ブロマイド密売事件06
「科学部は面白いところだったわね」
いつもの司書室、いつもの夕暮れの中で、ほんの少し疲れた様子で雪乃先輩はつぶやいた。けれど結果には満足したようで、先輩はソファにいつもより乱暴に腰掛けると
「萌花ちゃんお茶いいかしら」
珍しくそんな言い方でわたしに頼み事をしてきた。
「あ、はい。オペラ=ルージュ入れますね」
「甘くて今の気分に合ってる。お任せにしちゃってよかったな」
先輩は髪をかき上げると大きく一つ息をついた。
わたしがお茶を入れている間、千里さんと二人何かを話していた。
千里さんは「美術部のグループメッセージに送っておくよ」
そう言う声が聞こえた。
最近のわたしは時々先輩にお茶を振る舞うのだけれど、毎回緊張して手が震えてしまう。
「カップはフロレンティーンのフューシャピンクね」
珍しくカップの指定をした雪乃先輩は、少し不機嫌にも聞こえる声でわたしにそう言った。
「はい、どうぞ。お疲れ様でした」
テストで自信のない教科の返却を待つ時のような緊張を悟られないようにさりげなく、カップを置いた。
「ありがとう」
先輩はやっと緊張が解けたようで、赤ともピンクとも言えないフューシャカラーのカップを持ち上げると、オペラ=ルージュの香りと味を楽しんだ。
「千里さんもどうぞ。とっても上手に淹れられてるわ。もかちゃん」
先輩は鼻を抜けるフレーバーと喉を滑り落ちる紅茶の味を名残惜しそうに味わっている。
わたしはほっとして自分の分のお茶に手をつける余裕がようやく出るのだった。
「あの……」
わたしは自分のお茶の淹れ具合を一口確認してカップを置くと、おずおずと切り出した。
「米糊がUV反応を示した意味って何なんでしょう?」
先輩は今はすっかりいつもの調子を取り戻していた。
「それはね、千里さんにお願いしてることに返事が来たら、ね?」
「あとはそれで事件解決だから」
わたしはさっぱりわからなくて先輩にもう一度聞いた。
「学内で盗撮が行われていて、コインチョコが配られてて、その包み紙は回収されて中は何かのペレットに詰め直されて、表面は米糊を塗られていて、細切れでバルコニーに落ちていて……」
「紫外線で反応する……」
「ひどいです、わたしだけ除け者にするなんて!」
わたしは抗議した。わたしなりに先輩に気を遣って、お茶だって上手に入れられたのに。「除け者にしてるわけじゃないの。本当はね、萌花ちゃんがいたからこの事件は少し難しくなったのよ」
「でもそれも全部明日。かな明後日かもだけど、数日以内にわかるから、その時にね」
先輩はそう言うとわたしの前髪をそっと耳にかけてくれた。
「わ、わかりました、じゃあ待ってます」
まだ少し不満な気持ちがあったけれど、先輩があと数日というからには数日なのだろう。




