聖歌ロックンロール03
アリス先輩は続ける。
「『真理は自由にする』を、暴露の歌に変えちゃおうか」
「ヨハネ八章三十二節『眞理は汝らに自由を得さすべし』」
「普通は信仰による解放だけど……」
「学園祭ロックでは、隠されていた事実を歌ってしまう方向にできちゃうってワケ」
「なんかずっとアタシが歌詞書いてるんだけどぉ?お金もらうわよ。まあ良いけどさぁ」
アリス先輩の文句を微笑ましく見ながらわたしはメモのためにペンを走らせる。
『真理を知らん』
『真理は自由を得さすべし』
『ならば、隠した名前を呼べ。ならば、封じた声を返せ』
「……こんなもんでどう?」
アリス先輩がドヤ顔で高木先輩を見据える。アリス先輩は口語訳も文語訳も自在のようだった。
「完璧! 学園の管理構造への抵抗に使えちゃうね」
高木先輩の言葉にアリス先輩が親指を立てた。
「もっとロックにしちゃおうか」
アリス先輩はノリに乗っているようだった。
「さっき御影先生が落としていった『祈りの火』を、放火寸前の比喩にする」
「ルカ十二章四十九節『我は火を地に投ぜんとて來れり』」
「これ、単独でかなりロックじゃない? 聖句なのに火炎瓶みたい」
「『火を地に投ぜんとて来た。その火すでに燃えたなら、わたしたちは何を望む。火を消す水ではなく、荒げる声を』」
わたしが読み上げると、高木先輩が唸った。
「『聖霊の火』っぽく見せながら、実際は抑圧された少女たちの怒りが燃え広がる歌になる。礼拝堂で歌ったらめっちゃ映えそう!」
「『歌え』と命じられたから、歌わない」
「それを反転させて歌うってのはロック?かしら」
雪乃先輩がロックの定義を問うように語りかけてきた。
その言葉にアリス先輩が答える。
「それいいね、わかってんじゃん雪乃。詩篇からだね。アタシ呼ばなくてもよかったんじゃないのぉ」
「捕囚の民が、支配者から『歌え』と求められる場面があんのよ」
「詩篇百三十七篇三節、四節『われらを虜にせしもの、われらに歌をもとめたり、いかで神の歌をうたはんや』」
「それ、今の私たちじゃん!」
「 学校側が『聖歌なら歌っていいよ』って上から目線で許可出してる構図そのもの」
高木先輩のテンションが最高潮に達する。
「じゃあ返してやるよ!『ならば聞け、これは慰めの歌ではない』って!」
静寂に包まれた図書室の奥、この小さな司書室の中だけで、少女たちの熱いジャムセッションが臨界点に達しようとしていた。
神聖な聖書の言葉たちが、次々と過激なロックの牙へと研ぎ澄まされていく。
「アイデアあるだけ出しとくね。『剣を買え』を、楽器を武器化する歌にする」
「ルカ二十二章三十六節『劍なき者は衣を賣りて劍を買へ』」
「それは流石にそのまま使うと攻撃的すぎるかしら」
「暴力に直結する言葉は、御影先生もかばいきれない」
雪乃先輩の言葉に御影先生が目だけで頷いたようだった。
うんうんと頭を抱える高木先輩を見て、わたしはポロッと言葉をこぼした。
「あの……逆に剣を楽器に置き換えるのはどうですか? 」
『剣なき者は衣を売りて剣を買え』
「わたしたちは……制服を脱がずに、ギターを鳴らす」
「……校則は守ったまま、音楽で抵抗するんです」
「さっすが雪乃の恋人!!」
アリス先輩と高木先輩の声がハモった。
「えっと、恋人じゃ、ないです」
わたしの言葉はあっさりとスルーされどんどんヒートアップする二人。
「あとは落ちサビよね『黙すに時あり、語るに時あり』を、サビの爆発にしようか」
「もう一回、伝道の書三章七節を出して〆ちゃおうか」
『黙すに時あり語るに時あり』
『わたしたちは今日まで黙した』
『だから今、語る。だから今、歌う』
出来上がっていく強烈な歌詞のメモを見つめながら、わたしは圧倒されていた。
アリス先輩は言った
「タイトルをつけるなら、やっぱりこれっしょ」
『光あれ、歪みあれ』




