聖歌ロックンロール05
わたしの頭は混乱していた。
どうしてステージの上にいるんだろう。
文化祭初日十四時。軽音部、軽音同好会のステージのセンターに。
照りつける、スポットライトが汗を肌から滲ませる。
それはやがて水滴となってわたしの足元に落ちて、まるで黒い血痕のような染みを作った。マイクのシールドケーブルがどうしてもしっくり来る位置にこなくてわたしは何度も円を作っては崩した。砂場に思い通りの絵が描けない子供のように。
わたしの足元、ステージ下にいる百人ほどの観客に目を向けないためにも、そうし続けていた。
事の発端は三十分前。歌えるのはわたしだけ、苦しそうに咳き込む高木さんからそう説得されたわたしは気づけばここに立っていた。
いや、説得なんかされていない、流れ、流されて、ただ流されただけなのだ。
正体がバレないように渡されたヴェネチアンマスクは熱がこもってやっぱり汗が吹き出してくる。マスクの縁に溜まった汗を指先で拭う。
高木さんよりわたしの方が十センチは背が高い。微妙にサイズの合ってない衣装を誤魔化すためにチュールスカートの下にジーンズを履いてローファーの代わりにエンジニアブーツ。重く、硬く、自己主張の強いその革のブーツは、わたしの足を地面につけてくれるそんな重さ。今にも逃げ出したい、フワフワとしたわたしの足をステージに貼り付けるそんな重さ。
ステージ開始まであと十秒。
誰にもバレてないよね?バレていたからってもう、どうしようもないんだけど。
イヤーモニターなんてないから、楽屋で聞いた歌い出しのタイミングと歌詞を思い出す。
スネアからハイハットに入って3カウント。
スネアからハイハットに入って、3カウント。3カウント。3カウント。
気づくと耳の端にスネアのリズムが聞こえてくる。柔らかく細いリズム。
それからハイハットのタイトな音。
わたしは頭の中でカウントを始めた3、2、1
もうどうにでもなれ!
わたしは在らん限りの声で歌詞を絶叫した。
『光あれ!!歪みあれーー!!!』




