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一歩ずつ  作者: AkiraNox


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8/15

章 ― 仕組まれた罠


まだライガが去った後も、マルスは二人の男に押さえつけられたままだった。


マルスは力を振り絞って体を捻り、背後にいる男の脚を蹴り飛ばした。男はバランスを崩して倒れる。


「しっかり押さえろ!逃がすな!」

「やってるよ!」


「離れろ!」マルスは叫び、男を突き飛ばした。

素早く立ち上がる。逃げようとした瞬間、男が服の裾を掴む。


「逃がすかよ!」

引っ張られ、マルスは後ろに引き戻され、再び地面に倒れた。


―― 図書館の前


二人の男は扉の前に立ち、拳銃を取り出した。銃口をマルスに向ける。


「逃げられると思うなよ!」

マルスは立ち上がり、図書館の方へ視線を向けた。誰にも気づかれないように、そっと手を伸ばし、何かを掴む。


「前に出ろ、さもないとどうなるかわかってるな」

マルスは両手を上げ、ゆっくりと前へ進んだ。


その時、一人の男が気づいた。

「おい、その手に持ってるものは何だ?」


一人がマルスへ近づき、もう一人は銃を構えたまま。

一歩、また一歩。


次の瞬間――マルスの手にあったのは一本のペンだった。躊躇なく男の首筋へ突き立てる。血が噴き出す。


「グ、グググ……ッ」


「何しやがった!」もう一人が引き金を引いた。三発。

パンッ、パンッ、パンッ!


マルスは刺した男の体を盾にした。弾丸はすべてその男の背中に突き刺さり、男は絶命する。

マルスはその拳銃を奪い取り、構える。二人は睨み合う。


そして――パンッ。


しばらくして、マルスはその大きな屋敷から走って出てきた。


「薬を飲んでない人間を探さないと。確か今の東京には二種類の人間がいる。薬を飲んだ人間と、飲んでない人間。その飲んでない人間というのは……」


―― 別の場所、都心


街の人々は完全に正気を失っていた。至る所で車が大破し、爆発が起き、死体が転がっている。

黒い服を着た男たちがいた。胸には奇妙な線で描かれた目のマーク。彼らは青い薬――“エクストラ”の入った瓶を抱えていた。人々はその後を狂ったように追いかけている。


―― 高速鉄道の線路


同じ黒服の男が、線路の上に“エクストラ”を投げ捨てた。

人々が悲鳴を上げて飛びかかる。その中には何十人もの子供たちもいた。奪い合い、殴り合い、互いに噛みつき合う。線路上には数百人がひしめき合っていた。


遠くから、強烈な光が高速で近づいてくる。

暴走する特急列車だ。運転士さえも薬を飲み、ヒステリックな笑いを浮かべている。


列車は減速することなく突っ込んだ。肉が潰れ、血飛沫が舞い、悲鳴が一斉に上がる。何百人もの体が車輪に巻き込まれ、引き裂かれ、線路にへばりつく。列車は血まみれのまま駅を通過し、止まることなく、やがて大きく傾き、横転した。


―― 同時刻


マルスはバイクで千代田に辿り着いていた。街の中心に、巨大なビルがそびえ立っている。屋上には看板。

『アマギ製薬』



『アマギ製薬』


マルスはバイクを止め、降りた。

「薬を飲んでいないはずの人間……競合会社のアマギだ」


正面へ進むと、そこには無数の死体が倒れていた。全員、額に大きな銃痕を残して死んでいる。


マルスは唾を飲み込んだ。

「中に入って、彼らと手を組めないか交渉するしかない。この混乱を止めるために」


慎重に、一歩、また一歩。扉に近づいたその時、轟くような発砲音が響いた。


振り向いたマルスは、長い狙撃用の弾丸が飛んでくるのを見た。スローモーションのように。

弾丸はマルスの目のすぐ脇を掠めた。瞳孔が開く。紙一重でかわしたが、目の横に鋭い痛みと共に血が流れた。


マルスは全速力で社屋の中へ駆け込み、身を隠した。荒い息をつく。


「何だ今のは……向かいのビルからか」

上を見上げても、何も見えない。


「どこへ行った?」立ち上がった瞬間、背後から誰かが飛びかかってきた。押し倒され、地面に固定される。


「誰だ!」マルスが見上げると、息が止まった。

「お前は……!」


あの時のスナイパーだった。少し割れた同じマスクを被っている。


マルスは頭に手を当てた。「離れろ!」

男はその手を払い、マルスの首に両手をかけた。絞めつけながら絶叫する。


「お前が兄貴を殺した!」


マルスは苦しみながらその手を掴み、力を込めてこじ開ける。

「兄貴だと?お前らが俺を殺そうとしたんだろうが!」


その時――内部から放たれた一発の銃弾が、スナイパーの左側頭部を貫いた。男は崩れ落ちる。


マルスは血まみれのまま地面に倒れ、呆然とした。右手を見ると、

年老いた男が立っていた。正装に身を包み、拳銃を握っている。


マルスは身構えた。

男は言った。「ご安心を、マルス様。私はあなたの味方です」


マルスはゆっくり手を下ろした。

「……助けてくれたんだな。とりあえず信じる」


「こちらへ、マルス様。お見せしたいものがございます」

「俺たち?」


マルスは男と共に奥へと進んだ。


「あのスナイパーは何者だ?」

「あれは……ユキという名でございます。幼い頃に全てを捨て、弟と二人、力と金を求めて生きた男です」


「……」


「親が人殺しを拒んだ時、あの兄弟は実の両親を殺しました」

「親を……殺したのか?それは……辛かっただろうな、その後は?」


「それだけです」


「は?それだけ?」


二人は歩く。一歩、また一歩。

奥には上へ続く階段と、エレベーターがあった。二人で乗り込む。


エレベーターには1から20までのボタンが並び、その下に赤いボタンがあった。老人がそれを押す。


マルスは驚いた。「どこへ行くんだ?」

「ご安心を、マルス様。場所は下にございます」

「下?」


エレベーターは地下へと降りていく。マルスは僅かに緊張していた。


やがて到着。身構えるマルス。

扉が開くと、そこには――


広大な地下工場が広がっていた。天井は高く、白い無機質な照明が全体を照らしている。壁一面に巨大なガラス製の培養槽が並び、その中では青と透明の液体が絶えず攪拌され、気泡を立てていた。無数の試験管と遠心分離機、ラベルも貼られていない薬瓶が山積みになり、冷たいステンレスの作業台の上では、まだ乾いていない薬液が不気味な光を放っている。消毒液と薬品のツンとする臭いが鼻を突いた。


マルスは上を見上げ、左右を見回し、唖然とした。


老人は前へ進む。「こちらへ、マルス様」

「あ、ああ」マルスは後に続いた。


一歩、また一歩、一歩、また一歩、一歩、また一歩。通路にはサングラスをかけ、正装した武装した男たちが何人も立っている。


やがて小さな扉の前に着く。老人が扉を開けると、真っ白な小さな部屋があった。中には白衣を着た科学者と、機関銃と拳銃で武装した六人の男たちがいる。


科学者は駆け寄ってきた。

「ようこそ、マルス様。お待ちしておりましたよ」


「俺を……待っていた?」


「ええ、その通り。あなたが来ることは分かっていましたから、準備は全て整えてあります」


「何を準備したんだ?」


科学者は薄く笑った。

「周りを見てください」


マルスが周囲を見渡すと、後ろも前も、すべての男が自分に銃口を向けていた。


「一体何のつもりだ!」

科学者は軽く笑う。「何も。ただ質問に答えてもらうだけです」


「質問だと?」


「そうです、気に入りました、その態度。では聞きましょう。この薬は、何でできている?」白衣のポケットから青い“エクストラ”を取り出す。

マルスは、科学者の手に握られた青い瓶を見つめた。


「……何でできている、だと?」


部屋にいる全員の銃口が、マルスへ向けられている。


逃げ場はない。


科学者は薄い笑みを浮かべたまま、もう一度問いかけた。


「答えてください、マルス様」


「この薬――“エクストラ”は、一体何から作られているのですか?」


マルスは黙ったまま、青い液体を見つめ続けた。


そして――


自分が、すでにこの男たちの掌の上にいることを悟った。

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