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あたしたちの前に現れたのは、長いコートを身にまとい、帽子とマフラーで顔も隠している怪しい女性、ジュラさんだった。
彼女の隣にはもうひとり、同じようにコートと帽子とマフラーで完全に素肌を隠した怪しい人も立っている。
ジュラさんより少し高い程度の背丈ではあるけど、そちらはおそらく男性だろう。
「また、現れたのね……。さっきのは、あなたたちが犯人なんでしょう?」
あまりにもタイミングよく現れたジュラさんに、あたしはそう言って詰め寄る。
「は? いったいなんのことでしょうか?」
あくまでも、しらをきるつもりなのか、本当に知らないのか。
ジュラさんの澄ました声からは、まったくうかがい知ることはできない。
……まぁ、いいわ。
「いったいなんの用ですか? 今日もまた、偶然通りかかっただけとでも言うんですか?」
睨みつけるような視線を向けながらのあたしの攻勢にも、ジュラさんは怯む様子もなく、ひょうひょうと答える。
「いえいえ、今日は最初から、ひまわりさんをお待ちしておりましたのよ。今日も可愛らしいお友達とご一緒なんですね」
あたしを待っていた。つまり、待ち伏せしていたということか。
でも……。
もともと気まぐれで散歩のコースを決めたのだから、この場所を通るなんて予想できないはずだ。
とすると、あたしと蘭ちゃんのあとをこっそりつけ回していた、ということになる。
蘭ちゃんは昨日と同じように、あたしの背後に身を隠していた。
怪しい外見の知らない人が、昨日の二倍に増えているのだから、怯えるのも仕方がないだろう。
「この子のことは、べつにいいでしょ? それより、用件を言ってください」
片方は何度か話したことのある相手とはいえ、見るからに怪しいふたり組に、あたしは毅然と立ち向かう。
蘭ちゃんだけは守らなきゃ。
そんな使命感は、ここでも発揮されていた。
「そうですわね。ひまわりさん、どうでしょうか、そろそろわたくしたちの組織のほうへ来てはもらえませんか? あまり遅くなると危険ですわよ? わたくしもう、心配で心配で……」
平然とそう言ってのけるジュラさん。
なんて白々しい……。
ジュラさんの喋り方のせいもあるのかもしれないけど、どうしてもあたしを小バカにしているようにしか感じられなかった。
やっぱり、最近の様々なおかしな出来事は、この人たちの仕業に違いない。あたしはそう思い始めていた。
「ふざけないで! 絶対にあなたたちのところになんて、行きません! あたしは今、林檎や海斗くんたちと一緒に、楽しく暮らしてるんだから!」
「え?」
その言葉に、ジュラさんと一緒にいたもうひとりが、驚きの声を上げる。
一瞬だけ聞こえたその声からすると、案の定、男性に間違いなさそうだった。
ジュラさんと一緒にいるということは、おそらく組織とやらの人間なのだろう。
だけど、ふたりがどういう関係なのかはよくわからない。
それにしても、今のあたしの言葉で驚いたということは、ジュラさんたちの組織はあたしの部屋に林檎たちを招き入れたというのを、知らないってこと……?
以前にもそう考えたことがあったけど、それは正しい推論だったと言えそうだ。
「ですが、絶対にわたくしたちのもとにいたほうが、あなたにとって安全ですし、それに……」
「もういいよ、ここは引こう」
説得を続けようとするジュラさんを、男性が手で制す。
するとジュラさんも、「わかりました」とあっさり引き下がった。
ただ、そのときあたしは、ほんの少し引っかかるような感覚を受けていた。
あれ? この男性の声、どこかで聞いたことがあるような……?
あたしが記憶をたどって思い出そうとしているあいだに、
「それでは、またいずれ」
そう言い残すと、ジュラさんたちはゆったりとした足取りで立ち去ってしまった。
☆☆☆☆☆
『夕焼け色に染まる うろこ雲を見上げて
歩いたあぜ道 あなた色の面影
手と手を重ねて 温かな気持ちで
歩いたあぜ道 あなたとふたりの場所
時が流れてゆくのを ゆっくり感じながらも
時の流れ止めてと 願いをかけるかのように
カエルが鳴いても 帰りたくなんてない
わがままな気持ち飲み込んで 手と手は離れた
涼やかな風が通り過ぎて 名残を消し去ってく
ささやかな願い叶わぬまま 手を振り合うだけ』
「わ~、お姉ちゃん、やっぱり上手です!」
パチパチパチ。
目の前には笑顔で拍手を送ってくれる蘭ちゃんの姿。
あたしと蘭ちゃんは、公園に立ち寄っていた。
散歩と坂道でのこと、そしてジュラさんたちのことで、足も精神的にも疲れきっていたため、少し休んでいこうと考えたのだ。
ベンチに座ると、昨日と同じように蘭ちゃんからせがまれ、またお歌を歌ってあげた。
なんとなく、静かで昔を懐かしむような曲が歌いたい。そう思ったあたしは、この歌を選んだ。
ほのかな恋心を切なく歌った、ゆったりとした淡いメロディー。
どうしてこの歌を選んだのか、あたしにもよくわからなかった。
もっと楽しい曲のほうが、蘭ちゃんも喜んでくれるだろうに。
ともあれ、そんな静かな歌でも、蘭ちゃんは楽しんでくれたようだ。
「実話ですか? お姉ちゃんの想い人さんとのことを歌った歌ですか? ひゅーひゅーです!」
不意に囃し立てられ、あたしはちょっと戸惑ってしまった。
あたしたちが合唱サークルで歌っていた曲は、基本的には全部自分たちで作詞作曲したものだ。
もちろん既存の曲を歌うこともあったけど、自分たちで作った曲のほうが感情を込めやすい。
そのため、メインボーカルを担当する人が作詞する場合が多かった。
この歌は、あたしが大樹くんをイメージして作詞したものだ。さらに大樹くんが、その詞に合わせて作曲してくれた。
そういった意味でも、思い出深い曲には違いなかった。
蘭ちゃんが言うような実話というわけではなく、あくまでも妄想で作り上げた歌詞ではあったけど、思わず頬を赤く染める。
そんなあたしを、蘭ちゃんはいつもの無邪気な様子ではなく、妙に大人びた優しい雰囲気で微笑みながら見つめてくれていた。
「あっ、そろそろ帰りましょう!」
突然、蘭ちゃんが叫んだ。
腕時計を見ると、三時前。楽しみなおやつでも、あるのかな?
そう考えたあたしは、素直に頷くと、そっと蘭ちゃんの手を取って歩き出した。




