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そのとき、空から天使の羽のような真っ白な雪が、ひらひらと舞い降りてきた。
冷たいはずなのに、どこか心を温めてくれるような、そんな冬空からの贈りもの。
「わ~、雪だ雪だ~!」
飛び上がって大声ではしゃぎ始める蘭ちゃんによって、辺りをほのぼのとした空気が包み込み始める。
雪は激しい降りになることもなく、しんしんとゆったりしたリズムで舞っていた。
「ボク、お散歩したいです!」
という蘭ちゃんのお願いに、穏やかな気持ちになっていたあたしは笑顔で頷き返した。
☆☆☆☆☆
手をつないで雪の降る町並みを歩く、あたしと蘭ちゃん。
いろいろと眺めているだけでも楽しいだろうと思い、商店街を目的地もなく歩いていた。
ビルが建ち並ぶ商店街の中、人影もまばらな歩道を通っているときだった。
ふと蘭ちゃんが上のほうを指差しながら、楽しそうな声でこう言った。
「あ~、雪だるま~!」
……え? 上のほうに、雪だるま?
あたしは不思議に思って、蘭ちゃんの指差す先に視線を向ける。
はたしてそこには、本当に雪だるまがあった。
あたしの目に映り込んだその光景は、常軌を逸したものだった。
上空から、雪だるまと思われる物体が、いくつも降ってきていたのだ!
な……っ!?
いったいなにが起こっているのかわからず、パニックに陥りそうになりながらも、
「あ……危ない!」
あたしはとっさに、手をつないですぐ横を歩いていた蘭ちゃんを引き寄せ、彼女をかばうように抱きしめながら、ビルの壁のほうへと倒れ込む。
と同時に、さっきまであたしたちがいた歩道には次々と雪だるまが衝突し、勢いと自重で潰れていくつもの雪溜まりを作り上げていった。
やがて雪だるまたちの襲撃は収まる。
おそるおそる見上げると、ビルの屋上の辺りに一瞬だけ、人影らしきものが見えたような気がした。
☆☆☆☆☆
「大丈夫?」
通りかかった人たちが心配の言葉を向けてくれた。
「あ……はい、大丈夫です」
そう答えながら、あたしは蘭ちゃんに声をかける。
「蘭ちゃん、大丈夫だった? 無理矢理引っ張って倒しちゃったけど、膝とか、すりむいたりしてない?」
あたしが心配しているというのに、
「お姉ちゃん、いきなり押し倒すなんて大胆です……ポッ」
蘭ちゃんは顔を赤らめてそんなことを言ってくる。
「なんでやねん!」
とっさにベタなツッコミを入れてしまったのも、仕方がないというものだろう。
というか十歳くらいのはずなのに、この子ったら……。おませさんなんだから。
意味がわかって言っていたのかは、怪しいところだけど。
それはともかく、そんな軽口が叩けるのだから、蘭ちゃんに心配はないと言える。
あたしはホッとして、軽くスカートをはたいて立ち上がった。
周りには、心配して人が集まってきていた。
それにしても、これって……。
あたしは思い出す。このあいだも、商店街まで繰り出してきたときに危険な目に遭った。
ということは、今回のも、その延長なのだろうか?
だとすると、白亜さんの言葉が正しいなのであれば、政府の実験がまだ続いているってことになるの?
もしそうだとしたら、こんな小さい子まで巻き込むなんて、ひどすぎる。
蘭ちゃん、怖がってないかな?
あたしはそう思い、彼女に視線を向けた。
「次はなにが落ちてくるかな~? わくわく!」
……全然怖がっていなかった。子供って無邪気だわ。
と、そこで気づく。
ついさっき、たくさんの雪だるまが落ちてきて、歩道にぶつかって潰れた。
そしてその歩道には、いくつも雪溜まりができていたはずだ。
それなのに今、あたしたちの周りには、そんな雪溜まりは影も形もない。
綺麗さっぱり、雪の塊があったという痕跡すらなくなっていた。
もちろんまだ、しんしんと雪が降り続いてはいる。
だけど、積もるほどの降りではない。アスファルトにたどり着いた途端、すぐに溶けてしまう、その程度の雪でしかないのだ。
あたしは無意識のうちに、きょろきょろと周囲を見回していた。
でも、そんなあたしをちょっと不思議そうに眺める通行人がちらほらと見受けられるだけ。おかしなところは、なにもなかった。
これって、いったいどういうこと?
呆然と立ち尽くすあたしの手が、不意に引っ張られる。
「お姉ちゃん、どうしたの~? 早く行こうよ~!」
蘭ちゃんがあたしの手を引いて、ニッコリと笑顔を向けていた。
「う……うん……」
曖昧な返事をしたあたしは、微妙に首をかしげつつも、蘭ちゃんに引っ張られて商店街を駆け抜けていくことになるのだった。




