気象俱楽部奇譚02
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奇妙な相合傘の多さ。
その事がまた話題に上がったのは梅雨の終わり、七月に入る頃だった。
「ケイが言ってたアプリ、入れてみたんですよ」
わたしは司書室で先輩にそう言った。
先輩は、そうなの。精度はやっぱり良い?そう言いながら初夏にふさわしいお茶を選んでくれていた。
「すごい精度です。大手のお天気アプリではわからない細かさで」
「ふぅん」
先輩は興味のなさそうな口ぶりだったけれど、その言葉の裏には興味津々、そんな響きが隠されているようだった。
「今月の清掃の割り当て、わたし外庭なんです、そこに百葉箱があって中が光ってたんです。覗き込んでみたら何かセンサーらしきものとバッテリーがつながっていて」
先輩はお茶を選び終わったようでわたしの前に差し出してくれた。
「エレファンブランをアイスティーにしたわ。もう残ってる茶葉だけなの」
どうやらそのお茶は先輩のお気に入りらしく、けれどもう廃盤なのか手に入らないことを残念そうに教えてくれた。
「百葉箱の話だったわね。学内の百葉箱がIT化されてるなんて話は私も初耳」
「やっぱりアプリの開発者はこの学校内部にいるのかもね」
先輩は名残惜しそうにお茶を楽しみながらそう呟いた。
「でも、別に事件が起こってるわけじゃないですよね?」
先輩は事件がなければ動かない、そう思ってたのはわたしだけみたいで
「あら、何のためにそんな高精度アプリを作ったのかは気になるわ」
「夏のコンクールで文部科学大臣賞でも狙っているのかしら」
雨でも降り出さないかしら、そんな視線で窓の外を眺める先輩にわたしは
「科学部に行って聞いてみます?」
そんなつまらないことを聞いてしまった。
「もう、萌花ちゃん。学内で高精度の降雨予測アプリを作った人がいる。理由は不明」
「これってもう立派な謎じゃない?」
先輩はゆったりとお茶を味わうと最後の一雫まで楽しんでいるようだった。
そうですよね。わたしは先輩の好奇心を甘くみていたことを反省して、お茶を飲み干すと立ち上がった。
「現地調査!ですよね」
雪乃先輩はぷい、と顔を逸らすと
「貴重なお茶だって言ったのに……」
拗ねるような口調。
「それにフィールドワークも専門じゃないし……」
渋る先輩にわたしの中の何かが、星の様に小さく弾けた。
「わたし今日、晴雨両用の傘を持ってるんです。だから一緒にお散歩に行きましょうよ」
そう言い切ると、先輩の手を決して離さない、そんな勢いで握りしめて立ち上がらせた。お茶の片付けはわたしがしますから、先輩はほら、テーブルの本をしまって、すぐ出れるようにしてくださいね。
わたしはそう言いながら、ティーセットをトレーに乗せたまま素早く片付ける。
いつもは下校時間近くまで司書室で過ごすものだから、まだ随分と陽が高く、夕暮れとも言えない時間帯の昇降口。
壁の所々の出っ張りはペンキが塗り直されていて、薄く開けられたスリットに影の中で青白く光を反射している。一年昇降口と二年昇降口は場所は同じだけれど、靴箱は少し距離がある。下校中の生徒たちがわたしと先輩を見ると、顔を寄せ合って何か噂話をしている。最近少しづつ慣れてきたけれど、やっぱり心に刺さる何かがある。
その時、後ろから声をかけられた。
「うぉいーモカ今帰り?」
スクールバッグで背中を押されてわたしは大きくよろめいた。
司書室に行くようになってから、ケイとこうして昇降口で出会うのも久しぶりだ。
「ケイ、あんたにしちゃ遅いね」
わたしは少し救われた思いでそう言った。
その時、二年昇降口からぴょこっと顔を出した雪乃先輩がケイに話しかけた。
「あなたが三好恵子さん……ケイさんね。初めまして。日ノ宮雪乃です」
挨拶をしながら、ぎゅっとケイの手を握る先輩。
ケイはあっけに取られたように何も言えずに、天使がどうとか姫様がどうとかぶつぶつ口にしている。
「思ってた通りの方」
先輩は気さくそうにそう語りかける。
「もかちゃんのこと、仲良くしてやってね」
お母さんみたいなことを言う人だな。そう思ったけれど、先輩にはケイしか友達が居ないって言ってしまったことがあったっけ。
流石のわたしも二ヶ月も経てば、友達の一人や二人増えるんだけれど。
そう思いながらもたいして思い出せる顔もなくやっぱりケイだけが友達な気がしてきた。
ケイはしばらく呆けてたかと我を取り戻した様子で雪乃先輩と世間話をしている。
先輩は携帯の画面を見せてもらいながら、わたしが教えた降雨予測アプリをしげしげと眺めている。
それから、またお話ししましょう。
ケイに向かって微笑むとわたしに向かって
「日傘、あるんでしょう?」
それだけを言うと、青空の下へ跳ねるように飛び出した。




