sins of the past その2
「あの人が・・・聞いていた通り、エリザベートさんそっくりだ」
奥から現れたのは杖を突いた老婆だ。三上はその人を見るとすぐに刀を収めた。
「ウーネア様、中にお戻りを。今現在不審な輩が貴女を・・・」
男がウーネアを止めようとしたが、ウーネアは杖を捨てて突然走り出した。
「え?」
「おぉぉねぇぇぇさぁぁぁまぁぁぁぁ!!!!!」
そしてとても老婆とは思えない勢いで三上に突然抱きついた。
「あ、あら!?」
その姿にキャロラインも戸惑っていた。
「う、ウーネア様!?」
「あぁ、この太陽みたい匂い・・・お姉様よ!!」
「ちょっ!!え!?あの!どこに顔入れて!!落ち着いてください!!って!いだだだだ!!!!」
そして三上もあまりに突然な事であの余裕の笑みが消えた。そしてあまりに強く抱きしめるものだから今度は苦悶の表情に変わる。
「ん?けど、胸が少し小さい・・・身長もかなり低いわ。けど、お姉様と同じ匂い・・・誰かしらあなた?」
ウーネアはようやく抱きついた人物の違和感を感じて少し離れた。
「よっと・・・ふぅ、元の人間に戻ってるのになんてパワー・・・」
「その刀・・・それはお姉様の・・・」
ウーネアは三上の刀を見つめて呟いた。
「そう、異世輝國。ニヒルさんが打って僕が更に鍛え直した」
「覚えてる・・・けど、何かしら。何かを思い出さなければいけないのに、思い出せない。あなたは、お姉様に似てるけど、もう1人・・・誰かに似てるわ。名は・・・指宿 永零・・・その名前、すごく重要な筈なのに・・・」
「ウーネア様?大丈夫なのですか?」
男はウーネアの方へ駆け寄った。
「えぇ、大丈夫・・・けど、すごくもどかしい・・・」
「なら、この剣を抜いて下さい。この件はあなたの剣。あなたが握ったこの剣なら、思い出せる筈です」
三上は手元に流血光刃を待ち、柄をウーネアに向けた。
「これも、覚えてるわ・・・この剣は・・・っ!!」
ウーネアが柄を握った瞬間、剣を一気に引き抜いた。そしてその時、思いもよらない事が起きた。
「え!?」
「な、ウーネア様!?」
皺の多かった皮膚は突然消えて肌も艶を取り戻し、少し硬い白髪も一気にさらっとしたロングストレートの金髪へ変わった。
「あー、全部思い出したわ・・・そんでもって成る程ね、あなたがお姉様の生まれ変わり・・・」
「厳密には、ニヒルさんの中にいた神を受け継いだ者が正しいかな?」
「どっちでもいいわ。それよりも、あなたがここに来た理由は戦いの続きが始まったって事で良いんでしょ?私の敵は?永零でいいの?それともおまた姉様?それかレイノルドの馬鹿?」
「いや、坂上 桜蘭だ」
三上ははっきりと言い放った。
「桜蘭・・・あの子が?」
ウーネアはその名前に戸惑った表情を見せる。
「うん、彼は永零と手を組んでいる。けど、永零とは利害の一致で手を組んでるのであって彼自身の目的は別にある。僕には読みきれない程に強い意志を彼は持っていた。だからあなたに会いに来たんだ。ウーネアさん、あなたにはこれからニヒルさんを生き返らせて貰いたい。そして2人で桜蘭君を止めて欲しいんだ」
「お姉様を?それは願ったり叶ったりね、でも、そんな事出来るの?それに死者の蘇生なんてお姉様が最も望まなかった事よ?」
「うん。でも時代は変わった・・・そして秩序も変わった。人間は既に死者蘇生の技術を完成させてる。かつてあなたとお姉さんは死者蘇生技術の在り方で争った。けど、今の争いは目的が変わった。死のある世界か、死のない世界か・・・あなたはどっちが良いと思う?何をしても死なない世界か、死の定めを受け入れる世界か・・・」
三上はウーネアに2択を迫った。
「・・・私は永遠の命なんていらない、命果てるまでお姉様の側にいる事が私の夢だった。そう、人間には寿命がある。それを取っ払っちゃったら人間である意味がないわ。そんな存在は私の望むお姉様じゃない・・・なんとなく分かったわ。今の永零、ちょっと暴走してる感じね。分かったわ、私はあなたにつくわ。改めて、ウーネア アダムスよ」
「三上 礼」
ウーネアと三上は互いに握手を交わした。
「こいつ・・・一体何者なんだ?」
ただ1人、護衛の男だけはまだ納得していない様子だ。
「ダカール、いい加減に怒るわよ?あなたもアダムスの一員ならガイアの存在は知ってるでしょ?ガイアは命の流れを見守る女神。それがこのキャロライン。そしてこの三上君はそのガイアを生み出した神の生まれ変わりなの」
「っ!!?って事は、ヤハウェなのか!?」
ようやく男は三上の存在のヤバさを実感した。
「それの半分だけどね」
「それともう一つ、日本の最高神天照大神の全てを受け継いだ者でもありますのよ?この三上様の羽衣もその天照大神が直々に編んだこの世に2つとない衣装ですわ」
キャロラインはウーネアに合わせてきた。
「これが・・・私は、とんだ無礼を!!」
男は冷や汗をかきながら三上に頭を下げた。
「頭下げられるのは好きじゃないな。君がなんで僕を蔑んだ目で見たのか分からないけど、こんな事で頭下げるくらいなら最初から普通に接してくれれば良いのに」
「世界はあなたの思う以上に広いのよ三上君。彼もその広い世界の1人、三上君の価値観でも分からない価値観の中で彼は生きてきた。やれやれね、永零はかつて人種も年齢も性別も関係なしに人を集めて組織を作った。そしてほぼ完璧と言える程の平和を作ったのは間違いないわ。それがもう70年近く前の事。なのに、世界はまだまだ一つにはなれない。
ダカール。私は、意志さえ通じればそれはもう平等な存在だと思う。それが例え人間でない存在でもね・・・なんなら人間より上と思える存在はいくつもいるわ。逆に意思が通じない者に対して私たちのすべき事は寄り添う事、見下す事じゃ無いわ。そこんとこ、これからの教訓に刻みなさい。ってなわけで、留守任せたわよ〜」
「え、え!?ウーネア様!?何処へ!?」
突然の事で男は置いてけぼりだ。
「何処ってお姉様迎えに行くに決まってるじゃない。日本には善は急げって言葉があるのよ。じゃ、三上君連れて行きなさい」
「う、うん」
三上も彼女の勢いに押し負けていた。
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「それにしても、まさか柄を握るだけで覚醒を取り戻すとは思いませんでしたよ」
「それくらい私のお姉様への愛は重いって事ね。で、具体的にはどうやるの?」
三上とウーネアは歩きがてら死者蘇生の方法を話した。
「・・・そんな方法が、でもさ、それだと同じ人物を何人も生き返らせる事が出来るんじゃない?」
「いや、確かにこの理論だけならそうなる可能性もあるけど、生き返るのは一つだけだと僕は思うよ。僕たちの肉体は脳や遺伝子に記憶を宿し、そこから精神や心が形成される。死ぬって言うのはその脳に記憶を宿す事が出来ない状態になる事だと僕は考えてるんだ。つまり、この体はハードディスクドライブって事だね。なら、そのハードディスクが壊れた時、そのデータ、記憶、そして心は何処に行くのか・・・」
「死後の世界?」
「うん、けどそうふわっとした表現は僕は嫌いだな。ガイアはその消えた筈の命の流れを見守る務めを持ってる。つまりは死者の魂は存在し、何処かへと向かうのは確かなんだ。それが死者の世界、それを言い換えるならばそこはクラウドのようなものだと思わない?通常なら取り出せないクラウド保存されたデータ。それが魂だとしたら、そして、それを取り戻す方法が一つあるのだとしたら?」
「・・・この世界に必要なのは、保存するためのハードディスク・・・クラウドのデータを、そっちに移す?」
ウーネアは三上の持論を予測した。
「正解だよ。そしてそれは一定の条件下でのみ可能なんだ。死んだ者の記憶を持ち、魂の繋がりが近い存在。そしてその存在だけが魂をこっちに呼び戻せると僕は考えてる。現に僕はその理論で生き返らせてきたからね」
「なんかそうやって聞くと生と死ってのがすごく曖昧になっちゃうわね」
「人間はどちらにせよここに行き着いていたと思うよ。そして、そこからどう進むか、どう成長すべきかはこれからの僕らにかかってる。さてと、この辺りでいいかな・・・」
三上は開けた草原の上で立ち止まった。
「あれは・・・」
そしてウーネアの視線の先、そこにはウーネアと同じ色の金髪を後ろ髪で纏めてメガネをかけた女性が立っていた。
「彼女にはアウロが保管していたニヒルさんの記憶を全てつぎ込んである。けど、まだこれには魂は宿っていない。取り戻すには戦って呼び戻す他はない」
三上が話している間にウーネアは前に出て剣を抜いた。
「そんな事で取り戻せるなら、全然問題ないわ。あるとすれば、私が大暴れするとここ周辺がめちゃくちゃになる事くらいね」
「大丈夫だよ。戦う場所は異世界になるから。けどその前にウーネアさんに聞いておきたい。2人きりで3日間で彼女取り戻して欲しい。そしてその間に僕はもう一つ調べておきたい事があるんだ。あなたの工房を借りたいけど、良いかな?」
「構わないわよ」
「ありがとう、なら・・・行くよ!」
パチンッ!
三上が指を鳴らすとウーネアとニヒルの素体は炸裂音と共に姿を消した。