-2-
薄暗い裏路地を抜けた先に、ふたつの人影があった。
「さあ、着いたよ」
立ち止まった白亜さんの声に反応して、あたしはそのふたりへと目線を向ける。
男性と女性。
そこには、見知った顔があった。
「……あっ……」
声を上げようとしても驚きと懐かしさで、上手く言葉が出てこなかった。
そんなあたしに明るい声をかけてくれたのは、そのふたりのうちの、女性のほうだった。
「やっほ! お久しぶり~! ひまわり、元気だった~?」
それは幼馴染みでもあり、歌声戦隊セイレンジャーとしてともに戦った仲間でもある、水神林檎だった。
あたしは思わず駆け出し、林檎に抱きついていた。
「林檎~!」
「わっ、ひまわりってば! こら、ちょっと! もう、相変わらず、甘えんぼなんだから」
林檎はそう言いながらも、抱きつくあたしを跳ねのけたりはしなかった。
そりゃまあ、もしこの状況で跳ねのけられたりしたら、あたしとしてはショックで立ち直れなくなってしまうだろうけど。
ひとしきり林檎に甘えきったあと、あたしは改めて彼女たちの前に立つ。
林檎の横には、海斗くんも寄り添うように立っていた。
「ひまわりちゃん、久しぶりっ! 元気そうでなによりだよ。……あっ、よかったらこれ、飲むかい?」
爽やかな笑顔を浮かべながら海斗くんが太い腕で差し出してきたのは、懐かしのミルクセーキだった。
「うわっ、懐かしい~! 海斗くん、相変わらずだね~!」
あたしも笑顔になって再会を喜ぶ。
「ふたりとも、無事だったのね」
「ええ。まぁ、ひまわりもそうだったみたいだけど、私たちも拘束されてたんだけどね!」
明るく笑いながら、そんなことを言ってのける林檎。
「え……それは、その……」
すごく大変だったんじゃ……。
そう考えたのだけど、言ってしまっていいものかどうか判断に困ったあたしの声は、つい、どもり気味になっていた。
林檎たちも拘束されていたというのは予測していたとおりだったけど、あたしと同じような仕打ちを受けたとは限らない。
だから、ひどいことはされなかったという可能性もある。
でもそれなら、わざわざ拘束なんてするわけないと思うし……。
困惑しているあたしの様子に気づいてさえいないのか、林檎は明るい声で近況報告を続ける。
「私と海斗は、別々の場所に拘束されて実験されてたんだけどさ、それをこちらの白亜さんが助けてくれたってわけ!」
「あっ、そうなんだ……」
あたしはふと、さっきから黙って成り行きを見守っている白亜さんに視線を向けた。
「うん、そういうことなんだよね。というわけで、そろそろ僕を信じてくれる気に、なったかな?」
こうやって林檎と海斗くんがここにいて、この人に助けてもらったと証言している。
疑う理由なんて、ない……。
それなのに、どうしてかあたしは、まだ釈然としないモヤモヤとした気持ちが消えないままだった。
「このふたりも今は、僕たちの組織が所有する施設内で生活してもらってる。だからさ、ひまわりちゃん。君も一緒に来ないかい? 絶対にそのほうが安全だと思うし、お友達も一緒だから心強いだろう?」
あたしを説得しようとしているのだろう、矢継ぎ早に言葉を投げかけてくる白亜さん。
それが逆に、あたしの不信感を増大させる。
「で……でも、やっぱりあたしは、今のマンションを出るつもりはありません」
林檎と海斗くんがニセモノだなんてことは、まずありえないだろう。
ついさっきまで、不自然な様子もなくあたしと会話していたのだから、確信を持って言いきれる。
それでもなお、どうしても腑に落ちないあたしは、その自分の直感を信じ、白亜さんに拒否の意思を示した。
「……へぇ~。お友達を信用しないんだ」
「そ……そういうわけじゃないです! でも……」
白亜さんの、ひどい人だねぇ、なんて意味合いを含めたような言葉に、あたしはすかさず反論しながらも、視線は林檎と海斗くんに向けていた。
反論はしたものの、さっきのあたしの言葉は、林檎たちにしてみたら、かつての仲間に裏切られたようなもの。
不快感をあらわにしてもおかしくない、そんな状況だというのは、あたしにもわかっていたからだ。
だけど林檎と海斗くんは、一瞬たりとも苦い顔をすることなく、優しい瞳であたしを見つめ返してくれていた。
――大丈夫、あんたの言いたいことはわかってるわ。
林檎の目は、そう語っているかのようだった。
「……あっ、それじゃあさ、私たちがひまわりのマンションに行くってのは、どう?」
林檎はバチンと両手を合わせると、いいことを思いついたとでも言うように、そう提案してきた。
「そのマンションの部屋で一緒に住んじゃえば、白亜さんたちとしても守りやすいし、政府側としても手を出しにくくなるんじゃない?」
「お~、そうだね~! それはいいアイディアだ! 僕は近くでひまわりちゃんを守れるし、ひまわりちゃんとしてはお友達と一緒にいられて心強いだろうし、一石二鳥って感じじゃないか!」
林檎の提案に、白亜さんは大げさなほどの賛成意見を乗せ、あたしに笑顔を向けてくる。
そういう態度が余計に怪しまれる原因だっていうのに。
ともあれ、林檎と海斗くんがそばにいたからなのか、あたしも少々緊迫感が薄れていたのだろう。
「うん、そうですね。それならあたしも、安心かも」
気づけば素直にそんな答えを返していた。
白亜さんは、あたしを守ると言った。
あたしたちは、宇宙人から力を与えられた、元セイレンジャーのメンバーだ。
そんなあたしたちを政府から守るのが本当に彼らの目的だとしたら、あたしと同じ立場ということになる林檎と海斗くんだって、同様に守るべき対象となるだろう。
あたしはこのときに気づくべきだったのかもしれない。
白亜さんはなぜ、あたしだけが守るべき対象となっているような言い方をしていたのか。
その不自然さに――。




