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一歩ずつ  作者: AkiraNox


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9/15

章 ― 最後の交渉

「そうです、気に入りました、その態度。では聞きましょう。この薬は、何でできている?」白衣のポケットから青い“エクストラ”を取り出す。

「どういう意味だ!」マルスの目が見開かれる。


「とぼけないでください。私はこの業界に三十年いますが、こんな薬は見たことがない。最初の二時間はまさに夢のようだ。病院の患者は、重篤な病を除けばほぼ全ての病が治癒した。人体の生命活動は強化され、九十歳の老人でさえ普通に走れるようになった。だが数時間後、それは想像を絶する強力な麻薬に変わる。一度飲めば、一分ごとに、もっと欲しくてたまらなくなる。人はゾンビのようになり、苦しみながらも麻薬のせいで自分が死につつあることさえ忘れる。しかも三日間飲まなければ効果は消える。都合がいい。さあ、答えを聞かせてもらおうか」


「よく喋るな。そこまで観察して、秘密がわからなかったのか?残念だが、俺は製造に関わってない。答えられるわけがない」


科学者の顔から笑みが消えた。

「痛めつけろ」


「何だと?」男の一人がマルスの脚を蹴り、マルスは倒れた。


「何しやがる!」

二発目、三発目。容赦なく三人の男が蹴り続ける。


科学者が叫ぶ。「嘘をつくな!早く言え!さもないと殺すぞ!」


マルスの視界はぼやけていく。


(なぜ俺は殴られている?いつからこんなに弱くなった?人生を武器に捧げてきた。あの女に、人を殺すなと叱られるまでは。家族ができて、人の暮らしが少しだけわかるようになって、必要以外は殺すのをやめた。だが、もうどうでもいい。警告しても逆上して、結局殺すことになった。今日だけで何人も殺した。もう、誰が気にする?)


マルスは男の一人の足首を掴み、思い切り引いた。男が倒れる。他の二人を突き飛ばす。


「何をしている!」

倒れた男から二丁の拳銃を奪い取る。武装した男たちが一斉に銃を向ける。


「止まれ!銃を捨てろ!」


マルスは二丁を構え、姿勢を正した。


科学者が叫ぶ。「何を突っ立ってる!あいつは殺し屋だ、殺せ!」


マルスは一発、科学者の額を撃ち抜いた。男はそのまま倒れる。


全員が一斉に機関銃を乱射した。何十発もの弾丸、部屋中が硝煙に包まれる。


老人が手を上げた。「止めろ!」全員が射撃をやめる。目を凝らして煙の向こうを見る。煙がゆっくりと晴れていく。


老人の目が見開かれた。


マルスは倒れた男を盾にしていた。男の体は蜂の巣だ。マルスは死体を投げ捨て、銃を構える。一発、老人の額を撃ち抜く。両手の銃で撃ち続ける。


右の一人はこめかみを撃ち抜かれて崩れ落ち、左の一人は喉を撃たれて血を噴き出しながら倒れる。正面の二人は胸を立て続けに撃たれ、壁に縫い付けられるようにして絶命する。残りの一人は逃げようとして背中を撃たれ、その場に伏した。


弾が切れる。残りの男たちが撃ってくる。マルスは素早く血と死体の海に伏せ、床に落ちていた機関銃を拾う。構え、引き金を引いた。何十発もの弾丸が部屋中にばら撒かれる。男たちの悲鳴が上がり、次々と倒れていく。


「化け物だ!逃げろ!」

「無理だ!」

「死にたくない!」


やがて、静寂が訪れた。


床一面は血の海だった。真っ白だった部屋は赤黒く染まり、肉片と薬莢が散乱している。壁には無数の弾痕が穿たれ、死体は折り重なり、ある者は目を見開いたまま、ある者は顔を潰されて倒れていた。生暖かい血の臭いと硝煙の臭いが充満し、足の踏み場もない。


マルスは機関銃を投げ捨て、エレベーターへと走った。一歩、また一歩。エレベーターに辿り着き、扉を開ける。


ふと思い出す。「そうだ」床に落ちた拳銃を拾い、隠し持つ。エレベーターの最上階、20階のボタンを押した。


「交渉は失敗した。だが少なくとも、ここのトップとは話をしないと。あの現場で何が起きているのか、知らないかもしれないからな」


20階に到着。扉が開き、走り出す。廊下の突き当たりに扉がある。


「きっと社長室だ」


マルスは扉の前に立ち、ノブに手をかけ、唾を飲み込んで扉を開けた。


開けた瞬間、


「すみません……」マルスの目が見開かれた。そこにいたのは女だった。ただの女ではない。数年前に会った、あの占い師だった。


女は近づき、微笑んだ。

「待っていましたよ、マルス」


「お前……!」


「ようこそ、私の会社へ」


「お前の会社?ここはあの男の会社じゃなかったのか?」


「ああ、父のことね」


「父親?まさかお前がアマギ製薬の社長の娘だとは知らなかった。聞きたいことがあったんだが……少しわかってきた気がする」


「ああ、私があなたの経歴をどうして知っていたのかってこと?ええ、あれが偶然の当てずっぽうなわけないでしょう。あなたが思っている通りよ。私たち、あなたの過去をずいぶん調べさせてもらったの」


「お前……!」マルスは深呼吸をする。吸って、吐いて。


「落ち着いて。私はここにそのことで来たんじゃない。会社のトップに会わせてくれ。社長はどうなった?」


「父?ごめんなさい、わからないわ」


「わからない?」


「ええ、本当よ。教えてあげる。父はずっと頂点を目指していたの。Noxar社との契約に必死だった。でもこの“エクストラ”が出てきて、父は従業員の一人に飲ませたのよ。二時間後の奇跡的な効果を見て、父は全てを投げ出して、自らもその薬を飲んだの。そうなったら、もう何もかもどうでもよくなったみたい。ほとんどの従業員をクビにしたわ」


「で、麻薬の効果が出て……今どこにいるかわからないと。街で狂ったように走り回っているか、もう死んでいるか。どちらにしても、私はどうでもいいの」


「それでその隙に会社を乗っ取ったのか?」マルスの目が震える。


女はクスクスと軽く笑った。

「誤解しないで。私、本当はこの会社なんてどうでもいいの。私、マルス、あなたのことが好きなの。お願い、結婚して」


パンッ!マルスは拳銃で女の胸を撃った。女は倒れる。激しく出血し、苦しそうに呼吸しながら叫ぶ。


「何よこれ……どうして!」


「俺には妻がいる!」


女は倒れたまま彼を見上げ、目を閉じた。


「死んだわ」


マルスは急いで外へ出た。

「どうすればいい?助けてくれる人は誰もいないのか?」エレベーターへ向かい、急いで降り、一階へ出て外へ歩く。一歩、また一歩、空を見上げる。


「夜が明けた……これからどうすればいいんだ?」


その時、荒々しく速い音が聞こえた。


「何の音だ?」マルスが振り返ると、大きくて速い、何か不明瞭なものが近づいてくる。さらに近づく。


目を凝らす。目が見開かれる。石油を運ぶ大型のタンクローリーだった。運転席にはヒステリックに体を揺らす男が乗っており、マルスへ向かって突進してきている。


マルスは跳んでかわした。トラックはアマギ製薬のビルへ突っ込み、あらゆるものをなぎ倒して侵入する。


そして――


ドォォォン!!!凄まじい大爆発が起きた。アマギ製薬のビルがあらゆる場所から爆発する。内部の薬品にも引火し、窓ガラスが全て砕け散る。マルスは通りの方へ全速力で走る。爆風が背中を叩き、炎の塊が空に舞い上がり、黒煙が渦を巻く。コンクリートの破片とガラスの雨が降り注ぐ。爆発は連鎖し、止まらない。やがて爆発が収まり、マルスは少し立ち止まる。


「驚かせやがって」ふと、崩落音が聞こえた。


ビルを見ると、巨大な建物が内部から崩れ落ち、あらゆるものが砕けていく。巨大な煙のカーテンがマルスの方へ押し寄せてくる。


「まずい、死ぬ!」マルスは通りの方へ走った。停まっている車があり、男がこちらへ向かって手を振っている。マルスは全速力で駆け寄る。崩れ落ちるビルの破片がすぐ後ろまで迫る中、車に飛び乗り、発進する。二人は崩落をかわすが、ビルは倒壊し、周りの建物を次々と巻き込んでいった。


「助かった、ありがとう」


「礼には及びませんよ、マルス様」


マルスは驚き、言った。


「イノスケ……?」

「助かった、ありがとう」


「礼には及びませんよ、マルス様」


その声を聞いた瞬間、マルスの動きが止まった。


聞き覚えのある声だった。


ゆっくりと隣を見る。


「……イノスケ?」


男は静かに笑った。


「お久しぶりです、マルス様」


マルスは言葉を失った。


燃え盛るアマギ製薬の残骸を背に、車は夜明けの街を走り出す。


一体、何が起きているのか。


“エクストラ”とは何なのか。


そして――


なぜ、あの男がここにいるのか。


マルスには、まだ何も分からなかった。


ただ一つだけ確かなことがあった。


この日を境に――


すべてが変わり始めた。

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