第6話
「これ以上できません」
わたしが言う。
「わたしには無理です」
蛍光灯が点滅するのが気になる。まだ取り換えてないのだろうか。
新宿署の取調室は薄暗いままだ。
「まあ、そうおっしゃらずに」
島村が言う。
「少しお休みになってはどうですか」
わたしは取調室を出た。
廊下を進むと自動販売機を見つける。その隣には公衆電話を載せたMCスタンド。
わたしは缶コーヒーを買い、向かい側の長椅子の腰かける。
缶コーヒーを飲みながらここ一時間に起きたことを思い出す。
新宿署に着くと、島村と藤堂がわたしをこの前同様、取調室に連れて行った。
テーブルにはわたしが念写したモンタージュ写真の他、ハンカチがあった。また藤堂は新宿の拡大地図の用紙を複数抱えていた。
「このハンカチは犯人が落としていったものです」
藤堂が言う。
「電話ボックスを銃撃された後、犯人を追いかけると、犯人はハンドバッグからこれを落としました。
鑑識で指紋を調べると、指名手配中の人物でした。半年前、名古屋で殺人事件がありまして、そのときに犯人の殺し屋と思われる人物の指紋と一致しました」
「そうだったんですか」
わたしが言う。
「コードネーム、サブローと言われているヒットマンです」
島村が言う。
「裏社会では名の知れたヒットマンらしいです。ただ具体的な素性はわかりません。
タレコミ屋からのソースですが、ゲイバーを経営してるらしいです。
今日、綾瀬さんをお呼びしたのは、サブローの居場所を透視してもらいたいからです」
「ちょっと自信ないですが……」
わたしはハンカチや地図に手かざしして透視してみた。
新宿駅東口近辺にサブローが潜んでいそうなことは察知できたが、島村をもっと具体的な居場所を聞いてきた。
透視を何度も試みたがこれ以上は無理だった。
缶コーヒーを飲み終わると、わたしはポシェットを開く。
中からテレカとメモ帳が出てきた。メモ帳には名刺がはさまっている。
この前、エスパラダイムの会合のとき、平井学からもらった名刺だ。彼の勤め先の電話番号が書いてある。
わたしは公衆電話に近づき、テレカを挿し込む。
それから約1時間後、わたしは世田谷の道路工事の飯場にいた。プレハブでできた狭い部屋だった。
藤堂と島村も一緒だった。他に作業員が二人いて煙草を吸っていた。
新宿署の廊下の公衆電話から建設会社に電話したところ、平井学を呼び出してもらった。
平井は今、世田谷の道路工事に行っており、1時間後に飯場に戻るとのことだった。わたしはメモ帳に飯場をしつらえた児童公園の住所をメモした。
わたしは取調室に戻ると、知り合いにダウザーがいることを二人の刑事に説明した。
藤堂の方はダウザーを知っており、早速、三人は覆面車で世田谷の飯場に向かった。
平井学はダウジングロットを持って飯場に現れた。
「突然、呼び出してごめんなさい」
わたしが言う。
「里見ちゃんの頼みなら断れないよ」
平井が言う。
「気にすんなって」
島村が名刺を渡し、事情を説明した。
平井はまだよく全体を理解していないようだが、ダウジングをはじめる。
床の上には拡大地図が置いてあり、平井は立ったままダウジングロットを左右の手に持ち、地図の上を歩く。
そのうちにある箇所の上に来るとロットが左右に開く。
藤堂は屈んで赤ペンでその箇所をマークすると、さらにその箇所を拡大した地図と交換する。
同様に平井がその地図の上を歩く。
再びロットが左右に開いた箇所に藤堂がマークする。
「どうやら新宿二丁目のゲイバー『プルースト』がサブローの居場所のようですねえ」
藤堂は屈んだまま拡大地図を見ながら言う。
「ありがとうございました」
島村は平井に礼を言い、二十万円振り込むから銀行口座を名刺に書いてあるところに電話して教えてほしいと告げる。
わたしはサンテオレの無料ドリンク券三枚を平井にあげる。
「ありがとうな」
平井は飯場を去って行った。
(つづく)




