カルカタ村【第1話】
「うーん……」
ローズはパンを二つに割った。
しかし、パンは微妙に違う大きさに分かれている。
「こっちをもう少し……」
大きい方のパンを、ほんの少し千切る。
すると今度は、反対側のパンが微妙に大きく見えた。
「くそ~。ならこっちを……」
千切り、見比べ、また千切る。
それを何度も、何度も繰り返す。
気付いた時には、パンはすっかりバラバラになっていた。
「お! 均等になった!」
ローズは満足げに、パンの”欠片”を見比べる。
「じゃ、これがリオの分ね!」
そう言って、バラバラになったパンの欠片をリオに差し出す。
「……あのさぁ~? めちゃくちゃ言いづらいんだけどよ」
リオは受け取ったパンの残骸を見下ろす。
「ん? 何?」
ローズは自分のパンを頬張りながら、リオの方を向いた。
「お前がいじめられてたのって、もしかしてお前に原因が――」
「はぁ~!?」
ローズは勢いよく身を乗り出した。
「何? いじめられる方が”悪”だって言うわけ!?」
「そういう話じゃねぇよ!! 見ろ! このパンの有り様を! 何がしてぇんだよ!!」
「何って……均等に分けたんだよ。双方に不満が出ないようにね」
「あぁ、そういうことか! それなら納得……するわけねぇだろ!! 不満しかねぇんだが!?」
「はぁ、うるさいなぁ」
ローズは大きくため息をつく。
そして、自分の分からパンの欠片を一つ摘まみ、リオに差し出した。
「はい、一つだけね」
「…………」
リオは受け取ったパンと、ローズの顔を交互に見る。
そして、それを黙って口に入れた。
「つーか……」
もそもそとパンを噛みながら、リオは小さな袋を取り出した。
「なんでこんなにビンボーなわけ? 俺たち、勇者ご一行だろ?」
袋を軽く揺らす。
中で硬貨がわずかに擦れ合い、頼りない音を立てた。
「しょうがないよ。勇者っていっても、扱いとしてはフリーの冒険者なんだから」
「んじゃ、次の村で何か依頼でも受けるか? 魔物退治だの、荷運びだの」
「そんな都合よく依頼が転がってるかなぁ?」
そう言ってローズは地図を広げた。
「もう少し歩けば、カルカタ村に着くから。そこに着いてから考えよ」
* * *
「ここがカルカタか~。すげー畑の量だな」
村の人たちの多くが、農作業に勤しんでいた。
畑を耕す者。
収穫した作物を、荷車へ積み込む者。
肉体労働のはずなのに、みな笑顔で楽しそうに働いている。
「カルカタは農業が盛んな村だからね。ここで採れる作物、国中に運び込まれてるんだよ?」
「へぇ~、そうなのか。すげぇな」
「リオってほんとに何も知らないよね」
ローズは呆れたように肩をすくめた。
「じゃー仕事探すか? 例えば……農作業を手伝うとか?」
「うーん……」
ローズは畑の方へ目を向ける。
「決まった手順がありそうだし、私たちが入っても邪魔なだけなんじゃない?」
「なら、荷運びの手伝いとか?」
リオは荷車を指差した。
「国中に運び込まれてるんだろ? 次の村とか町まで、俺たちが運ぶ」
「そういうのは、信頼できる御者に頼んでるんだよ。運搬すると見せかけて、作物を盗まれる……なんてことにならないようにね」
「な、なら……作物を食い荒らす魔物退治とか?」
「畑には防御魔法が張られてるから、下手な魔物は近寄れない。だから、私たちの出る幕はないかな」
ローズは肩をすくめた。
「…………」
リオは沈黙した。
そして、じっとローズを睨みつける。
「何から何まで否定しやがって!!」
「だって、無理なものは無理だし」
「じゃあどうすりゃいいんだよ! このままだと野垂れ死ぬぞ!?」
「どうって……」
ローズは頬に指を当て、少し考え込む。
そして、ぽつりと言った。
「この村のタンスから、少しだけ”拝借”するとか?」
「…………」
リオは大きくため息をついた。
懐から小さな袋を取り出し、軽く揺らす。
「とりあえず宿に行ってみるかぁ? 一日くらいは休めるかもしれねぇし」
「まぁ、そうだね。ついでに宿の金庫から、少しだけ”拝借”して――」
「それはやめろ!!」
そう言って、袋をしまおうとした――その瞬間。
バシッ!
「あ?」
気付けば、手の中から袋が消えていた。
視線を下げる。
そこには、六、七歳くらいの小さな男の子がいた。
男の子はリオの袋を握りしめている。
そして――
「あ! こら待て! 俺たちのなけなしの金!」
男の子は素早く身を翻し、路地の奥へ走り去っていった。
「…………」
「いや~、とんでもない”拝借術”だね」
ローズは感心したように頷く。
「何者かなぁ? あの子」
「言ってる場合か!! 俺たちの全財産だぞ!!」
「盗まれたのはリオでしょ?」
「お前の金でもあるって言ってんだ!」
「……まぁ、探すしかないね」
ローズは男の子が消えた路地へ目を向ける。
「手遅れになる前にね」
リオは深くため息を吐き、ローズと並んで路地へ足を踏み入れた。




