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大学の裏手の丘で何曲か歌ったあと、あたしたちはコンビニでビールとおつまみを買って、マンションの部屋へと向かった。
今日から林檎たちと一緒に住むことを祝って、乾杯しよう、という流れになったのだ。
いきなり酒盛りかい!
普段のあたしなら、そんなツッコミを入れそうなところだけど。
このときのあたしは、一緒になって盛り上がっていた。
まだあたしも、再会の喜びから熱が冷めていなかったのだ。
「はい、それじゃあ、愛すべきひまわりとの再会を祝して、乾杯!」
「乾杯~!」
なんだか恥ずかしい乾杯の音頭を聞いて微かに頬を赤らめながらも、あたしは林檎に茶々を入れたりはせず、素直にビールの缶を掲げた。
「ぷふぁ~! う~ん、生き返る! 冬でもやっぱり、ビールは美味しいわね!」
「林檎ってば、前にも増しておじさんっぽくなってる……」
「そんなことを言うやつには、おしおきだ! えいっ!」
苦笑するあたしに、林檎は容赦なくヘッドロックをかけてきた。
「うあっ、痛いってば! やめて、ギブギブ!」
飲み始めたばかりなのに、もう酔っ払っているのだろうか。
そんなあたしと林檎の様子を眺めながら、すでに真っ赤な顔になっている海斗くんが笑い声を響かせた。
「ぐわっはっはっは。いや~、絡み合っている女の子たちを見てると、こっちも楽しくなってくるな!」
「……なんか、その言い方、やらしい……」
そういえば海斗くん、お酒は弱いんだっけ。
林檎は昔、それを知っていながら大量に飲ませ、海斗くんが酔っ払って恥ずかしい状態になるのを見て楽しんでいた。
悪趣味だとは思うけど、そんなことが頻繁にあったというのに、ずっとつき合ってたんだもんね、このふたり。
人生いろいろってやつだわ。……ちょっと違うかも。
あたしも結構お酒は弱いほうだから、随分と酔いが回ってきているのかもしれない。
ともかくあたしたちは、こんな感じで、危険があるかもしれない政府の用意したマンションの部屋で酒盛りをしながら、はしゃいだ声を響かせていた。
それにしても、気を許している仲間と一緒にいられるというのはとても嬉しいことなのだと、改めて実感させられた。
どれくらいの時間、その楽しい雰囲気に呑まれていただろうか。
しばらくして、酔いも少しは醒めてきたのか、ふと疑問が浮かぶ。
実際には、一旦思い浮かんではいたものの、楽しい雰囲気を壊してはいけないからと思い、口には出さなかった疑問だった。
あたしはここで、それを白亜さんに尋ねてみた。
「あの、ところで本当に大丈夫なんですか? 政府側の監視があるんですよね? いきなり三人もこの部屋に転がり込んできて、慌てたりしてないでしょうか?」
白亜さんは、笑顔のままだった。でも、一向に口を開く気配はない。
答えてくれる気はないのだろうか?
あたしはさらにたたみかけるように、質問を続けた。
「それに、勝手にこの部屋に住みついちゃうのって、やっぱり問題があるんじゃないですか? 契約とか手続きとかも、必要だと思うし……」
それでも白亜さんはまだ、笑顔を浮かべるのみ。
この人、あたしをバカにしてるの?
思いっきり頭をぶん殴ってやろうかしら。
そんな攻撃的な思考すら浮かんでしまう。やっぱりあたしも、まだしっかり酔っていたのだろう。
対する白亜さんのほうも、どうやら酔っ払っているせいで頭が回っていなかっただけのようだ。
「……あ~……、うん、大丈夫。契約とかは組織のほうに手配してあるんだ。政府の監視についても、大丈夫だと思うよ。こちらの組織の人間も配置してるんだから、そうそう手は出せないはずさ。現に昼間の喫茶店や丘でも、なにもなかっただろう?」
やっとこさ質問の内容が脳にまで到達したらしく、白亜さんはそう答えてくれた。
「はぁ、そうですね。……うん、わかりました」
曖昧な返事をするあたし。正直あたしも、あまり頭が回っていない状態だから、白亜さんの言葉をちゃんと理解できてはいなかった。
よく考えれば、契約を組織に手配してあるという根回しのよさとか、いろいろと気づくべき部分はあったのかもしれない。
だけど、このときのあたしは、細かく物事を分析できるような状態ではなかったのだ。
☆☆☆☆☆
酒盛りは、なおも続いていた。
海斗くんはぐでんぐでんの状態だったし、林檎は林檎でべたべたと抱きついてくるしで、なにかと大変ではあったけど、あたしは楽しくビールを飲んでいた。
極限状態まで酔っ払ってしまったような、そんなすごい状態になっている海斗くんを見ているのは、失礼かもしれないけどなかなか面白かった。
林檎の気持ちが少しわかった気がする。
白亜さんのほうは、いつものように笑顔を張りつけたまま、飲み続けていた。
それでも酔いは確実に回っているらしく、いきなり真面目なセリフを言ったかと思うと急に笑い声を上げたり、ときにはダジャレを口走ったり、今まで見たことのない一面を見ることができて、こちらもなかなか興味深かった。
と、不意に白亜さんがそわそわとし始める。
きょろきょろと辺りを見回したり、立ち上がったと思ったらすぐに座ったり……。
明らかに挙動不審といった様子。
もともと怪しい人だし、その上酔っ払いなのだから、それも不思議なことというわけではないのかもしれないけど。
さすがにちょっと気になったあたしは、白亜さんに問いかけてみた。
「あの、白亜さん? どうかしましたか?」
「トイレなんじゃない~? 大っきいほうかなぁ~? あははは! 我慢してないで、どばーっと出してきちゃいなさいな!」
あたしの声を聞いて、質問されている本人を差し置いて、すかさず林檎が茶々を入れる。
なんというか、下品なことこの上ない言い方だったけど。
「ああ、うん、そうなんだ。ちょっと失礼するね。一応仮にも女性のひとり暮らしの部屋だったから、悪いかなと思って、なかなか言い出せなかったんだ」
「変なところにこだわるんですね。大丈夫ですよ。そんなこと気にする必要ないじゃないですか。というか、これからはみんなで使うことになるわけですし。……え~っと、トイレはドアを出て廊下の突き当たりを右に曲がった奥にありますから」
素直に頷く白亜さんの言葉に、あたしは明るくそう答える。
なんだか普段よりも饒舌に語っている感じがあるのは、言うまでもなく、ビールのせいもあったのだろう。
若干ふらつき気味ではあったものの、ありがとう、とだけ言って、白亜さんは部屋を出ていった。
『ふう』
白亜さんが出ていくと同時に、林檎と海斗くんがため息をつく。
「……ふたりとも、どうかしたの?」
「え? べつに、なんでもないわよ?」
林檎はそう答えを返してきたけど、酔っ払ってひどい状態だった海斗くんまで一緒にため息をついていた、というのがあたしは妙に気になった。
それは、ふたりの様子が心なしか、ほっとしているように感じられたからだったのだけど。
酔いが回っているあたしには、結局、それ以上深く考えることはできなかった。




