↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一歩ずつ  作者: AkiraNox


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

裏切りの引き金

爆発の直後、マーズは地面に叩きつけられた。激しく息を切らし、手の中では拳銃だけが鈍く光っている。


すぐに立ち上がる。横になっている暇などない。だが――車がない、どうする?


その時、頭の上で重い唸り声がした。プロペラの音だ。


見上げると、ヘリコプター。乗っているのは三人。操縦士と、あと二人。そのうちの一人が、イノスケだった。


マーズの目は見開かれた。兵士が構えているのは、ヘリ用の特殊火器――回転式機関銃。


「目標を捕捉。発射準備完了」


イノスケは下を見た。そこには横たわる部下たちの死体。


ゆっくりと手を上げ、言った。


「撃て」


機関銃が凄まじい速度で回転を始め、途切れることのない弾幕を吐き出した。


弾道はマーズの左側から始まり、じりじりと彼へと寄ってくる。マーズは全力で走った。紙一重で弾をかわし、砕けた車の残骸の影に身を隠す。息は荒く、心臓が破裂しそうだった。


ふと顔を上げると、真上にヘリがいる。


また走る。背後ではアスファルトを弾く銃声が追いかけてくる。


――こいつは人間か? どうやって銃弾を避けている?


走りながら、マーズは路肩に一台の車を見つけた。そこへ向かって駆ける。一歩、また一歩。ようやく辿り着き、ドアを乱暴に開けて滑り込む。キーはない。ハンドルの下の小さなパネルを叩き割り、中のコードを引きちぎって直接繋ぐ。エンジンが唸りを上げた。


マーズはアクセルを床まで踏み込んだ。車体に何発か食らったが、車は止まらない。前へ、前へと突っ走る。


ヘリが追ってくる。だがマーズは狭い路地にハンドルを切った。ヘリは入れない。


しばらく路地の中で停車し、ヘリが去るのを待つ。


「ここに長くはいられない」


ヘリが反対方向へ旋回した隙に、一気に飛び出した。高速道路へ出て、さらに速度を上げる。不思議なことに、イノスケは自分を見ているはずなのに、追っては来ない。代わりに携帯を取り出し、誰かに電話をかけていた。


数時間後。


日は落ち、辺りは薄暗くなっていた。


マーズは止まらない。限界まで飛ばし、ある場所を目指していた。


「あの辺にあるはずだ」


車の後ろには薬で朦朧とした人間たちが山積みにされ、前にもゾンビのようにふらつく連中が徘徊している。マーズは容赦なく彼らを轢き潰して進んだ。


そして、目的地に着いた。


「やっと着いたか……ガソリンスタンドだ」


給油機の横に車を止め、降りる。背後から来た連中に向けて拳銃を撃つ。弾切れになる。ポケットから予備弾を取り出し、リロードして再び撃つ。全て片付けると、給油ノズル――ソンデを取り、給油口に差し込んだ。


給油したままにして、彼はスーパーマーケットの中へ入った。一歩、また一歩とゆっくり歩く。ジュースの缶を取り、食料を手に取り、食べながら歩く。


その時、外から何台もの車の音がした。


マーズは拳銃を抜き、身構える。


車のドアが乱暴に開閉する音。ゆっくりと前へ進む。足音が聞こえる。息を潜めて待つ。


一歩、また一歩。


身構える。


一歩、また一歩。


突然、対テロ装備の兵士が姿を現した。


男はマーズを見つけ、素早く銃を構えて叫んだ。


「いたぞ――」


――パンッ!


男は倒れた。マーズが頭を撃ち抜いたのだ。


別の兵士が叫ぶ。


「今の音は何だ!?」


全員が駆け寄ってくる。床に広がる死体と血溜まりを見て、前を見る。そこにマーズがいた。


マーズは撃つ。一人目が倒れる。二人目は隠れる。


マイクを取り出し叫ぶ。「ここだ! 全員こっちに来い!」


通信を切り、マーズのいた方を見るが、もう誰もいない。


次の瞬間、マーズはその兵士の背後に現れ、頭を撃った。即死だった。


走ってくる足音。六人の兵士が現れ、死体を見回す。


「ここで何があった?」


突然、瓶の並んだ大きな棚が彼らの方へ倒れてきた。


「うわあああっ!」


棚は彼らの上に崩れ落ちる。瓶が割れる音。マーズは棚の裏にいた。


血が棚の下から流れ出るのを見つめ、身を翻したその時、下から物音がした。棚が上下に揺れている。誰かが持ち上げようとしているのだ。


マーズが棚を持ち上げると、兵士たちはまだ生きていた。虫の息だったが。マーズは銃口を向け、引き金を引いた。


しばらくして、マーズはスーパーを出た。


外には兵士たちが乗ってきた三台の車。


それらを無視し、自分の車へ向かう。ドアを開け、ポケットから新しいライターを取り出し、火を点け、燃えたまま地面に投げ捨てた。


そして全速力で発進する。給油機は止めておらず、燃料はゆっくりと流れ続けていた。


スーパーの裏から、マイクを持った兵士が隠れながら出てきた。


「はい、閣下。かろうじて見つからずに逃げました。奴は例の合流地点へ向かっています」


「よし。すぐにこちらへ合流しろ」


「了解」


通話を切り、兵士の車へ向かおうとした時、奇妙な液体の流れる音に気づいた。左側の地面を見ると、燃料がゆっくりと流れ、そばには燃えるライター。燃料はライターへと向かっていた。


兵士は冷たく呟いた。


「くそっ」


BOOOOMッ! スタンド全体が爆発した。


マーズは前へと走り続けていた。


辺りは静かだったが、突然背後から車が現れる。


「またかよ。くそっ、もっと飛ばす」


アクセルを踏み込み、橋へと入った。猛スピードで走り、二台の車がすぐ後ろに迫る。


「このままなら追いつかれは――」突然、破裂音。タイヤが爆発したのだ。車が止まる。マーズは素早く飛び出し、道路に仕掛けられたスパイクストリップを見た。それがタイヤを潰したのだ。


二台の車が止まり、中から次々と降りてくる。九人の兵士。そしてその後ろから、イノスケが一歩一歩前へ進んでくる。


兵士たちは唾を飲み込み、一人は祈りを唱え、他の者は震えていた。


イノスケが口を開く。


「怖いのか? 怖いのかと聞いている。あいつの力を見て、怖気づいたのか。よく聞け」


そして肺の限りに叫んだ。


「大きさを見るな! 身長を見るな! 見ろ、あいつは一人だ! たった一人だ! あいつは一人、俺たちは二十人だ! あいつは一人、俺たちは一つの心だ! 強い奴が怖いんじゃない、バラバラだから怖いんだ! 俺たちはバラバラじゃない!」


マーズは疲労で息を切らし、少し血を流していた。


「見ろ! あいつは息をしている! 疲れるんだ! 血も流れる! なら神じゃない! ただの男だ……男は、倒せる!」


兵士たちは震え、一人は鳥肌を立て、唾を飲み込んだ。


「はい、閣下!」


その時、マーズは車のドアを開け、何かを取り出した。兵士から奪ったM4アサルトライフルだ。彼らに向けて構える。


「よし、今から戦争だ」


イノスケは舌打ちした。「この野郎が!」


恐怖が兵士全員の顔に浮かんでいる。


マーズは呟く。「弾は二十発しかない。威圧するしかない」


左右を見回す。


「何かおかしい」


もう一度見る。


目が見開かれる。「九人いたはずだ。ここには八人しかいない。もう一人はどこだ?」


目を凝らし、彼らの背後に注目する。


隠れている兵士がいた。スナイパーライフルを構えている。


「まずい」


発射! スナイパーは長く速い弾を放った。


同時にマーズも撃った。


二つの弾丸が同じ軌道を、空中を飛ぶ。


二つの弾は速く、同じ方向へ向かっていた。


中間地点で衝突した。鋭い金属音が響き、細かな破片が空中に散り、残りの弾頭は軌道を逸れて飛んでいった。


マーズはもう一発撃つ。弾は兵士たちの足元を掠め、スナイパーへ向かう。頭部に命中。即死だった。


兵士たちはパニックに陥る。


イノスケが叫ぶ。「くそっ、今どうする? アサルトライフルを持ってるから何だってんだ?」一人の兵士が後ずさり、足を宙に浮かせた。イノスケが怒鳴る。「止まれ! 一歩も引くな! 今引いた奴は一人で死ぬぞ! 倒れた奴を見るな! 残った俺たちを見ろ! 俺たちがここにいる! 一発は重いかもしれん、だが俺たちの一撃は二十発だ! あいつは体一つで戦い、俺たちは絆で戦うんだ! 行け、あいつは俺たちが武器に気を取られている隙に、その正確さと速さで俺たちを翻弄しているんだ!」


兵士たちは一歩前に出る。「くそったれ、兵士の何たるかを教えてやる」全員が武器を捨て、走り出した。


マーズは驚愕する。「何だ? 素手で来る気か? 望むところだ」マーズも武器を捨てた。


イノスケも走る。武器は地面に置いたまま。


マーズはイノスケへ向かって突進する。残りの兵士たちはナイフを握っている。


一歩、また一歩、マーズ。


一歩、また一歩、イノスケ。


二人はぶつかる。マーズの右側頭部への一撃。イノスケは両腕で受け止め、耐える。今度は左から。今回は入った。


イノスケは体勢を立て直し、反撃する。互いの腹へ、連続で拳がめり込む。


マーズは攻撃をいなしながら打つ。体を翻し、空中で宙返りし、足でイノスケの頭を蹴る。イノスケは後ろへ弾かれる。


マーズが着地する。


背後から兵士がナイフで襲ってくる。マーズは手首を掴み、締め上げ、ナイフを落とさせる。


また背後から襲撃。だがマーズは身をかわす。


最初の一人を殴り、後ろへ下がらせる。二人目がマーズの頭を狙って蹴りを放つ。マーズはしゃがみ、その足を掴み、振り回して一人目に投げつける。


後ろからさらに三人。マーズは素早く落ちていたナイフを拾う。一人目が来る、頭に突き刺し、そのまま残りの二人に投げつける。


前を向いた瞬間、背後から気配。


イノスケだ。両手を振り上げ、マーズの頭を叩く。マーズはしゃがんでかわすが、二撃目で手を掴まれ立ち上がる、そのまま腹を蹴られる。血を吐くイノスケ。


背後から兵士がマーズの首を絞める。苦しみながら腕を叩く。二人目が顔を殴る。マーズは少し朦朧とする。


だが叫び声を上げた。


「あああああっ!」


前の兵士の体を足で駆け上がり、後ろの兵士の拘束から逃れ、その背後に回り込む。首を絞め、駆け寄ってきたもう一人を担ぎ上げてぶつける。ナイフを手に取り、二人まとめて刺す。他の者が来るが、イノスケは倒れて起き上がろうとしているところに、飛んできたもの――ナイフが頭へ。柄の部分が当たり、意識を失う。


五対一。うち二人はナイフ持ち、残りは素手。


連続で襲いかかるが、マーズは全てかわす。跳躍し、兵士の顔を踏み台にして後方へ跳ぶ。


立ち上がり、構える。兵士たちも構える。


マーズが突っ込む。彼らも叫びながら走る。


激突。蹴りをかわし、一人の顔面を殴る。


他の者が来る。一人の腹を殴る。血を吐いて何歩も後退し倒れる。ナイフを持った奴が斬りかかるがかわし、ナイフを奪い取り、その口に突き立てる。口から血を噴き出して死ぬ。口からナイフを引き抜き、死体が倒れる。別の奴が来るがかわし、背中にナイフを突き立てる。悲鳴を上げて倒れる。


「残り三人。一人は倒れてる、あと二人」


二人がマーズへ向かって走る。一人目が殴りかかる。マーズが構えた瞬間、途中で止まる。


「囮か?」


背後から二人目が跳び、足を伸ばしてマーズの頭を狙う。マーズはかわす。兵士は落ちてすぐ立ち上がる。一人目が殴りかかる。マーズはわずかに頭を後ろに逸らしてかわし、二撃目を手で掴んで後ろへ放り投げる。二人目と打ち合いになる。顔を殴られるが、相手が突然ナイフを出して顔を狙ってくる。掴んで奪い取る。


「おいおい、ルール違反だろ」ナイフを取り上げる。


その時、背後から叫び声。


「ああああっ!」


拳銃を持ち、引き金に指をかけた兵士がいた。


マーズは持っていたナイフを振り、引き金を引こうとした指を切り落とした。男は空中に落ちながら倒れ、マーズはその首をナイフで斬りつけ殺す。


二人目の方へ戻り、頭の上からナイフを振り下ろす。頭蓋を貫通し、死んだ。


マーズは立ち止まり、激しく息をつく。周りには死体と血。背後で擦れるような音がした。


振り向くと、倒れたはずの兵士が逃げようと這っていた。


背後から近づく。


一歩、また一歩。


兵士は怯え、必死で逃げようと這う。力を振り絞って這う。


一歩、また一歩。


怯えながら、掠れた声で言う。「あ……」


一歩、また一歩。


全力で這って逃げようとする。足と手で這う。


一歩、また一歩。マーズは彼の前に立ち止まり、真っ直ぐ見下ろす。


兵士は見上げる。目はこれ以上ないほど見開かれ、顔は真っ青、涎を垂らしている。


「ああああっ」


マーズはナイフを振り上げ、力任せに振り下ろした。


――ガシッ!


誰かがマーズの手首を掴んだ。


イノスケだ。言った。


「心はないのか?」


見つめ合う。


兵士はまだ上を見上げ、顔は青白く、目は見開いたまま、涎を垂らしている。すでに死んでいた。


マーズ。「そういうことか。怒ってないのか?」


「なぜ怒る? 彼らは英雄として死んだ。街を守って死んだ。自分たちの前に死んだ者たちの希望を背負って死んだんだ」


マーズ。「そうか。でもがっかりしたよ、正直」


「なぜだ?」


「もっと強いと思ってた。でも他の奴らと変わらない」


「ああ、変わらないさ。彼らは俺の兄弟だからな。だが隊長として、お前を殺さなきゃならない」


突然、イノスケはマーズの顔を殴り、後ろへ吹き飛ばす。マーズは少しよろめくが踏みとどまる。口元に指を当て、血を見る。少し血を吐き出す。そして素早く戻り、同じように殴り返す。イノスケも後ろへ下がる。


イノスケが走る。互いに凄まじい速さで殴り合う。マーズは少ししゃがみ、イノスケの一撃をかわし、打ち返すが、イノスケは軽く手を払う。


連続攻撃を軽くいなす。イノスケはマーズの腕を掴む。マーズはその背中で宙返りし、振りほどき、足を蹴る。


イノスケはマーズの腹を蹴り、膝をつかせる。足が顔面へ向かってくるのが見えるが、かわす。


そうして二人は三十分もの間戦い続けた。その三十分の光景――


イノスケがマーズの顔を殴る。


マーズがイノスケを持ち上げ、車へ投げつける。


イノスケが鉄パイプでマーズの頭を殴る。


互いに凄まじい速さで打ち合い、マーズは回転してかわし、イノスケを殴り、跳んで蹴り、膝や足も使って打ち合う。


三十分後。


二人とも消耗しきっていた。


マーズはイノスケを突き飛ばし、口元の血を拭う。


その時、海の方、橋の下を何かが進んでくるのが見えた。小さな船、いやボートだ。


イノスケ。「俺は……やっぱり拳銃なしじゃ戦えないよ。悪いが素手の遊びは終わりだ」


拳銃を取り出し、マーズに向ける。


「心配するな。お前を殺したら、ルールを破った罰としてすぐに後を追う」


マーズは向かってくるボートを見て、橋の下へ降りる。そしてイノスケへ視線を戻す。


「悪いけど、殺されるわけにはいかない。やらなきゃならない仕事があるんだ」


イノスケ。「俺も悪いが、ここで今、お前を殺さなきゃならない」


「なら、やってみろ」


マーズは橋の後ろ側から飛び降りた。イノスケが叫ぶ。「うわああっ!!」


駆け寄る。「自殺したのか?」


下を見る。そこには小さな船と、その上にいるマーズがいた。


マーズは前を見る。港が見える。


「体が壊れた。飛び降りるんじゃなかった。行かないと」


しばらくして、マーズは港に着く。


雨が降り始めていた。


大量の雨。


マーズは港に降り立つ。頭を下げたまま歩く。


一歩、また一歩。


顔を上げる。


目が見開かれる。


雨の中、血まみれの男が立っていた。


「まさか……」


イノスケだ。


「どうやって追ってきた?」


背後に兵士の車が見える。


「そういうことか。よし、続きをやるか?」


イノスケが叫ぶ。


「AAAAAAAHHHHH!!」


マーズへ向かって走る。


マーズも走る。


二人はぶつかり、拳を握り締めて殴り合う。


しばらくして。二人とも疲れ果て、雨の中で殴り合う。


マーズが腹を殴る。


イノスケは腕を掴んで投げ飛ばし、殴りかかるが、マーズは素早く立ち上がって殴り返す。イノスケが倒れ、突然拳銃を取り出しマーズへ向ける。マーズは素早く叩き落とし、武器を遠くへ弾く。イノスケは倒れ、空を見上げる。


マーズは立ち尽くし、イノスケは地面に倒れたまま、二人とも荒い息をつく。イノスケはかろうじて息をしている。


イノスケ。「……失敗した」手を上へ上げる。「妻の仇を討つのに、失敗した」


マーズ。「いや、失敗じゃない」


イノスケが顔を向ける。「どういう意味だ?」


「お前に本当の話をする時間を与えなかった。話させてくれ」


「お前の話なんて聞きたくない」


「せめてチャンスをくれ。損はしない。むしろ楽になる」


イノスケは再び空を見上げる。「話せ」


五年年前、日本、東京。


マーズは人混みの中を歩いていた。一歩、また一歩。


混雑から抜け出す。


「やっと出られた」左を見ると、路地がある。そこに女性と、彼女から鞄を奪おうとしている男がいた。


「俺には関係ないことだが、放っておけないな」全力で走る。一歩、また一歩。


男が拳銃を取り出した。


「鞄をよこせ」


「やめて、誰か助けて!」


マーズ。「そこで止まれ」


男はマーズを見る。「くそ、逃げるしかない」マーズは飛びかかり、押し倒す。


「離せ」


「離さない」


女性の方を向く。「何してる、早く逃げろ」


「は、はい!」女性は走って逃げる。


男。「離せって言ってるだろ」引き金を引く。


銃声。


マーズはかわす。


男は怯える。「ど、どうやって……どうやって銃弾をかわした? 化け物か?」


マーズ。「ああ、よく言われるよ――」言葉が止まる。地面についた手に血が付いているのに気づく。


下を見る。血が流れて自分の方へ来ている。


少しクラッとする。後ろを振り向く。


目が見開かれ、心臓が激しく打ち、強い耳鳴りがする。


女性がいた。頭に銃弾を受けて死んでいる。目は開いたままだ。


マーズはバランスを崩す。その隙に男は拳銃を落として逃げる。


正気に戻ったマーズは、逃げる男を見つけ、素早く拳銃を拾い、肩を狙って撃つ。肩に当たり、男は膝をつく。


「ぎゃあああっ!」男はすぐに立ち上がり、血まみれのまま走り続ける。マーズは撃とうとするが、拳銃には二発しか入っていなかった。男は走り、逃げ、通りに出る。そこへ猛スピードの車が来る。乗っているのはイノスケ。


イノスケは急ブレーキを踏み、ハンドルを右に切るが、車は男に衝突し、男は遠くへ飛ばされて倒れる。イノスケは男が逃げてきた場所を見る。そこには倒れて死んでいる妻の姿。


マーズと目が合った。一瞬だけ。だがすぐに姿を消した。


――現在。


マーズ。「これが本当の話だ。分かったか?」


イノスケは上を見たまま。「本当なのか?」


「信じないのは分かってる――」


「いや……信じるよ、マーズ」微笑む。「信じる。俺たちは……似た者同士だと分かったからな」イノスケは目を閉じる。手から力が抜け、頭が少し傾く。


マーズは空を見上げる。「くそ、くそ、くそっ」


数時間後。東京の中心、千代田区大手町。


マーズ。「あそこにある、巨大なビルだ」


NOXAR本社、製薬会社。


マーズは素早く中へ入る。一歩、また一歩と急ぐ。階段へ向かい、駆け上がる。一歩、また一歩。


怒りの表情を浮かべ、登る。一歩、また一歩、また一歩、また一歩、また一歩、また一歩、また一歩、また一歩、また一歩、また一歩、また一歩、また一歩。


最上階の一つ下の階に着く。そこにある唯一の部屋へ急ぐ。勢いよく入る。


中へ入りながら叫ぶ。


「ライガ!! どこにいる!?」


社長机に誰かが座っているのに気づく。椅子は後ろ向きで、窓の方を向いている。


「よく来たな」


椅子がゆっくりとこちらへ回る。


「やあ、マーズ」


マーズ。「何だと? ジャック? ここで何してる?」


ジャック。「お前は俺が何を経験したか知らないんだ、マーズ。聞いてくれ、マーズ、あいつらは化け物なんだ!」


「どういう意味だ? 誰が?」


マーズ。「俺たちは死を恐れてるんじゃない、死ぬという考えを恐れてるんだ。俺たちは毎日少しずつ死んでるんだ。過ぎる一日一日が、死の一部なんだよ」


「死なないように止めに来てくれるのかと思ったら、死を怖がらなくなるような哲学を語るのか」


「教えてくれ、マーズ。人生は短いと思うか?」


「人生は短くない。俺たちが忘却によって短くしているんだ」


「なるほど、ありがとう。そして……すまない」ジャックは真っ黒な小さな棒を取り出す。先端には赤いボタン。


「あいつに言われたんだ。これをやれば妻は見逃してやるって」ジャックはボタンを押した。


マーズはありったけの力で叫んだ。


「ジャックううううっ!!!」


会社の外。


突然――


BOOOOOOMッ!!


最上階の一つ下の階全体が爆発した。

会社の外。


突然――


――ドォォォォォォンッ!!


凄まじい爆発が東京の夜を震わせた。


NOXAR本社の最上階、その一つ下の階が一瞬にして炎に包まれる。


窓ガラスが次々と砕け散り、黒煙が夜空へと立ち昇っていく。


そして――


マーズの姿は、炎と煙の中へ消えた。


生きているのか。


死んだのか。


誰にも分からない。


ただ一つ確かなのは――


この爆発を境に、すべてが変わり始めたということだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。