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一歩ずつ  作者: AkiraNox


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第十章 ― 地獄への追跡 ―

第十章


テレビでは、ニュースが流れている。


――速報。


男のアナウンサーが生放送で告げる。


「こちら千葉からお伝えしています。東京都で何かが起きました。東京との通信は完全に途絶し、政府は一体何が起きているのかを国民に明かそうとしていません。現在、警察が東京への全ての出入り口を封鎖し、人々の出入りを禁じているのが確認されています」


同じ頃。

マーズはイノスケと共に車に乗り、猛スピードで走っていた。


マーズが口を開く。「最後に会ったときは、お前は一介の士官だったな。昇進したのか」


イノスケ。「ああ、今は対テロ部隊の指揮官だ」


「言ってみろ、お前の部下についてどう思っている?」


「どう思うか? どういう意味だ?」


「何人いるんだ?」


「何人いるかと聞くな。どこにいるかと聞け。一人で千人に匹敵する」


マーズは驚いたように言った。「たいした男だな! よし、では二つ目の質問だ。普段、お前は部下に何を命じている?」


「俺の部下は俺の命令に従うんじゃない。俺への信頼に従うんだ。命令なんて細部の話に過ぎない」


イノスケは続ける。「部下に、国のために死ねと求めるな。敵に、国のために死なせろ」


マーズは軽く笑った。「じゃあ答えてくれ、お前は死ぬのが怖いのか?」


「俺は死ぬのが怖いんじゃない。死ぬまでに十分に生きられないことが怖いんだ」


「その手の質問はよそう。話を聞かせてやろう」


「いいだろう。なんだ?」


「数年前、深く愛した女房がいた。俺にとって何よりも大切な存在だった。俺は彼女のために全てを捨てたし、彼女は俺が誰かを殺して帰ってきたときでさえ、俺の面倒をよく見てくれた」


「それで?」


「だが、ある日、殺人事件が起きて、俺は現場を見に行った。着いたとき、頭から足まで血まみれの男を轢いてしまったんだ。何者かから逃げてきた男を、来る途中で誤って轢いたんだ。そいつが逃げてきた方角を見たとき、そこに、妻が殺されて地面に倒れているのが見えた。犯人もいたが、逃げた。だが、顔は見た」


イノスケは銃を取り出し、マーズに向ける。


「お前だった……妻を殺したのは、お前だった」


マーズは愕然とする。「待て、待て、俺はあの事件を覚えているが、話はそうじゃない」


「武器を持っているはずだ。早く出せ」


「俺は持ってなんか……」


「いや、持っている。早く出さなければ撃つぞ!」


「わかった、わかった」マーズは銃を取り出す。「それでどうするんだ?」


「窓から捨てろ」


マーズは窓から下へ手を出す。イノスケからは見えない位置で、前方を指さし、発砲する。


イノスケが叫ぶ。「何をした!」


「すまない」マーズは銃を捨てる。


手を戻し、上へ掲げる。


マーズが言う。「聞いてくれ、俺を刑務所に入れるか、殺さなければならないのはわかる。だが、前を見なくていいのか?」


イノスケは前方の道路に目をやる。そこには老人が路上に倒れていた。足を撃たれ、大量に出血し、叫び声を上げている。


イノスケは目を見開き、慌ててハンドルに手をかけ、急激に右へ切る。車は大きくよろめき、急停止する。荒く息をつき、マーズの方を見るが、ドアは開いており、マーズの姿は消えていた。


イノスケは素早く車外に出て、道路の左右を見回すが、マーズは見つからない。


「くそっ!」と叫ぶ。


同じ頃、マーズは路地に身を潜めていた。「今のうちに行かなければ」


十時間後、北区の人里離れた場所。


イノスケは軍服を身にまとい、立っている。目の前には対テロ部隊の兵士三十名。


イノスケは大声で彼らに語りかける。


「地獄へようこそ、諸君。今日、我々はこの危機に深く関与している男を殺しに行く。どうやら黒い服を着た連中がいる。殺し屋集団だ。Noxar社のために働いている。あの殺人者マーズの会社だ。ここに彼のことを知らない者はいないだろう。extraという薬を作った会社の社長だ。今日、どんな犠牲を払ってでも、そいつを殺す」


一人の兵士が言う。「マーズ? 隊長の奥さんを殺したのと同じ男ですか?」


「ああ、その通りだ。今日、そいつを殺す!」


「はい!」


イノスケは叫ぶように続ける。


「よく聞け! お前たちはただの兵士じゃない。二本の足で歩く死そのものだ! 敵がお前たちを見れば震え上がり、噂を聞けば逃げ出す! 俺はお前たちを、体が最も強いから選んだんじゃない。心が最も強いから選んだんだ!」


「俺はお前たちに帰ってきてほしいとは思わない。永遠に語り継がれてほしいんだ! 男は一度死ぬ。だが勇者は、男たちの心の中で永遠に生き続ける! たとえ空が地に落ちようとも、ここに立っていろ!」


「周りを見ろ。お前たち一人一人が、互いの兄弟だ。一人一人が、兄弟の武器だ。誰かが倒れたら、抱き上げ、敵の死体の上を進め! 今日、我々は血で自分たちの名を刻む。歴史が我々を英雄として語るか、あるいは全く語らないかのどちらかだ!」


「俺はお前たちに死ねと命じているんじゃない。死の方がお前たちを恐れるように命じているんだ!」


全員が叫ぶ。「はい!」


「よし、その返事が聞きたかった」イノスケは出発の準備をし、手を掲げて叫んだ。「対テロ部隊、朝飯はしっかり食っておけ。晩飯は地獄で食うぞ! 諸君、武器を持って帰るか、武器の上に乗せられて帰ってこい!」


「了解!」全員が叫んだ。


同じ頃、マーズは通りで、薬で正気を失った数人から逃げながら走っていた。


「くそっ、武器がない。今どうすればいいんだ? 何か乗れるものが欲しい」マーズは、薬で錯乱した男が車に乗っているのを見つける。猛スピードで男の方へ走り、ドアを開け、殴りつけて外へ引きずり出す。素早く乗り込む。鍵は挿さったままだ。マーズは素早く車を走らせる。


「家に帰って、マリアとユーリがどうなったか確かめなきゃ」


しばらくして、マーズは家に着く。裏庭へ車を乱雑に乗り入れ、停める。


車から降り、裏口から家に入る。キッチン、応接間、浴室、階段下、誰かいないか探す。素早く二階へ上がり、再び全ての部屋を探すが、誰も見つからない。絶望し始めたそのとき、物音が聞こえる。急いで部屋へ向かい、大きな窓から外を見る。そこには軍の車両が二台、兵士が十名ほど、そしてイノスケの姿があった。九人が機関銃を家に向け、一人がバズーカを構えている。バズーカを担いだ兵士が狙いを定め、家の中を探り、マーズを二階に見つけ、指さす。


マーズは凍りつく。


「目標確認。これより発射する」


マーズは素早く右へ飛び、伏せる。


発射。


砲弾は窓へ向かって高速で飛び、窓を突き破り、


BOOOOOM! 辺り一帯が爆発し、巨大な煙幕が立ち込める。イノスケ。「構えろ!」


やがて、煙がゆっくりと晴れていく。


マーズは奇跡的に軽傷で生き延びていた。激しく咳き込み、煙を払いのけ、立ち上がり、部屋から素早く出る。慎重に、しかし走って裏口から出て、車に乗り込む。


イノスケ側では、九人の兵士が機関銃を構え、マーズが現れるのを待っている。


兵士。「突入命令を、隊長?」


「まだだ」イノスケは周囲を見渡し、車のタイヤ痕に気づく。


そのとき、一台の車が猛スピードで現れる。中にはマーズ。バックし、急旋回して走り去る。


兵士たちは一斉に撃ち始めるが、一発も当たらない。


イノスケは素早く叫ぶ。「二台に分乗して追え! 俺はこっちから行く。後で合流する」


「了解!」


二台の車に乗り込む。一台に、運転手一人、助手席一人、後部座席に三人。もう一台も同じ構成で、猛スピードで後を追う。


しばらくして、高速道路。マーズは爆発した車を避けながら猛スピードで走り、後ろから二台が追う。


兵士たちは機関銃を撃ち、マーズは左右にハンドルを切ってかわしていく。


一台が猛スピードで追いつき、横に並び、もう一台は後方に。


マーズは燃料が尽きかけていることに気づく。武器もない。キッチンから持ち出したナイフが一本あるだけだ。


マーズはナイフを手に取り、ドアを開ける。撃たれるが、ナイフで弾丸を弾き、かわす。敵の弾が切れ、再装填する。マーズはその隙をつく。車が走ったまま、屋根の上に登る。後ろの車から撃たれるが、やはり巧みに避ける。だが一発が掠め、軽い傷を負う。


マーズは敵の車へ飛び移る。自分の車はバランスを崩し、別の方向へ逸れていく。敵の車の中に降り立つマーズ。


「やあ、調子はどうだ?」


一人の兵士が銃を構えて飛びかかってくるが、マーズはその首にナイフを当てる。


一人目、絶命。


残りの二人が叫び、機関銃を乱射するが、マーズは死体を盾にして一発も受けない。一瞬動きが止まる。マーズは死体を一人に投げつけ、もう一人と格闘になる。殴り合い、防御の応酬。腕が上がり、下がり、マーズは相手の膝を蹴る。相手は跪き、マーズは頭を殴りつけ、地面に倒れ、また跳ね起きる。もう一人の兵士が立ち上がるが、マーズは二人目の体も投げつける。倒れたところを抱え上げ、背後に盾にする。


二台目の車からは狙いを定めるが、仲間を盾にされているため撃てない。だが兵士の一人が手榴弾を取り出し、安全装置を外し、マーズの手を掴む。


兵士。「死ぬなら、お前も道連れだ」


マーズは愕然とし、振りほどこうとするが、兵士はマーズを抱えたまま車から飛び降りる。


兵士たちが叫ぶ。「やめろ!」


転がりながら爆発。道路に煙が立ち込める。


視線を車に戻すと、右側の縁に二本の手が見える。頭が出てくる。それはマーズだった。


一人の兵士が正気を失い、マーズに向けて撃ち始める。他の者も同じように撃つ。


マーズは素早く身を隠し、車の側面にしがみつく。


助手席の兵士が窓を開け、銃をマーズに向ける。


「さあ、これが避けられるかな」


発射しようとした瞬間、マーズは兵士の一人から奪っていた拳銃を取り出し、素早く撃つ。兵士は瞬きもせず、頭を撃ち抜かれて絶命する。手から武器が滑り落ち、窓に引っかかったままになる。


マーズはよじ登り、窓までたどり着く。


見ると、運転手は涙を流しながら手榴弾を握りしめていた。マーズは素早く手を上げ、撃つ。運転手は絶命する。だが運転手の死により、車は右へ逸れ、衝突しそうになる。マーズはドアを開け、兵士の死体を素早く放り出し、座席に座ってハンドルを握る。反対側のドアを開け、運転手の死体を投げ捨てる。


二台目の車からは、死体が次々と投げ捨てられるのが見える。


武器を構える。マーズは運転しながら彼らの真正面に出て、ブレーキを踏む。運転手が持っていた手榴弾を取り、安全装置を外し、ブレーキを踏む。車は猛スピードで後ろ向きに、もう一台の車へ向かって下がっていく。


兵士たちは愕然とし、逃げようとするが間に合わない。マーズは車から飛び降りるが、倒れることなく走り続ける。少しよろめく。


車は後退し、もう一台に衝突し、両方の車を巻き込む大爆発が起きる。兵士たちが叫ぶ。「くたばれ!」


白い光が彼らを飲み込んだ。

第十章 ― 地獄への追跡 ―


白い光が、すべてを飲み込んだ。


轟音が高速道路を震わせ、黒煙が空へと立ち上っていく。


炎に包まれた二台の車は、無残な姿で路上に転がっていた。


その場に残ったのは、焼け焦げた車体と、静かに広がっていく煙だけだった。


――誰も、生き残ってはいない。


そう思えるほどの爆発だった。


だが。


少し離れた場所で、ひとつの影がゆっくりと立ち上がった。


マーズだった。


服は破れ、身体にはいくつもの傷がある。


それでも、まだ立っていた。


マーズは荒い息を吐きながら、燃え上がる道路を振り返る。


そして、小さく呟いた。


「……まだ終わってない」


彼は傷ついた身体を引きずるようにしながら、再び歩き始めた。


その先に何が待っているのか。


マーズ自身にも、まだ分からなかった。


ただ一つだけ、確かなことがある。


東京で起きた異変は、まだ始まったばかりだった。

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