第34話
後続する馬車から降りてきたのは、王都一と名高いデザイナーに、熟練のお針子が五人。それにレース職人と刺繍職人までいた。
「さあ、皆さん。早速オフィーリアに目がくらむようなドレスを!」
「叔母様、目がくらんでは困りますわ」
オフィーリアが思わず口を挟むが、キャサリンは聞いていない。
騒ぎを聞きつけた侍女長も、慌てて玄関先へ出てきた。
「まあ、キャサリン様! もういらしたのですか」
「ええ。一か月しかありませんもの。のんびりしている暇なんてありませんわ」
「確かに……キャサリン様がいらしてくだされば、私どもも大安心です」
キャサリンの後ろに控えていたデザイナーやお針子たちを見て、侍女長は力強く頷いた。
一か月で最高のウェディングドレスを仕上げる――二人の目標は、早くも一致したようだった。
「まずはオフィーリア様の採寸をいたしましょう。それから、布を広げられる部屋を一ついただけるかしら。なるべく明るくて広いところがいいです」
マダム・ココが侍女長に言う。
「すぐにご用意いたします。裁縫の得意な者も何人かおりますので、必要でしたら手伝わせましょう」
「まあ、それは助かるわ!」
やがて屋敷の一室には、王都から運び込まれた純白の布や繊細なレース、真珠や銀糸が所狭しと並べられた。
裁縫に自信のある使用人たちも呼び集められ、裾飾りを縫う者、細かな刺繍を手伝う者、レースを整える者と、次々に役割を与えられていく。
「奥様のお召し物を作れるなんて光栄です!」
「絶対に素敵なドレスにしましょう!」
使用人たちまで目を輝かせている。
オフィーリアは、あっという間に大仕事へと発展していく様子を呆然と眺めていた。
「私、手持ちの白いドレスでも十分だと思っていたのですけれど……」
「何を言っているの」
キャサリンは即座に振り返った。
「一生に一度の結婚式でしょう? しかも今度は、あなた自身が望んで挙げる結婚式なのよ」
その言葉に、オフィーリアは少しだけ息を呑んだ。
たしかにそうだった。
今度の結婚式は、誰かに命じられたものではない。自分たちが望んで挙げるものなのだ。
「奥様、とびきり素敵なものにしましょう」
侍女長も微笑む。
オフィーリアはしばらく二人を見つめ、それから嬉しそうに頷いた。
「……ええ。お願いします」
その返事を待っていたかのように、部屋のあちこちで再び忙しそうな声が飛び交い始めた。
こうしてフォートリエ辺境伯邸では、雪祭りの準備と並行して、オフィーリアの花嫁衣装作りまで始まったのだった。




