気象俱楽部奇譚04
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「少し街に繰り出してお散歩しましょ」
先輩はそう言うとまたくるり、と傘を回した。
「これって」
デートにみえませんかね。
そうは言えずにわたしは先輩と二人、晴天の下を相合傘で歩く。
先輩は十メートル置きくらいの間隔でいつ用意したのか、清心館を中心とした街の地図を手に持って矢印、数字、英字の順番で書き込んでいく。
通学路の坂を下り切ったところで先輩は言った。
「萌花ちゃん、お散歩好きって言ってたでしょ」
「私がこれから言う特徴がある場所に案内して欲しいの」
「風が一日中吹いている場所」
「日当たりが一日中いい場所」
「日当たりが悪くて少し湿度がある場所」
あんまり当てにはならないと思いますけど、頭の中でそう思いながら思いつく場所に案内をした。
まず最初に、清心館の長い坂を降りてまた同じくらい登る場所にまずは案内した。
ここは一日中風が気持ちよくて、お休みの日はよく散歩に来る場所だった。
「ここ、風が気持ちいいんですよ。先輩のお眼鏡に叶うんじゃないかなって」
「さすがね、萌花ちゃん」
先輩は地図にまた書き込みを入れるとわたしを促した。
「他にはないかしら?」
わたしはまた別のお気に入りの場所を案内した。先輩は歩いている最中にもいくつか同じメモを取り、わたしが二番目に案内した場所でも同じように地図に記載した。
それからしばらく神妙な顔をしていたかと思うと
「飽きちゃった」
それだけを言うとわたしに地図とペンを押し付けてきた。
地図にはすでに数十ヶ所の印が付けられていて、それは明らかに学校の通学路を中心にマーキングされたものだった。
「地図に合わせてわたしが言った通りの方位に矢印と数字を書いてね」
「なるべく小さく正確にね」
先輩はいくつかの指示すると、わたしから受け取った日傘を両手で握るとくるくると楽しげに回している。
それから先輩は急に拗ねたような口ぶりで
「腕組みしたい」
そう言うとわたしの左手を取った。
先輩の望み通りの場所を思い出せる限り歩き回っていると、あ、そこの電柱、N・200だの、そこはS・170だのわたしに告げては歩き続けている。腕組みをしながら地図に印を入れていくのは結構難儀だったけれど、先輩とのこんな機会は今までになかったからわたしは多少の動きづらさは我慢することにした。
二十ヶ所くらい先輩に言われるがままに地図に印をつけていく。何をやらされているのかさっぱりわからなかった。
人通りが少ない場所をメインに回ってきたけれど、やがて駅前通りにたどり着いた。
わたしは、やっぱりこれって周りからはデートに見えてしまうのでは?また同じことを思った。
駅前通りはさまざまな学校の学生がソフトクリームを食べていたかと思うと、あっちにはポテトを買い食いしていたり、書店で一緒に参考書を選んだりと友達同士、恋人同士がなんとなくわかるようなわからないような距離感の学生たちが大勢いた。
わたしは少し疲れてしまったのと人目が気になって
「あとどれくらいですか?」
それだけを聞くのがやっとだった。
気づいたら地図は印だらけになっていたから。
「確かに少し疲れたね」
先輩は少し屈伸するように足を曲げ伸ばししながら
「ソフトクリーム食べましょうか。ご馳走してあげる」
先輩はそういうと、わたしに傘を預けてコンビニへと姿を消した。
それからしばらくわたしは待ちぼうけになってしまった。
一人日傘を刺したまま、先輩の真似をしてくるくると回していると十分ほどして、ようやく先輩が自動ドアの向こうから現れた。
手にはなぜか三つもソフトクリームを握りしめている。
一つはすでに溶け始めていて、先輩の手を汚しそうな勢いだった。
「早く、早く」
先輩はそういうとわたしに向かって手を突き出した。
わたしは、味を確認するまもなく三つの中の一つをパクりと口をつけた。
先輩も同じようにした。
顔が隣同士ですれ違って、見る角度から見たら、傘の下でキスをして見えたかもしれない。
周囲の目からそんな雰囲気を感じると、わたしは顔を離して
「この三つ目はどうします?それにしてもどうしてこんなに……」
先輩は心底困った様子で
「買い方がわからなくて、店員さんに聞きながら買ってたら三つになっちゃったのよ」
そう言いながら、また一口。
柔らかそうな唇の端にバニラアイスがひとかけら。
わたしはそれを手で拭ってあげたい気持ちを抑えながら、真ん中のまだ二人とも口をつけてないチョコミックスを大きく削り取った。
先輩はその様子に感心したみたいで、わたしの食べたところのすぐ横を齧りとった。
口の反対側に今度はチョコがひとかけら。
わたしは間接キス、そんなことを考えながら、先輩から一つを受け取ると
ポタポタと垂れるソフトクリームに苦心しながら齧り付いていく。
その間にもチョコミックスをまた一口。
先輩の指をアイスで汚すわけにはいかない。それだけを考えて食べ続けた。
五分ほどして、コーンだけが残った時、わたしと先輩は自分たちでもびっくりするほど大きな声で笑い合った。
「先輩、買ったことないならわたしに任せてくれたらよかったのに」
わたしは口の周りをクリームだらけにしてそう文句を言った。
「コンビニで買い物ってしてみたかったの」
先輩も同じようなものだったけれど、わたしと違って可愛らしさが優っていた。
下校中の買い食いってこんなに楽しいのね。
また笑ってから、口の端をハンカチで上品に拭き取っていく。
チョコの染み、帰ったら怒られちゃうわ。そんな事を呟きながら。
しばらくハンカチを眺めていた先輩は急に
「だいたい調査は終わったわ」
先輩は急に真顔になってそう言った。
地図のデータを七々瀬会長に送ってもらってもいい?
わたしはまた、会ったこともない人にメッセージを送らされる羽目になった。
「続きは一週間後ね。今日のお散歩、少し疲れたけれど、とっても楽しかった」




