ブロマイド密売事件04
初めて入る地学部部室、地学準備室はよく掃除されていたけれど、どことなく埃っぽくて、それに鉱石標本の独特の匂いがした。
手書きのラベルは褪色して、なんとか読み取れると言ったものと、書き直されて新しくされたものが混在していた。フィールドワークもよくやるらしく、軍手・軍足にノミなどの作業用具が部屋の隅にうず高く積まれている。
「最近はクマが危なくてね。あまり山への採集はいけないんだよ」
わたしの視線を察したのか地学部員の二年生がそう言った。
千里さんが「こちら前島さん」そう紹介された地学部二年の先輩はわたしよりも短いベリーショートの髪にフィールドワーク向きとは思えない色白で細い手足が制服からにゅっと伸びていて、なんとなくちぐはぐな印象を見せている、そんな人だった。
「地学部室に天使を召喚できるなんて、末代までの語り草だな」
「後で集合写真を撮ってもいいかな?」
気さくでお喋り好きらしい前島先輩の言葉に雪乃先輩は「ええ是非」微笑んだ。
「写真ってずっと残るでしょ。鉱石や化石が永遠を閉じ込めてるとしたら写真も同じ」
話し続ける前島さんに先輩は早速で悪いのだけれど、そう切り出した。
「UVライトかい?売るほどあるけれどね」
前島さんはそう言うと、よく整理された引き出しから一本の黒いライトを取り出した。
「これに当てて見て欲しいんです」
雪乃先輩はキッチンペーパーに綺麗に畳んで包んでいたコインチョコの包みを取り出した。
「ここ、表面にテクスチャがあるでしょう?ここに照射して欲しいんだけれど」
指先で差し示した先は、わたしが米糊かも、と言った部分だった。
前島さんの話やすそうな雰囲気か、同学年の気やすさからからか普段より砕けた雰囲気の雪乃先輩。
「オッケーお安いご用」
「分かりやすくするために、暗幕閉めて電気も消そうか」
前島さんは部員に目だけで指図すると、察した部員たちがシャッとカーテンを引いていく。
「さてさて、どうなりますか」
前島さんは楽しそうにペン回しをしながらそう言った。
わたしと先輩は身を寄せ合って結果を見守った。
先輩の髪がわたしの頬に当たって柔らかく跳ねた。
前島さんはわたしたちの正面に立つと、黒いペン状のライトのお尻部分をカチリと少し力を入れてスイッチを押すとUVライトの青い光がチョコの包み紙を照らした。
「やっぱり、思ったとおり」
雪乃先輩はそういうと、照らされた部分を満足そうに眺めて笑みを浮かべている。
鮮やかなイエローが目に眩しい。米糊はUV蛍光をしていたのだ。
「ありがとうございます。次は科学部に用事がありますので、このライト少し借りておいて良いですか?」
もちろんだよ、そういう前島さんに微笑み返しながら雪乃先輩は二言三言を千里さんに耳打ちする。
千里さんはまた素早くメッセージアプリを起動した。
「あ、集合写真でしたね」
ドアを出かかっていた雪乃先輩はお願いされていたことを思い出したようだった。ゆったりとした仕草で前島さんの隣に歩み寄った。前島さんは部員を集めてひと抱えはありそうなアンモナイトの化石を雪乃先輩に抱えさせると、中央に座らせた。
何故かわたしは先輩の隣で一回り小さいアンモナイトを持たされた。
千里先輩は採掘用のピッケルを渡されて嬉しそうにポーズを取る。
部員たちもそれぞれにヘルメットをかぶったり、フィールドワーク用のつなぎを着たり思い思いの格好をして並んでゆく。
それからシャッターをセルフモードにしてから集合写真を何枚か撮った。
「あとで焼き増しするから」
前島さんの言葉にわたしたちは一礼して地学準備室を後にした。
科学部との約束の時間があるようで雪乃先輩と千里さんは足早に科学準備室に向かった。後ろから少し大股で急ぎながら、わたしは聞いた。
「さっきのUV蛍光で何がわかったんですか?」
雪乃先輩は人差し指を口に当てると
「科学部で全てわかる、はずだからもう少し秘密」
それだけ言うといたずらっぽく笑った。




