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歌声戦隊セイレンジャー  作者: 沙φ亜竜
第2話 影に囲まれ咲くひまわり
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-5-

「ケガとか、してないかい?」


 あたしのことを心配した様子で、近づいてくる白亜さん。

 その手があたしの太もも辺りに伸ばされる。


「平気です。ケガもないと思います」


 あたしはとっさに足を移動させて、白亜さんと距離を置いた。


「……痛いところでもあったら、さすってあげようと思ったんだけどねぇ」

「大丈夫です! このスケベ!」


 ついつい声を荒げてしまう。


「うん、本当に大丈夫みたいだね、よかったよかった」


 どこまで冗談だったのかわからない、軽い感じの言葉と笑顔を向ける白亜さんに、やっぱりあたしは警戒心を解くことができないでいた。


「まぁまぁ、そんなに身構えなくてもいいよ」


 そう言われたところで、あたしの不信感が消えるはずもない。

 少しは落ち着いてきていたけど、まだ心も体も距離を縮められないまま、白亜さんが勝手に喋り続けるのを聞いていた。


「それにしても、ひどいねぇ。どうやら政府はまだ、君に対する実験を続けてるみたいだ」

「……え? どういうことですか?」


 白亜さんの言葉に、あたしは不覚にも食いついてしまっていた。

 もしかしたらそれだって、作戦のうちだったのかもしれないというのに。

 心なしか満足そうに微笑み返しながら、白亜さんはあたしの言葉に答える。


「研究施設内ではなく、普通の環境での実験をしたい。そういうことなんじゃないかな? きっと君が解放されたのも、そのためなんじゃないかと、僕は思うよ」


 確かに、そうかもしれない。あたしは素直にそう感じていた。

 ただ、不審な部分は白亜さんにもあるのは否めない。


 政府の人にマンションを与えられてからずっと、平穏な生活を続けていた。あたしの周囲でおかしなことが起こったのは、今日が初めてだ。

 そして白亜さんがあたしに接触してきたのが、昨日のこと。

 これで怪しくないというほうが、おかしいだろう。


 ともあれ、そんな状況でわざわざあたしの前に現れて、余計に怪しさを助長するような言動をするなんていうのも、常識的には考えにくいのも事実だ。

 あたしは、真実がどこにあるのかわからず、困惑を隠せなかった。


「でも大丈夫、僕たちが君を守るからね」

「……はぁ……」


 白亜さんの言葉に、曖昧な返事をすることしかできない。


「できれば、僕たちの組織に来てもらうのが、一番いいんだけどね」

「それは昨日もお断りしたはずです」


 昨日も聞いた提案に、あたしはきっぱりと否定の意思を示す。


「やっぱり気持ちは変わってないのか~。それじゃあ、どうかな、僕が君のマンションで一緒に暮らすとか……」

「もっとダメです!」


 あたしは思わず大声で拒絶していた。

 まったく、なにを言い出すんだか、この人は。


「う~ん、でも安全のためには仕方がないと思うんだけどね」

「そっちのほうが、よっぽど危険です!」

「ほほう、どう危険なのか、詳しく説明してもらってもいいかな……?」


 あたしの言葉に、いやらしい笑みを浮かべながらそんなことを言ってくる白亜さん。

 もしかしてこれって、からかわれてる?

 恥ずかしさと嫌悪感で、かーっと血が上ってくる。

 これ以上この人と一緒にいたら、頭がおかしくなってしまうかもしれない。


 辺りはもう、すっかり夕闇に包み込まれていた。

 冷たい風が吹き抜け、あたしの体を震わせる。

 とりあえず、部屋に戻ろう。

 そう考えたあたしは、


「ふざけないでください! 部屋に戻りますので、あたしはこれで。……ついてきたりなんて、しないでくださいよ!?」


 強い語調で吐き捨てると、白亜さんの返事も待たずにツカツカとマンションのロビーへと入っていった。

 白亜さんは、追いかけてきたりはしなかった。


「そっか。それじゃ、またね」


 とだけ言って、あっさりと引き下がる。


 あたしは振り向きもしなかったけど、足音が遠ざかっていくのは確認できた。

 どうやら素直に帰っていったようだ。

 ほっと息をついて、あたしはエレベーターに乗る。


 いったいあの人は、なにを考えているのだろうか?

 それに、今日あたしに起こった、数々のおかしな出来事……。

 あれは本当に政府の実験がまだ続いているということなのだろうか?


 白亜さんは守ってくれると言っていたけど、絶対に怪しい。

 とはいえ、政府の実験が本当に続けられているのだとしたら、このままこのマンションにいるのも、危険を伴うことになる。

 ここは白亜さんの言葉を信じて、このマンションから出たほうがいいのかな?

 だけど、あの人はさすがに、信用に足る人物とは思えないし――。


 あたしは考えを巡らせることに躍起になりながら、エレベーターから降り、自分の部屋の前まで歩いていった。

 頭の中だけに意識を集中していたからか、あたしは周囲をよく見ていなかった。

 そして不意に、人の気配を感じる。

 すぐ目の前から。


 ハッとして顔を上げると、そこにはひとりの女性が立っていた。

 あたしは身構えることすら忘れ、呆然とその女性の瞳を凝視してしまう。

 そんなあたしにニッコリと微笑みを返し、女性はゆったりとした様子で口を開いた。


「こんばんわ、澄空ひまわりさん」


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