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やがてビールはなくなったものの、ウーロン茶やらオレンジジュースなんかも買ってあったため、あたしたちはそれを飲みながらの他愛ないお喋りを続けていた。
トイレに行くと言って席を立った白亜さんは、まだ戻ってきていない。
そんなにひどい状態なのだろうか。
まぁ、あまり考えたくない内容なので、そのうち戻ってくるでしょうと、軽く流すことにする。
さっきまでベタベタとくっついてきていた林檎だったけど、少しは酔いが醒めてきたのか、若干落ち着いた声であたしと海斗くんに向かって話し始めた。
お酒に弱い海斗くんも、今日はどうやらまだ意識を保っているようだった。
「それじゃあ、そろそろいい時間だし、ちゃんと部屋割りも決めておきましょ。といっても、話し合う余地なんてないかしらね?」
政府があたしに与えてくれたこのマンションの一室。
それなりにゆったりとしたレイアウトではあったものの、基本的にひとり暮らしを前提にしているマンションのようで、四人で暮らすとなるとやはり手狭となる。
林檎の言うとおり、話し合う余地はないのかもしれない。
寝室として使えそうな部屋なんて、二部屋しかないのだから。
「ま、無難に男性陣と女性陣で分かれればいいわね」
林檎のもっともな意見に、あたしとしても、それしかないと思ってはいた。
だけど、お酒の勢いもあったからか、あたしはちょっと意地悪な反論を試みてみる。
「あら、林檎。海斗くんとふたりでじゃなくて、いいの~?」
ニヤニヤと笑いながら、冷やかしの言葉を投げかけたのだ。
でも、思わぬ反撃を食らってしまうことになる。
「え? でもそうすると、ひまわりは白亜さんと一緒の部屋ってことになるわよ? なによひまわり、もしかして白亜さん狙いだったの?」
「えっ!?」
寝室として使えるのが二部屋しかないわけだから、当然ながらそうなるということに、不覚にもあたしはまったく気づかないまま、あんな発言をしてしまったのだ。
「そっか~、そうなんだ~。それなら私が仲を取り持ってあげようか?」
なんて勘違いをさらに発展させた林檎は、面白そうな話題を得たり、とでも言いたげな表情で問いかけてくる。
「ち……違うってば! そういうのじゃないよ! というか、男女で分かれる案に決定で!」
「え~? つまんない~!」
あたしの答えに不満顔の林檎と、がっはっはと笑っているだけの海斗くん。
海斗くんは意識こそ保ってはいるけど、かなり酔いが回っていそうだから、状況をよく理解してないのかもしれない。
ともかく、白亜さん本人がいなくて助かった。
あたしはホッと胸を撫で下ろす。
「ま、だいたいわかってたけどね。あの人、ひまわりの趣味じゃなさそうだし。相変わらず考えなしに喋る癖は治ってないのね」
「うっ……」
林檎の平然とした言葉に、あたしは声を詰まらせる。
つまりあたしは、林檎にからかわれていたのだ。
そりゃあ、昔からそんな扱いばっかりだった気がするし、そういういじられキャラってのも悪くはないと、自分でも思っていた部分はあるのだけど。
あたしが微かな不快感を表情に出してしまっていたからなのか、それとも単純にまだ酔っ払っているだけなのか、
「そんなとこも、可愛いんだけどね!」
林檎はそう言うが早いか、またもやあたしに抱きついてきた。
「がっはっは、林檎は抱きつき癖があるからな~。ひまわりちゃん、寝るときは覚悟しときなよ!」
「んふふ~! 毎晩抱きしめ放題だわっ!」
「ちょっと、もう、くっつかないでってば~!」
こうして、そろそろ真夜中になろうかという時間にもかかわらず、あたしたちの部屋には、騒がしい酔っ払いたちのじゃれ合う声が響き渡っていた。
☆☆☆☆☆
それから話題は、昔の合唱サークルのことへと移っていった。
「こんな綺麗な星空のもと、みんなで集まって歌ったりも、よくしてたわよね~」
換気のために窓を開けた林檎。
目に飛び込んできた降り注ぐような星空の光景に、懐かしい思い出が脳裏をよぎったのだろう、微かに目を潤ませながらつぶやきを漏らす。
「そうだね……。懐かしいわ」
「ほんとだな! いつも五人で歌ってたよな! なぜか部長だけは歌わなかったが!」
「あの人、きっと音痴だったのよ」
「がっはっは、やっぱりお前も、そう思うか!?」
「あはは……。いない人の悪口なんて、ひどいとは思うけど……。でも、あたしもそう思う」
懐かしい、笑顔溢れる思い出の日々。
部長さんは宇宙人だったけど、それも含めて、かけがえのない大学生活の一部だった。
今になって思えば、あの人がいたからこそ、あたしたちはこんなにも仲よしでいられたのかもしれない。
もっとも、そのあとに起こった様々な悪い事柄の発端も、あの部長さんにあると言えるわけだから、複雑な気持ちでもあるのだけど。
それでも、いろいろとあったとはいえ、基本的には楽しかった過去に、あたしたちは思いを馳せる。
だからこそあたしは、口に出してしまうのをためらっていた。
さくらちゃんのことについて……。
とはいえ、さくらちゃんの存在を無視したまま、こんなに楽しく話していていいのかと、心苦しく感じる部分もあった。
だからあたしは、思いきって林檎に問いかけてみた。
「あのさ、林檎。さくらちゃんのことは、知ってる……?」
「……うん、知ってるわ……。ほんと、ひどいわよね……」
すっ……と、林檎の笑顔が陰る。
海斗くんも黙ったまま、ちびちびとミルクセーキを飲んでいた。
やっぱり、言うべきじゃなかったのかな……。
後悔の念が浮かんできたあたしは、思わず目を伏せてしまう。
そんなあたしに、林檎は優しい声を送ってくれた。
「でも、ひまわりが元気づけてあげてるのよね? だったら大丈夫よ。ひまわりのお日様みたいな笑顔で、さくらちゃんを温めてあげなさい」
「……うん……」
酔いは残っていただろうけど、林檎の心からの温かい言葉に、あたしは勇気づけられた。
ただ、なんとなく恥ずかしさもあって、もうひとりのメンバーである大樹くんのことについては、結局話題に出せないままでいた。




