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夢みる星のレネウス  ~光の神官様の恋が迷子のようです~  作者: ふじえだ とうじ


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2/12

光の御子

 ライタス山脈の端に位置する高地にある小国、神聖クロワ公国。

 小国ながら水の女神に護られたその国を治めるのは、水の女神に使える巫女であり、クロワ公国の女王でもあるロナマリアである。

 水の女神を主神と祀る『聖泉堂』の大神官を束ねる格の高い女王としても高名であった。

 クロワ公国の王宮には水の女神が時折降臨すると言われる聖なる温泉が滾々と湧いており、そこは女王が巫女として儀式を執り行う場でもあった。水の女神が人間と接触するのは女性に限るというその性質上、王家は必ず女性が王になるのが習わしで、直系の長女が第一王位継承を持つのである。

 女王ロナマリアは2年前に幼馴染みでブランシュ領主であるマティアスと結婚した。そして、王家待望の第一子が1か月前に産声を上げた。

 だが、期待に反して生まれたのは男児であった。王家の儀式で直系の子供は生後1か月して聖なる泉と呼ばれる女神が降臨する温泉につかる儀式があり、ロナマリアは生まれた王子を抱きながら重い足取りで温泉のある建屋に向かったのだった。

 儀式の白い薄い着物姿のまま清めの湯を浴びてから、湯気の立つ聖なる温泉に腰まで沈んだ時、周囲がキラキラと光の粒が降ってきたと思うと、音もなく光の玉が現れた。

 ロナマリアは赤子を胸に抱きながら一礼する。光が水上で形を変えて一人の女性の姿になった。

「待っていましたよ、ロナマリア」

「水神リィーン、今宵は儀式にのっとり生まれた子を連れて参りました」

 現れた女神へ、ロナマリアが頭上に赤子を差し出しながら頭を垂れる。

「王子エルトダリスにございます」

 生まれたものの王位継承権の無い男児であることにロナマリアは苦悩を滲ませていたが、女神は微笑みながら差し出された赤子を抱き上げた。

「エルトダリスと言うのね」

女神の慈しみの笑みに、赤子は片手を伸ばした。

「エルトダリスよ…神官の星命の子よ」

「この子が…神官ですか?」

ロナマリアは驚いて瞬きを繰り返した。王子の将来は王家を支えるのではなく、神に仕える運命だと知らされたからだ。

「ですが、この子にとって茨道です」

女神の笑みは消える。

「座学だけではこの子の道は開かれません。そのための体も鍛えないと、命を失う可能性もあるのです。幸いこの子には…剣の素質を持っています」

 王子の前途は厳しいと予言され、ロナマリアは顔色を失ったが、女神はロナマリアに微笑み返した。

「心配しないで、ロナマリア。この子に特別、私からの祝福を授けましょう」

 女神が右手の中指で自分の唇れる。その指で今度は王子の額の真ん中にそっと触れた。

 瞬間まばゆい輝きが周囲にあふれた。それはほんの一瞬の出来事だった。

「この子の祝福は私たちの秘密とします」

「心得ました」

ロナマリアは女神に一礼し、女神から再び王子をそっと受け取る。その王子の胸上に、いつの間にか幾何学模様のレリーフが輝く銀色の短剣が乗っていた。

「それはエルトダリスにしか扱えぬ剣です」

女神が言葉を続ける。

「エルトダリスの成長と共に、剣も成長に合わせて姿を変える特殊な聖剣です。常に王子に直接持たせるように。神殿内でも、宮殿内でも、場所は問わず携帯を許可します」

「ありがたく存じます。」

恐縮してロナマリアは頭を垂れる。思いがけない祝福と加護が男児に与えられるのは、王家始まって以来の奇跡としか言いようがない。

「エルトダリスが今後、早朝ここに来ることを許可します」

さらなる神託にロナマリアは緊張を隠せない。異例なことに男児が聖なる泉に入るのを許されたのだ。

「神官の身故、浄化が必要となるでしょう。清めのためなら何度でも来て構いません」

王家始まって以来の破格の守護を、しかも王子が得たことに、ロナマリアは身体が震えて止まらない。

今まで神託がなされても、緊張するほどの祝福は無かったのだ。身が引き締まる思いがしたのは言うまでもない。

「女神リィーンのご厚情感謝申し上げます」

「未来のエルトダリスの成長が楽しみです。期待していますよ、マリア…」

女神の姿が光の粒に霧散していくのを見つめていた女王だが、胸の奥が熱くなるのを感じて腕の中のわが子へ視線を移した。不思議と王子は泣くこともなく穏やかに寝息を立てている。

 水の女神から愛され、秘密の祝福と加護の剣を賜るに至ったエルトダリスに、ロナマリアはこの上もない喜びを感じ、涙があふれたのだった。


 女王ロナマリアは聖なる泉の建屋から出る。

 外には分厚いローブと柔らかなタオルケットをそれぞれ手にした二人の侍女が待っていた。

 儀式用の薄い衣を身に着けているとはいえ、裸に近い姿の女王が冷えないように、侍女は素早くローブで包むように肩に掛けた。

 抱いていた王子もタオルケットにくるまれ、もう一人の侍女に手渡される。

 三人は急ぎ足で宮殿の奥へと向かった。




クロワ王家に前例のない加護持ちの王子が誕生しました。

この子の成長がこれらの世にどう影響をもたらすのか、

お楽しみに……

次回は8月23日を予定しています。


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