第4話
翌日の月曜日、コンビニのバイトが非番なので、昼過ぎからカフェバー『ホロスコープ』に行くことにした。
月曜はよく泉が来ているので、マスターの英恵とわたしの三人でエスパラダイムの女子会になることがある。
「あら、里見ちゃんじゃない。いらっしゃい」
店のドアを開けると、ドアベルの音とともに英恵の声が聞こえる。
カウンターに泉が一人すわっているだけで、他に客はいない。
わたしは泉の隣のスツールに腰かける。
いつものようにロイヤルミルクティーを注文する。
泉は昼からカクテルを飲んでいた。ブラディーマリーだ。
「泉さん。昼から飲んでるんですか」
わたしが訊いてみると、泉は「飲みたい気分だ」という。
実は半年前、ある資産家が泉のブティックから300万円で水晶玉購入したが、おととい返品したという。キャンセル料は差し引いかせてもらったが、ブティックとしては大きな損害だ。
この水晶玉は昔、泉がパリのオークションで落札した。もともと高名な水晶占いの占い師が使っていたものだ。
一説にはあのノストラダムスがこの水晶を使っていて、後輩の占い師に引き継がれてきたものらしい。
ただし泉の客は置物として水晶玉を床の間に飾っていたようだ。
ノストラダムスが西洋占星術と水晶占いの二つで未来を予言していた話はわたしも本で読んたことがある。
泉はおもむろにハンドバックから水晶玉を取り出し、わたしに見せる。
「これがその水晶玉よ」
水晶玉はあやしい光を放っていた。
魂を吸い取られるような、名状しがたい不思議な美しさがわたしを魅了する。
水晶玉はわたしを手招きしているような気がした。
「まあ、それなあに」
英恵が近寄って来る。
泉は手短に英恵に説明すると、
「そういえば、もうすぐ英恵さんの誕生日でしょう。これ誕生日プレゼントにもらってくれないかしら」
「だめよ。これ高いんでしょう」
英恵が言う。
「それにブティックのお客さん、なぜ返品したのかしら」
「この水晶を買ってから不幸なことが相次いだと言うのよ。
ペットが死んだり、別荘が火事になったり、子供が階段から落ちて骨折したり」
「そんな呪いの水晶ならいらないわ」
「呪いの水晶じゃないわ。
宝石はもともと人間が選ぶんじゃなくて、宝石の方で持主になる人間を選ぶのよ。
水晶に呪いのパワーがあるんじゃなくて、お客さんと水晶の相性が悪かったんじゃないかしら」
二人の間に気まずい沈黙が続く中、わたしはロイヤルミルクティーを一口飲む。
「あの......もしよかったら」
わたしは思い切って口をはさむ。
「わたしにその水晶譲っていただけないかしら。もちろん、少しはお金を払います」
「あら、里見ちゃんがもらってくれるの」
泉が言う。
「だったらただでいいわ」
「ただはいけませんよ」
「そうねえ、だったらブラディマリー一杯分、おごってくれる? それが水晶の料金」
「でも里見ちゃん、どうしてこの水晶ほしくなったの?」
英恵が言う。
「何となくですけど、この水晶、わたしをオーナーに指名した感じがしたんです」
かくしてわたしはノストラダムスの水晶玉を950円でゲットした。
(つづく)




