸してんじゃねえよ!
「もういいから離れろ、ムカつく!」
「やだやだ離れたくないもん!」
「な、なんでやねん!」
「だってふみちんの体温高くてすごく心地いいんだもん!」
あ、それ言われるとあたしちょっと嬉しいぞ。
「ま……まあそうだなあ。
そう思ってるんなら許してやらんでもないが」
「えへへ……お姉ちゃん……大好きぃ……」
「あのなあ……」
いや、もう何も言うまい。
とにかくあたしも三香からこうして温もりを貰ってるわけだし。
「スー……スー……」
「なんだ、寝ちゃったのか」
まあ今日はかなり遊びつくしたもんな三香のやつ。
それにあの夢……あたしは夢だと思ってるけど、
どことなくリアルな感触が……。
いや、あたしの気のせいだろうな。
それにあたしも疲れてるし、このままもう何も考えずに寝よう。
ここに心も体も温まる
とっておきの抱き心地最高なカイロがあるわけだしな。
2014.1.29 加筆、矛盾箇所修正




