湖上の花冠03
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「雨、残念ねえ」
雪乃先輩の口ぶりは言葉とは裏腹に、初めて学校行事に参加できた、その事実からくる嬉しさが隠しきれない様子だった。柔らかな驟雨だった。夕暮れを反射するそれは、体に触れても濡れると言うほどもなく、夏の日差しに晒された肌に優しく寄り添う。そんなふうだった。
キャンプサイトに到着した生徒達は、みんなでその恵みの雨を楽しんだ。
先輩も例外ではなく、手のひらとその流れるような髪で雨を受けながら踊るように回っている。夕方の淡く溶けるような光が雨というフィルタを通して、髪と肌を透けるように見せている。やっぱり、オフィーリアは雪乃さまがよかった。そんな言葉も雨と共に流れてゆく。
雨の様子が心配だったけれど、今のところは大丈夫ということでイベントの準備を始めることになった。わたしたちは、着替えたジャージの上からポンチョ状の雨合羽を羽織りながら手順を聞いてゆく。雪乃先輩は大事をとって見学することとなった。
「雨が降ったら見学って約束だったの。萌花ちゃんの活躍、窓から見てるね」
指差した先は宿泊先のコテージ。窓に灯りが灯っていて湖畔がよく見渡せる場所にある。
瑞希先輩の指示で、水濡れ防止のラミネート加工がされた手順書が並んだ列ごとに手渡されてゆく。
「夜間カヌーの準備をします」
瑞希先輩はバスの中での幼さは今は影をひそめ、部長としての威厳をもってそう言った。
「まずフロートを湖の中央に運びます。みんなは浮かべるところまでね」
「そのあとは部員がやるから安心して」
「そんなに重くないから持ち上げるのは四人でいいと思うけど、雨だから念の為、滑らないように補助に二人ついて」
部員なのだろう。慣れた手つきでボート型のフロートの四隅につく。
わたしは瑞希先輩に指名されて右側の中央を支える補助に入った。
花冠のオフィーリアが横たわるようのフロートは棺型の全長二メートルと少し。
幅はその半分。つまり一人用ベッドに蓋がついたような作りだった。
蓋付きのボートと言ったところだ。
わたしはどうしても棺みたいで不謹慎だな。と思ってしまったけれどみんなは楽しそうに、今日の夜はこの雨も相まって今までで一番綺麗かも。そんな話をしながらカヌーの講習を受けている。
「部員はカヌーにフロートを係留してから湖の中央に運ぶA班とレクチャーのB班の二班に分かれてね」
「まずはライフジャケットの確認と点呼ね」
オレンジ色の鮮やかなライフジャケットを二人一組で確認すると瑞希先輩は顧問の先生に報告をした。
それから大した時間もかからずにフロートの設置が完了した。
桟橋の柱としっかりロープが結びつけられており、フロート自体も簡単な錨が付けられていて指定の位置から変わらないようになっている。
部員さんたちが、フロートの確認をして、わたしたちも一時間ほど水上で練習をすると夕食の時間になっていた。雨の向こうの夕陽はその最後の光を山の端から海に落とそうとしていた。




