湖上の花冠06
6
いつの間にか雨はほとんど止んでいた。
再びの外出が顧問の先生にバレてしまうと、大問題になりそうだったけれど、散歩してましたって言えばいいのよ。先輩はそんな気やすさで霧雨の中、傘を差しながらそう言った。
瑞希先輩は園田さんの様子を見ておいてもらうことにしたわたしたちは二人、雨中の検証を始めた。
月明かりが西の空に沈みかけ、湖面は満点の星空も薄く波紋の中に溶かしてゆく。
それは流れ星のかけらが落ちる夜と朝の間の時間帯だった。
「先輩が言う通り、ロープに擦り後、確かにありました」
「ほら、ここみて、この結び目」
「グレープバインね」
「これがわかればあとは大丈夫」
先輩はライトも当てずに断言した。
夜目が効くのだろうか?わたしには結び目は何も見えない。
雪乃先輩は結び目の名前?それだけを言うと、先輩は足元も気にせずに桟橋の縁に爪先をのせてふわり、と歩いた。なんとなく先輩なら重力もないように水面も歩きそうだな。水面に波紋を作りながら歩く先輩を一瞬だけ夢想するまた悪い癖だ。わたしは首を振って妄想を追いやると先輩が見たい場所をライトで照らしてゆく。
先輩の調査は五分もかけないくらいの簡素なもので、室内に入ると先輩は考え込みながら何かをブツブツと呟いていた。
「今回の事件の真相はね、四人だけの秘密にしようかな……って思うんだけど」
どう?とは聞かずにわたしの目を見据えてくる。
気づけば雪乃先輩の目の前には瑞希先輩が精魂尽き果てた、と言った様子で座り込んでいた。先輩はどうするのがベストなのか考えあぐねて唸り続けている。
「やっぱり大問題になりますかね?」
わたしは真相がどんなものかわからなかったけれど、先輩に問いかけてみた。
「真相が学内にばれたら、瑞希の部は廃部の可能性があるわ」
雪乃先輩の言葉に絞り出すように瑞希先輩は言った。
「廃部……」
わたしはどんな言葉をかけるのが良いのか思いつかず黙り込んでしまう。
「命に関わることは、もう先生に渡したわ」
「ここから先は、園田さんの恋と、瑞希さんの部だけの問題よ」
「だから、嘘をつくんじゃない。言う順番と内容を選ぶだけ」
「これってやっぱり詭弁かしら?」
でも私別に、警察組織じゃないしな、そんなことを呟く先輩はやがてはっきりと言った。
「謎は全部解けてるから……」
「え、今なんて言いました?先輩?」
「謎は解けてるのよ……誤魔化す方法がどうしても難しくて」
「うーん、どうせ私は図書館登校の問題児だし、覚悟決めちゃいましょうか」
先輩は一人で納得すると
「さっき顧問の先生に簡単に説明したけれど、園田さんとも口裏は合わせてできるだけ事実をベースに少しだけ脚色しましょう」
先輩は両手を祈りのポーズに合わせると目を閉じてそう言った。
「これは瑞希さんとわたし、起きてきたら園田さんもだけど、三人の秘密よ」
「今なんて言いました⁉︎」
わたしは思った以上に大きい声を出してしまって慌てて自分の口を押さえた。
だって、わたしだけその中に含まれていなかったから。
「わ、わたしだって、きょ、共犯……です!」
また最後の「です」だけ少し声がうわずってラウンジに響いた。
「下手したらもかちゃんだって停学くらいの可能性はあるのよ」
先輩は何もわかってない子供に噛んで含むように悲しげな表情でそう言った。
「て、停学」
わたしはその言葉に何も言えなかった。
秒針だけが定期的な音を立ててわたしがいつ決断するのかを待ちかねているようだった。
「せ、先輩がやるっていうならわたしも最後までお付き合いします。したいです」
「するんです。絶対です」
わたしは言い切った。
先輩は大きくため息をついた。同時に時計が五時を告げる鐘を鳴らした。
それは、もう後戻りできないとわたしに宣告するような響きを持っているようだった。 それから先輩は語り出した。事件の真相を交えつつ。
ただし動機だけは何度聞いても答えてくれなかった。
わたしと瑞希先輩は園田さんが使った方法、トリックと言った方がいいのかに驚きつつも、まずは口裏をしっかりと合わせるために何度も細部まで確認をした。
少なくとも三人の間の齟齬はないように。
「完全に隠し通すのは絶対に無理なので、不可抗力の事故ということでね」
先輩は少しだけ笑いながら言った。
「先輩少し楽しそうですか?」
「何言ってるのよ萌花ちゃん。園田さんが元気になったら大大大お説教ですからね」
「とっても危ない橋を渡っているのだから」
先輩はやっぱり楽しそうに聞こえる口調だった。




