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魔王は既に死んでいた  作者: にら
第二章 カルカタ村
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カルカタ村【第1話】

「うーん……」


 ローズはパンを二つに割った。

 しかし、パンは微妙に違う大きさに分かれている。


「こっちをもう少し……」


 大きい方のパンを、ほんの少し千切る。

 すると今度は、反対側のパンが微妙に大きく見えた。


「くそ~。ならこっちを……」


 千切り、見比べ、また千切る。

 それを何度も、何度も繰り返す。

 気付いた時には、パンはすっかりバラバラになっていた。


「お! 均等になった!」


 ローズは満足げに、パンの”欠片”を見比べる。


「じゃ、これがリオの分ね!」


 そう言って、バラバラになったパンの欠片をリオに差し出す。


「……あのさぁ~? めちゃくちゃ言いづらいんだけどよ」


 リオは受け取ったパンの残骸を見下ろす。


「ん? 何?」


 ローズは自分のパンを頬張りながら、リオの方を向いた。


「お前がいじめられてたのって、もしかしてお前に原因が――」


「はぁ~!?」


 ローズは勢いよく身を乗り出した。


「何? いじめられる方が”悪”だって言うわけ!?」


「そういう話じゃねぇよ!! 見ろ! このパンの有り様を! 何がしてぇんだよ!!」


「何って……均等に分けたんだよ。双方に不満が出ないようにね」


「あぁ、そういうことか! それなら納得……するわけねぇだろ!! 不満しかねぇんだが!?」


「はぁ、うるさいなぁ」


 ローズは大きくため息をつく。

 そして、自分の分からパンの欠片を一つ摘まみ、リオに差し出した。


「はい、一つだけね」


「…………」


 リオは受け取ったパンと、ローズの顔を交互に見る。

 そして、それを黙って口に入れた。


「つーか……」


 もそもそとパンを噛みながら、リオは小さな袋を取り出した。


「なんでこんなにビンボーなわけ? 俺たち、勇者ご一行だろ?」


 袋を軽く揺らす。

 中で硬貨がわずかに擦れ合い、頼りない音を立てた。


「しょうがないよ。勇者っていっても、扱いとしてはフリーの冒険者なんだから」


「んじゃ、次の村で何か依頼でも受けるか? 魔物退治だの、荷運びだの」


「そんな都合よく依頼が転がってるかなぁ?」


 そう言ってローズは地図を広げた。


「もう少し歩けば、カルカタ村に着くから。そこに着いてから考えよ」



 * * *



「ここがカルカタか~。すげー畑の量だな」


 村の人たちの多くが、農作業に勤しんでいた。


 畑を耕す者。

 収穫した作物を、荷車へ積み込む者。

 肉体労働のはずなのに、みな笑顔で楽しそうに働いている。


「カルカタは農業が盛んな村だからね。ここで採れる作物、国中に運び込まれてるんだよ?」


「へぇ~、そうなのか。すげぇな」


「リオってほんとに何も知らないよね」


 ローズは呆れたように肩をすくめた。


「じゃー仕事探すか? 例えば……農作業を手伝うとか?」


「うーん……」


 ローズは畑の方へ目を向ける。


「決まった手順がありそうだし、私たちが入っても邪魔なだけなんじゃない?」


「なら、荷運びの手伝いとか?」


 リオは荷車を指差した。


「国中に運び込まれてるんだろ? 次の村とか町まで、俺たちが運ぶ」


「そういうのは、信頼できる御者に頼んでるんだよ。運搬すると見せかけて、作物を盗まれる……なんてことにならないようにね」


「な、なら……作物を食い荒らす魔物退治とか?」


「畑には防御魔法が張られてるから、下手な魔物は近寄れない。だから、私たちの出る幕はないかな」


 ローズは肩をすくめた。


「…………」


 リオは沈黙した。

 そして、じっとローズを睨みつける。


「何から何まで否定しやがって!!」


「だって、無理なものは無理だし」


「じゃあどうすりゃいいんだよ! このままだと野垂れ死ぬぞ!?」


「どうって……」


 ローズは頬に指を当て、少し考え込む。

 そして、ぽつりと言った。


「この村のタンスから、少しだけ”拝借”するとか?」


「…………」


 リオは大きくため息をついた。

 懐から小さな袋を取り出し、軽く揺らす。


「とりあえず宿に行ってみるかぁ? 一日くらいは休めるかもしれねぇし」


「まぁ、そうだね。ついでに宿の金庫から、少しだけ”拝借”して――」


「それはやめろ!!」


 そう言って、袋をしまおうとした――その瞬間。


 バシッ!


「あ?」


 気付けば、手の中から袋が消えていた。

 視線を下げる。


 そこには、六、七歳くらいの小さな男の子がいた。

 男の子はリオの袋を握りしめている。

 そして――


「あ! こら待て! 俺たちのなけなしの金!」


 男の子は素早く身を翻し、路地の奥へ走り去っていった。


「…………」


「いや~、とんでもない”拝借術”だね」


 ローズは感心したように頷く。


「何者かなぁ? あの子」


「言ってる場合か!! 俺たちの全財産だぞ!!」


「盗まれたのはリオでしょ?」


「お前の金でもあるって言ってんだ!」


「……まぁ、探すしかないね」


 ローズは男の子が消えた路地へ目を向ける。


「手遅れになる前にね」


 リオは深くため息を吐き、ローズと並んで路地へ足を踏み入れた。


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