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歌声戦隊セイレンジャー  作者: 沙φ亜竜
第3話 再会は不穏の調べ
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-1-

 あたしは、部屋の中で考えていた。昨日のジュラという女性のことを。

 いったい彼女は何者なのだろうか?


 あからさまに怪しい格好だった上、ジュラさんの着けていたバッヂは、絶対に大樹くんのものに間違いない。

 昨日は懐かしい思い出のバッヂを見て興奮してしまい、冷静に考えられなくなってしまったけど、大樹くんが大変な目に遭い、残されたバッヂをあの人が持っていた、というのもありえる話ではある。


 だけど、ジュラさんはそれを隠そうとしていたように思う。

 大樹くんが、つまりその……すでに、消されている……というのが、今はまだ秘密にしておくべきことだから、という意図にも取れなくはない。

 ただ、それでも不自然に感じるのは確かだ。


 もしもジュラさんたちが大樹くんを手にかけたのだとしたら、あたしを守る立場にある組織というのは嘘だったことになる。

 そうすると、あたしの周りで起こった数々のおかしな出来事も、ジュラさんたちの仕業だという可能性が高くなってくる。


 にもかかわらず、白亜さんはそれらの出来事を、政府の実験だと言いきっていた。

 もちろん、ジュラさんが政府の人間であるならば、それも正しい意見ということになるわけだけど。


 だとしても、やっぱりおかしいだろう。

 ジュラさんたちは、あたしを守る立場にある組織だと言っていたのだから。


 その言葉も嘘だとすれば、ジュラさんは政府側の人間だということになる。

 ジュラさんは実験の成果を調査するために、あたしに近づいてきた……?

 いやいやいや、それにしたって不自然だ。

 もし政府側の人間で、大樹くんのことを隠しておきたいなら、いくらコートを着ているとはいえ、あのバッヂを胸に着けたままあたしの前に現れるはずがない。


 だったら、実はジュラが白亜さんの仲間だとか?

 どちらも怪しい感じだったし、同じ組織の一員だと言われれば、素直に納得できてしまいそうだ。

 メンバーが全員、あんな怪しい人たちばかりの組織なんて、考えただけでも(いろいろな意味で)怖いけど。

 とはいえ、そうすると今度は、ふたりがわざわざ別々にあたしの前に現れたのが不自然になってくる。


 だいたいあの白亜さんという人も、本当にあたしを守ってくれるのか怪しいものだ。

 軽い感じの口調と、どことなく人を見下したような笑顔のせいで、無意識にそう勘ぐってしまう。

 単純にああいう雰囲気の人なのだ、という可能性も充分にあるわけだけど、絶対に警戒を怠ってはいけない。今のあたしとしては、そう考えている。


 白亜さんは、あたしが危険な目に遭ったのを、政府の実験だと言った。

 その言葉が嘘だったとしたら?

 もし昨日のおかしな出来事が、白亜さんたちの組織によるものだとすれば、さらに別の可能性も見えてくる。


 政府があたしを危険な目に遭わせている。だから、自分たちの組織まで来てくれたほうが安全だ。

 白亜さんはそう言って安心させ、あたしを組織とやらに連れていこうとしていた。


 つまり、組織に連れていき、おそらくは様々な「実験」をする。そのための実験体としてあたしを欲している、という可能性だ。

 ともあれ、それにしてはあっさりと引き下がった。

 危険だと言いながらも、無理矢理にまでは連れていこうとしないみたいだし……。


 考えれば考えるほど、脳細胞がこんがらがってしまいそうだった。

 誰を信じていいのか、あたしにはまったくわからなかった。


 今は政府に与えられたこのマンションで生活しているあたし。

 それ自体、政府側の手のうちにいる、と言ってもいい状態なのかもしれないけど……。

 う~ん……。


 よし!


 悩み疲れたあたしは、勢いよく立ち上がると、着替え始める。

 とりあえず、散歩、行っとこか。そう考えたのだ。

 あまりうじうじと悩んでいたってしょうがない。

 気楽に気楽に。それがあたしの信念なのだった。



 ☆☆☆☆☆



 マンションのロビーから一歩外へ出た途端。

 目の前には、人を見下しているとしか思えない笑みを浮かべたあの人――白亜さんが待ち構えていたかのように立っていた。


 いや、確実に待ち構えていたのだろう。

 それなのに、


「いや~、ひまわりちゃん。偶然だね~。こんにちは」


 なんて言いながら話しかけてくる。


 無視してやろうか、とも思ったけど、もしかしたら本当にあたしを守ってくれる味方だという可能性も、まだ捨てきれたわけではない。

 あたしは、嫌々ながらといった表情をありありと浮かべてしまってはいたものの、白亜さんに軽く挨拶を返した。


「こんにちは。偶然と言いながら、よくお会いしますよね」

「あっはっは、そりゃあ、君を草葉の陰から見守ってるんだからね、当たり前だよ」


 あたしの皮肉にもまったく動じることなく、白亜さんはそう言い放つ。

 こうやって出てきちゃったら、全然草葉の陰からじゃないでしょうに。

 そんなツッコミのひとつも入れたいところだったけど、どうにか堪え、


「そうですか。ご苦労様です」


 あたしは素っ気なく答える。

 なるべく早くこの人の前から立ち去りたかったあたしは、あまり深く会話に関わらないようにしようと考えていたのだけど。


「ふっふっふ。ところで、どうかな? そろそろ僕を信じて、組織に身を委ねる気になったかい?」

「なりません!」


 ついつい、語気を荒げて答えてしまった。

 挑発的な言葉を投げてくるのはこの人の作戦だと、頭ではわかっているというのに、どうしても反射的に怒鳴り返してしまう。

 あたしってば、なんて素直なんでしょう。


 それはともかく、あたしの怒鳴り声にもいつもながら動じる素振りのない白亜さんは、続けざまにこんなことを言い出した。


「ふ~ん、そっか、残念だなぁ。せっかくお友達も、楽しみに待ってくれてるのに」


 ……え? お友達?


「ちょっと、それってどういうことですか?」


 素直なあたしは、思わずそう問い返していた。


「黙って僕のあとについておいで」


 白亜さんはそれだけ言うと、あたしの答えを待つこともなく身をひるがえし、木枯らしの吹き抜ける道を歩き始める。

 あたしは一瞬だけためらったものの、すぐに白亜さんのあとに続いて足を踏み出した。


 会話もなく、あたしと白亜さんはどんよりとした冬空の下、微かな足音だけを響かせる。

 やがて白亜さんは、細い裏路地に入っていった。


 本当にこのままついていって、大丈夫なのかな……?

 あたしは不安や怖さを感じながらも、お友達が待っているという言葉を振り払えず、ただ黙って白亜さんの背中を追っていくことしかできなかった。


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