第24話
数日後、キャサリンからの手紙がオフィーリアのもとへ届いた。自室で封を開き、アンナと並んで読み進めていく。いきなり要件から入るところがキャサリンらしい。
「……アンナったら、おば様に知らせたのね? 相当怒っているわよ」
オフィーリアは追伸の文に目を留める。
『そもそも、あなたほど愛らしく、賢く、申し分のない妻から誘われて断るなんて、私にはまったく理解できないわ。よほど《《変わった趣味》》の持ち主なのよ。このまま待っていたところで時間の無駄です。荷物をまとめておきなさい』
「アンナ。おば様はもしかして……こちらへ来るつもりなのではないかしら?」
アンナは一瞬だけ考えた。
「そうでしょうね。あの方の性格だと間違いありません」
「やっぱり!?」
オフィーリアがそう言った時には、アンナはもう衣装部屋から大きなトランクを取り出していた。
「では、まずドレスからまとめましょう。王都へ持って帰るものと、こちらへ残しておくものを分けませんと」
「ちょ、ちょっと待って。アンナ!」
止める間もなく、アンナは手際よくドレスをトランクに詰め始めた。
「まだ帰ると決めたわけではないのよ?」
「ですが、キャサリン様が『荷物をまとめておきなさい』と」
「そうだけれど」
「でしたら、これはもう決定事項です」
「叔母様が決めただけよ!?」
「オフィーリア様にとっての最善をいつも考えていらっしゃるキャサリン様ですよ? 今回も正解に決まっています! 私も、キャサリン様のお考えに賛成です」
「アンナまで?」
「当然です」
アンナはきっぱりと言った。
「ここは一年の半分近くが雪でしょう? 冬は辺り一面真っ白で、王都のような劇場も、おしゃれなお店もありません。オフィーリア様のようにお若くて、美しくて、しかもこれほど才能のある方が、ずっとここで暮らさなければならない理由なんてありませんもの」
「でも、私はここでの暮らしが嫌いなわけでは……」
「わかっていますとも。旦那様が大切にしてくださるのなら、私だって何も申しませんよ。ですが、オフィーリア様が勇気を出して夫婦の寝室へお誘いしたのに、お断りになったのです。ならば、一度王都へ戻るのもよろしいと思います。少なくとも、今のまま悩み続けるよりはずっとましです」
そう言われると、何も言い返せない。
オフィーリアはもう一度、キャサリンの手紙へ目を落とした。
『よほど《《変わった趣味》》の持ち主なのよ』
「……《《変わった趣味》》」
ぽつりと呟く。
それから、ふとブライアンの姿が頭に浮かんだ。
ブライアンは側近のエドガーとはずいぶん親しい。
執務室では気安く言葉を交わしているし、騎士たちともよく肩を並べて歩いている。訓練場では若い騎士の肩を叩いて笑っている姿も見たことがある。
「アンナ」
「はい?」
「ブライアン様って……男性とはずいぶん楽しそうにお話しになるし、スキンシップも多めじゃない?」
アンナの手がぴたりと止まった。
「……はい?」
「エドガーとも仲がいいでしょう? 騎士の方々とも、とても親しそうだし。その……距離感が近すぎると思わない?」
アンナの顔つきが変わった。
「まさか……やっぱり、そういうことなのでしょうか? ……これだけ愛らしいオフィーリア様をお断りになるなんて、あり得ませんもの」
「アンナも……その……そう思うの?」
「はい、この件では私もオフィーリア様やキャサリン様と同意見でございます。もちろん男性同士の恋愛に悪い感情は持っていませんよ。人それぞれいろいろありますからねぇ」
その日の午後、ブライアンは屋敷に隣接する鍛錬場にいた。辺境を守る騎士たちに交じり、自らも剣を握る。
「そこだ。踏み込みが浅い」
「はい!」
若い騎士の剣を受け流し、軽く肩を叩く。
「今の動きは悪くなかった。だが、次は腰を引くな」
「ありがとうございます!」
次に相手をした騎士には、構えを見ただけで首を振った。
「剣先が下がりすぎている」
ブライアンはその騎士の手首を取り、剣の角度を直す。腰にも手を当てて、姿勢を直す。
「足を踏ん張れ。腹に力を入れて重心をぶらすな!」
「はい!」
ふと、どこからか視線を感じた。
ブライアンは辺りを見回す。
鍛錬場の少し離れたところに、オフィーリアが立っていた。
こちらをじっと見ている。目が合ったと思ったのに急に逸らされ、足早に去っていく。
「オフィーリア?」
ブライアンは首を傾げたのだった。




