ブロマイド密売事件08
屋上に三人で集合することになった。
屋上の扉を開けると、そこには数人の生徒が何かの器具をいじっている。
部活の実験だろうか?
放課後の秋の風は少し冷たく渇いていてスカートの間を通り抜けた。
屋上の人たちは、雪乃先輩と千里さんを見ると、何かを隠している。そんな表情をしたように見えた。
「こんにちは、ブロマイド盗撮班の皆さん」
雪乃先輩は本当に友達に話しかけるような何気ない気取らなさでそう言った。
「それともこう言った方がいいのかしら?」
いつもの顎に手を乗せた姿勢で先輩は続ける。
「こんにちは、生物部の皆さん」
生物部とブロマイド盗撮はやっぱり昨日のカラスが繋いでいるのだろうか?
わたしは疑問をぐっと飲み込んだ。
雪乃先輩はこれから解決編をするつもりなんだ、その予感があった。
「おっと、そのまま動かないでおくれよ」
千里さんは名探偵に付き従う警部のように屋上の入り口を背に自慢の赤髪を風に吹かれるにまかせていた。
「どこから話しましょうか。やっぱり結論からですか」
雪乃先輩はいかにも名探偵然としてそう言った。
「訓練したカラスを使ったブロマイドと金銭のやり取り」
「それが、この事件の真相です」
生物部の部員らしき生徒が立ち上がった。
ケージの中にはカラスが一羽。
部員は首からは超望遠のレンズがついたカメラを下げていた。
それは、自分が犯人だよ、それが何か?と言わんばかりの挑戦的な姿だった。
先輩も特に気にする様子は見せずに話し続ける。
「まず撮影方法、これは簡単です。朝の生物の世話と言って早朝から学校で待つ」
「屋上でも一階でもちょうどいい場所で撮影するだけ」
「鳥類撮影用の超望遠ですからね。歩く人間を撮影するのなんて、それこそ朝飯前でしょう」
雪乃先輩は自分で言ったことが可笑しかったようにくすくすと笑った。
早朝部活が朝飯前でそれがおかしかったのだろうけど、そんなにだったろうか?
当然そんな茶々を入れることなんて今のわたしにはできない。
生物部の部員は手に持ったカメラをわたしたちに向けた。
シャッターは切っていないようだった。
「次は受け渡し方法。これはとっても独創的ですね」
「生物部で飼育しているカラスを、運び屋に仕立てたんでしょう。うまいものです」
雪乃先輩は足元のケージの中のカラスを愛おしそうに見つめた。
ケージ越しでなければ、頭を撫でたそうにすら見えた。
「カラスはとても賢い鳥だと、千里さんが言っていました」
「人の顔も、道具の使い方も覚えるくらいに」
雪乃先輩は、名残惜しそうに立ち上がって続けた。
「光る物を集める習性なんて俗説を、本気で使うわけがない。野生の子は、見慣れない光り物をむしろ警戒するそうですから」
「あなたたちがしたのは、もっと根気のいること」
「決まった場所に餌を置いて、行って帰ってくれば、ごほうび。それを毎日、毎日」
「金色のコインチョコの包みは、その子にとっての"行き先の目印"だったんでしょう」
「中身のペレットは贅沢なご馳走」
先輩はそこまで言うと急に雑談のように話題を変えた。
「カラスの羽は、千里さんが言うとおり、とても綺麗ですね。椿姫さんの髪のような」
雪乃先輩は滅多に訪れることがないのだろう。屋上の手すりまでゆったりと歩いてカラスの羽を手にこの場所を楽しんでいるようだった。鳥になって飛んでいきたい。そんな気持ちを持っているようですらあった。
「取引時間は放課後、場所はバルコニー」
先輩はくるり、と振り返ると一気に核心に切り込んだ。
風に吹かれた銀色の髪は天使の羽のようだった。キラキラして虹色で。
「コインチョコの中身はカラスの大好物の餌を包んでいた」
「どうしてカラスを使ってるって思ったの?人間が渡しててもおかしくないでしょ?」
生物部員は雪乃先輩に向かって顎を上げて見下ろすようにしながら問いかけた。
「そこがこのお話のユニークなところです」
「表面にUV発光する米糊を使っていたでしょう?しかもビタミンB2を使っていた」
「動物が食べても害がないもの」
「カラスを含む鳥類は人間と違って、赤、青、黄色に加えてUVまで認識できる」
「UVが吸収される米糊が塗られたコインチョコは……」
「その子の目にはただの金属光沢ではなくて、ネオンサインのように見えていたことでしょう」
「あとはその色に反応するように訓練を進めていくだけ——」
「もし、人がやり取りをするならコインチョコの包みに五百円玉でも包めばいい」
雪乃先輩は向けられた視線をさらりとかわしながら歩き続ける。
「むしろ私が一つだけわからないのはあなたが言ったことです」
「別に女生徒同士がお金を出してブロマイドのやり取りをしても良かったってこと。放課後なら人目につきませんし」
「それに一年生にコインチョコを配って包みを回収していたこと」
「それがなければもっと発覚が遅れたと思いますよ?」
先輩は心の底から不思議という口調だった。




