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歌声戦隊セイレンジャー  作者: 沙φ亜竜
第5話 ジュラと白亜とレーザーと
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-2-

 あたしは昨日と同じように、蘭ちゃんと手をつないで商店街を歩いていた。

 昨日は入らなかった路地を通ることにしたら、普段自分でも行かない場所に入り込み、新たな発見もあった。


 こんなところに可愛いお花屋さんがあったのね。でも、立地条件がよくないわ。

 ここじゃ、駅からも遠いしメインストリートからも外れるし。店の雰囲気はすごくいいのに、もったいないわね。

 ……とか。


 あっ、プラモデルショップだって。大樹くんが好きだって言ってたな~。

 色を塗ったり、ジオラマって言ってたかな? 周りの風景とかまで作って、そこにプラモデルを置いたのを見せてもらったりしたっけ。

 それにしても、今どきプラモデルの専門店でやっていけるのかしら。秋葉原とかなら、わからなくもないけど。

 ……とか。


 うあ、なんかすっごく怪しげな感じの店……。黒塗りでツタが絡まってる。

 ホラーハウス皿屋敷? ネーミングも和洋折衷で微妙だわ。お化け屋敷かなにかなのかしら……。

 ちょっとのぞいてみたい気もするけど、夜、おトイレに行けなくなると嫌だから、やめておこっと。

 も……もちろん、蘭ちゃんのためだからね!?

 ……とか。


 飛び跳ねるくらいの勢いではしゃぎながら周囲を見て回っている蘭ちゃん同様、あたしも裏路地の散歩を楽しんでいた。

 あたしの住むマンションから商店街への一番の近道は、林の中の細い道――以前イノシシにぶつかりそうになったあの道だ。

 昨日も今日も、小さな蘭ちゃんもいるし、あの道は危ないかなと思ったあたしは、遠回りだけど別の道を選んでいた。


 散歩だから、多少遠回りしたって構わない。

 今日の帰り道は、住宅街を通り抜けていくことに決めた。


 商店街のある辺りは少し高台になっているため、マンションに帰るときには下り坂となる。

 林を抜ける道はゆっくりと傾斜しているから気にならないのだけど、ここは高台の上と下に住宅地が広がっていた。

 そのせいで、高台の下にある住宅地へと続く道は、自然と急な勾配になってしまう。


 自転車で通るのは危ないくらいの坂道ではある。ともあれ、歩いて通る分には、さほど問題にはならないだろう。

 むしろ、蘭ちゃんのような小さい子にとっては、楽しい場所に思えるかもしれない。


「わ~、高いです! すごい景色です! 下のほうにおうちがたくさん見えます! 偉くなった気分です!」


 ……偉くなった気分って……。


 確かに王様とか偉い人って、上から民衆を見下ろして喋ったりするものよね。

 そういうイメージってことか。


 蘭ちゃんの言葉を聞いてると、たびたび思いもよらない感想を口走ったりして、なかなか面白い。

 たまに子供らしくない言い回しをして驚いたりもするけど、子供ってそういうものだよね。


 ほのぼのした気持ちに包まれながら、あたしは蘭ちゃんと手をつなぎ、坂を下っていく。

 と、突然。


「きゃっ!?」


 あたしは足もとをすくわれるような感覚を受けた。

 違う、足もとが凍っていて、滑ったのだ!


 そうだ、昨日少しだけど雪が降った。だから積もった雪が凍っていたのだ。

 などと冷静に分析するような余裕が、足を滑らせたあたしにあるはずもなく。

 蘭ちゃんの手をつかんだまま、あたしは坂を滑り落ちていく。


 どうにか倒れないようにバランスを保とうとしたものの、それは余計なことだったかもしれない。

 坂で加速したあたしと蘭ちゃんの体は、徐々にスピードに乗っていった。


 最初のうちに転んでおけば、尻餅をついて少し腰を痛めるくらいで済んだだろう。

 でも、ここまでスピードが出てしまっては、大ケガをしてしまう可能性も高い。


 あたしは焦っていた。


 足を踏んばってスピードを落とそうとするも、効果はない。

 右手は蘭ちゃんの手を握っているため使えない。

 左手を伸ばしてみても、道の両側にある塀までは届かない。

 仮に届いたとしても、このスピードでは、上手くつかんで止まれるとも思えなかった。


「きゃはははは! ジェットコースターみたいです!」


 蘭ちゃんは臆することなく、はしゃいだ声を上げていた。

 怖がって泣き叫ぶよりはよかったかもしれないけど、この先に待ち受ける最悪の事態を考えると、蘭ちゃんだけは絶対に守らないと、といった使命感のようなものが生まれてくる。


 とはいえ――。

 やっぱり、怖いっ!


 あたしは蘭ちゃんを引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。

 そして体を反転させ、後ろを向いた。

 背中が冷たい風を切る。


 ここまでスピードがつくと、なにかにぶつかって止まるくらいしか考えられなかった。

 それならば、蘭ちゃんにかかる衝撃を、せめてあたしの体で吸収しよう。

 あたしは無事に済まなくても、蘭ちゃんだけは助かるかもしれない。


 自力でブレーキをかけられるような状態ではなかった。自然の成り行きに任せるしかない。

 固く目を閉じる。

 すぐに訪れるであろう、激しい痛みと衝撃を怖れながら、あたしはそのときを待った。

 風を切る音だけが、無情に流れていく。


 さあ来い! 早く来い! できればあんまり痛くしないで!


 切実な願いを頭の中で繰り返しながら、あたしは坂道を滑り下りていく。

 だけど、いつまで経っても衝撃はあたしに襲いかかってはこなかった。


 …………。

 いつしか、風の音すらも止んでいた。


 …………?

 あたしは、おそるおそる目を開けてみる。

 目の前には蘭ちゃんの笑顔と、下りてきた急勾配の坂道。

 あたしの両足は、しっかりと地面を踏みしめている。


 どうやら無事に坂のふもとまで滑り下り、停止することに成功したようだ。

 ほっとしたあたしは、急激に力が抜け、その場に倒れ込んでしまった。


「お姉ちゃん大丈夫? 怖かったの?」


 蘭ちゃんがそう言ってあたしの頭を撫でてくれる。


「蘭ちゃんは、大丈夫だった?」

「うん、ボクはとっても楽しかったです!」


 無邪気な明るい笑顔に、あたしの頬も自然と緩んでいた。



 ☆☆☆☆☆



 と、そこで、あたしはあることに気づく。

 目の前の坂……。

 確かに、見上げてみても目がくらむほどの急な坂道だ。

 それはいいのだけど……。


 あたしは坂のずっと上のほうまで視線を移動させてみる。

 その坂道のどこにも、凍っているような部分が見受けられない。

 太陽の光がしっかりと当たり、乾いたアスファルトの路面に反射しているだけだった。


 ――どういうこと……?

 ふと頭をよぎったのは、昨日の雪だるまの件だった。

 あの雪だるまも、地面に落ちて残骸が広がったはずなのに、いつの間にか跡形もなく消えてしまっていた。


 常識的には考えられないことではある。

 ただ、自分自身が常識的じゃなかった過去――正義の味方に変身して宇宙人と戦っていた過去を、あたしは持っている。

 あたしの力は宇宙人によって与えられたものだったけど、それは人間の潜在能力を極限まで引き出しているだけだったのだから、いわゆる超能力というようなものがある人がいても、おかしくはないのではないか。

 そう考えるようになっていたのも事実だった。


 政府はあたしやさくらちゃんたちを拘束し、実験をしていた。

 それは、あたしたちに与えられた能力を研究するためのものだったらしい。

 とすると、そういった研究の成果として、超能力を開花させるような方法を発見した、という可能性だってあるのではないだろうか?


 政府側だけではない。白亜さんたちの組織だってなんらかの研究をしているみたいだし、ジュラさんもまた、別の組織を名乗っていた。

 最近あたしの周りで起こっている不思議なことは全部、それらの組織が研究で得た能力を使って起こした、なにかの陰謀なのかもしれない。

 テレビ番組のようなそんな展開が、現実にあるものだろうかと、常識的な部分が警鐘を鳴らしてはいるものの、否定できない状況なのは確かだ。


 あたしは身をこわばらせていた。

 その横では、まだ興奮が冷めていないのか、蘭ちゃんがはしゃいだ声を響かせている。

 そんなあたしと蘭ちゃんの前に、その人たちは現れた。


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