魔王殺害事件【第2話】
「いろいろ問題もある気もしますが……まぁ、いいでしょう。重要なのは、推理そのものではありません」
「じゃあ何なんだよ?」
「”何が起こっているのか”です」
「何がって……」
俺は指を折りながら整理する。
「俺が魔王城に来たら、魔王は既に死んでた」
「はい」
「しかも、なぜかその犯人を俺が探してる」
「そうです」
「ついでに魔族のお前と一緒に」
「はい」
「……改めて言葉にすると意味不明すぎるな!?」
「その通り。あなたはこの奇妙な状況、どう思われますか?」
「どうって言われてもなぁ……」
俺は少し考え込み――自分の頬を、ぐいっとつねった。
「痛ぇ!?」
「夢ではありませんよ」
「……悪夢みてぇな話だけどな!」
軽く笑いながら、俺は再び魔王の死体へ視線を向ける。
「傷がある以上、やはりあなたの容疑が晴れたとは言えないでしょう」
「んー……死因は別って可能性は? 例えば……魔王が食った料理に毒が入っていた……みたいな?」
「仮にそうだとして、”傷がついている”事実は変わりませんが……まぁいいでしょう。では、城の食堂へ向かいますか?」
「おう、案内よろしく!」
ネビロスは軽く一礼し、扉の外へ歩き出した。
俺もその後を追って、魔王の間を後にした。
* * *
廊下は静寂に包まれていた。
響くのは、ネビロスと俺の足音だけ。
「……なんかノリで引き受けちまったけどさぁ。別に、俺が犯人探しなんてしてやる義理はないよな? なんなら俺、魔王のこと普通に憎んでたし」
「憎しみ……ですか」
「ああ。ローズと旅してる間、嫌ってほど見てきたからな。焼け落ちた村、積みあがった死体。泣き叫ぶ子ども、そして――呆然と空を見上げる大人たち。旅を続けるほど、魔王への憎しみは増していったよ」
「……なるほど」
ネビロスは静かに目を伏せた。
「その”ローズ”という方は?」
「ん?」
「ご一緒ではないのですね」
ネビロスは足を止め、こちらを振り返る。
「どちらにおられるのでしょう?」
俺は目を細め、ネビロスを睨みつけた。
「もしかして……よからぬことを企んでねぇだろうな?」
「ご安心を。ただの好奇心ですよ」
ネビロスは優雅に一礼する。
「好奇心ねぇ?……ローズは『最後の村』に置いてきたんだよ」
「最後の村……?」
「ああ。魔王討伐前の最後の拠点だよ」
俺は肩をすくめた。
「まぁ、魔王なんて俺一人で余裕だと思ってたしな……俺が手を下すまでもなかったけど」
「もしよろしければ……」
「ん?」
「そのローズという方について、お聞かせ願えませんか?」
「…………」
俺は無言でネビロスを見つめた。
「もしかして……人間の女に”興味”があるのか?」
「いえ?」
ネビロスはきょとんとした顔をした。
「……女性の方だったのですね」
俺はその言葉にビクッと肩を震わせ、後退りした。
「まさか……”男”の方に興味が!?」
ネビロスは頭に手を当て、深々とため息をついた。
「……とんでもない誤解です。言ったでしょう? ただの好奇心だと」
「……納得はしてねぇけど、わかったよ。話してやる。あいつと出会ったのは――」
* * *
「おーい、そこの女~」
リオは手を振りながら、ローズへ駆け寄った。
「……? なんですか?」
ローズは、びくりと肩を震わせる。
警戒したような目で、リオを見上げていた。
「お前、俺の仲間になってくれ! ちなみに俺、勇者ね。ほら、これ本物」
そう言ってリオは、手の甲に刻まれた勇者の紋章を見せつけた。
「えっ……!?」
ローズは驚いたように目を見開いた。
だが次の瞬間には、困惑したように眉を寄せた。
「あの……なんで私?」
「うーん……顔がタイプだから、とか?」
「…………」
* * *
「――と、このように。俺とローズは感動的な出会いを果たしたわけだ」
「感動的……? 階層には、軽薄そうな男に突然話しかけられ、怯えて困惑している女性しかいませんでしかが?」
「あはは……まぁそっから色々あって、なんやかんやで最後の村まで一緒に旅してたんだよ」
「……なるほど」
ネビロスは小さく息を吐いた。
「話すつもりはないということですか」
「いやいや! 今した話は嘘じゃないぞ!?」
「……まぁいいでしょう。食堂に向かいましょう」
ネビロスは踵を返した。
再び、二人の足音が廊下へ響き始める。
* * *
「着きました。開けますよ」
ネビロスが食堂の扉を開く。
中は、廊下と同じように静寂に包まれていた。
やけに広い空間だ。
長机がずらりと並んでいるのに、食事をしている者は誰一人いない。
「だだっ広いってのに、誰もいねぇんだな」
「いえ。一人だけおります」
ネビロスは、食堂の奥へ視線を向けた。
「ほら、あそこに」
カウンターの向こうで、誰かが料理を皿へ盛り付けていた。
「……女?」
一瞬、人間かと思った。
床に届きそうなほど長い黒髪に、華奢な体。
そして、闇の中で淡く光る真紅の瞳。
よく見れば、頭には小さな黒い角が二本生えている。
「あの方は、魔王様の娘――リリスです」
「魔王の娘ぇ!?」
俺は改めて、その少女を見る。
リリスは無言のまま、料理を皿へよそい続けていた。
「……三人分?」
リリスはこちらに気付いたのか、皿を持ってゆっきり歩き始めた。




