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魔王は既に死んでいた  作者: にら
第一章 魔王殺害事件
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魔王殺害事件【第2話】

「いろいろ問題もある気もしますが……まぁ、いいでしょう。重要なのは、推理そのものではありません」


「じゃあ何なんだよ?」


「”何が起こっているのか”です」


「何がって……」


 俺は指を折りながら整理する。


「俺が魔王城に来たら、魔王は既に死んでた」


「はい」


「しかも、なぜかその犯人を俺が探してる」


「そうです」


「ついでに魔族のお前と一緒に」


「はい」


「……改めて言葉にすると意味不明すぎるな!?」


「その通り。あなたはこの奇妙な状況、どう思われますか?」


「どうって言われてもなぁ……」


 俺は少し考え込み――自分の頬を、ぐいっとつねった。


「痛ぇ!?」


「夢ではありませんよ」


「……悪夢みてぇな話だけどな!」


 軽く笑いながら、俺は再び魔王の死体へ視線を向ける。


「傷がある以上、やはりあなたの容疑が晴れたとは言えないでしょう」


「んー……死因は別って可能性は? 例えば……魔王が食った料理に毒が入っていた……みたいな?」


「仮にそうだとして、”傷がついている”事実は変わりませんが……まぁいいでしょう。では、城の食堂へ向かいますか?」


「おう、案内よろしく!」


 ネビロスは軽く一礼し、扉の外へ歩き出した。

 俺もその後を追って、魔王の間を後にした。



 * * *



 廊下は静寂に包まれていた。

 響くのは、ネビロスと俺の足音だけ。


「……なんかノリで引き受けちまったけどさぁ。別に、俺が犯人探しなんてしてやる義理はないよな? なんなら俺、魔王のこと普通に憎んでたし」


「憎しみ……ですか」


「ああ。ローズと旅してる間、嫌ってほど見てきたからな。焼け落ちた村、積みあがった死体。泣き叫ぶ子ども、そして――呆然と空を見上げる大人たち。旅を続けるほど、魔王への憎しみは増していったよ」


「……なるほど」


 ネビロスは静かに目を伏せた。


「その”ローズ”という方は?」


「ん?」


「ご一緒ではないのですね」


 ネビロスは足を止め、こちらを振り返る。


「どちらにおられるのでしょう?」


 俺は目を細め、ネビロスを睨みつけた。


「もしかして……よからぬことを企んでねぇだろうな?」


「ご安心を。ただの好奇心ですよ」


 ネビロスは優雅に一礼する。


「好奇心ねぇ?……ローズは『最後の村』に置いてきたんだよ」


「最後の村……?」


「ああ。魔王討伐前の最後の拠点だよ」


 俺は肩をすくめた。


「まぁ、魔王なんて俺一人で余裕だと思ってたしな……俺が手を下すまでもなかったけど」


「もしよろしければ……」


「ん?」


「そのローズという方について、お聞かせ願えませんか?」


「…………」


 俺は無言でネビロスを見つめた。


「もしかして……人間の女に”興味”があるのか?」


「いえ?」


 ネビロスはきょとんとした顔をした。


「……女性の方だったのですね」


 俺はその言葉にビクッと肩を震わせ、後退りした。


「まさか……”男”の方に興味が!?」


 ネビロスは頭に手を当て、深々とため息をついた。


「……とんでもない誤解です。言ったでしょう? ただの好奇心だと」


「……納得はしてねぇけど、わかったよ。話してやる。あいつと出会ったのは――」



 * * *



「おーい、そこの女~」


 リオは手を振りながら、ローズへ駆け寄った。


「……? なんですか?」


 ローズは、びくりと肩を震わせる。

 警戒したような目で、リオを見上げていた。


「お前、俺の仲間になってくれ! ちなみに俺、勇者ね。ほら、これ本物」


 そう言ってリオは、手の甲に刻まれた勇者の紋章を見せつけた。


「えっ……!?」


 ローズは驚いたように目を見開いた。

 だが次の瞬間には、困惑したように眉を寄せた。


「あの……なんで私?」


「うーん……顔がタイプだから、とか?」


「…………」



 * * *



「――と、このように。俺とローズは感動的な出会いを果たしたわけだ」


「感動的……? 階層には、軽薄そうな男に突然話しかけられ、怯えて困惑している女性しかいませんでしかが?」


「あはは……まぁそっから色々あって、なんやかんやで最後の村まで一緒に旅してたんだよ」


「……なるほど」


 ネビロスは小さく息を吐いた。


「話すつもりはないということですか」


「いやいや! 今した話は嘘じゃないぞ!?」


「……まぁいいでしょう。食堂に向かいましょう」


 ネビロスは踵を返した。

 再び、二人の足音が廊下へ響き始める。



 * * *



「着きました。開けますよ」


 ネビロスが食堂の扉を開く。

 中は、廊下と同じように静寂に包まれていた。


 やけに広い空間だ。

 長机がずらりと並んでいるのに、食事をしている者は誰一人いない。


「だだっ広いってのに、誰もいねぇんだな」


「いえ。一人だけおります」


 ネビロスは、食堂の奥へ視線を向けた。


「ほら、あそこに」


 カウンターの向こうで、誰かが料理を皿へ盛り付けていた。


「……女?」


 一瞬、人間かと思った。

 床に届きそうなほど長い黒髪に、華奢な体。

 そして、闇の中で淡く光る真紅の瞳。

 よく見れば、頭には小さな黒い角が二本生えている。


「あの方は、魔王様の娘――リリスです」


「魔王の娘ぇ!?」


 俺は改めて、その少女を見る。

 リリスは無言のまま、料理を皿へよそい続けていた。


「……三人分?」


 リリスはこちらに気付いたのか、皿を持ってゆっきり歩き始めた。


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