プロローグ
小説家になろう初投稿になります。よろしくお願いします。
雲間から白々と光が差し始めた早朝。
季節は春というのに、昨夜まで降り続いた雨のせいなのか、庭を渡る風は冴え冴えとし、何故か緊張を含んでいるようにも感じた。
そんな肌寒さを感じる庭に現れたのは、小さな籠を片手にかけた一人の少女。
神国アルスレイド第2王女ジェイスジニーである。
「どの花がいいかしら…」
花壇の周囲を見渡しながら、摘む花を探して奥へと歩みを進めた。
しばらくして花壇の先に見知らぬ人の後ろ姿があるのに気が付いて、ジェイスジニーはその場に立ち止った。
純白のコートを肩にかけ、背中の半分まで伸びた白銀に光る髪を惜しげもなく降ろしている後ろ姿なのだが、まったく見覚えがない。
誰なのだろうと思いながら、ジェイスジニーは再びゆっくりと歩みを進めた。
ややして王女の気配に気づいたのか、謎の銀髪の人物が振り向いた。
朝日を浴びながら振り返ったその横顔は、男とも女ともわからない整った顔立ちで、美麗に満ちた輝き放っていた。それはまるで、花の妖精が庭に佇んでいるかのように思え、浮世離れした美しさに王女は息をのんだ。
だがその麗しい人の頭部には包帯が巻かれ、左腕も骨折しているらしく肩から掛けられた三角巾に吊るされた中に収められていて、痛々しい姿だったのだ。途端に王女はあることに気が付いて、顔色を無くした。
そんな王女の様子を知ってか知らずか、麗しい銀髪の人が微笑みながら王女に歩み寄ってきた。
王女は慌ててその場で深々と淑女の礼を取る。
「お初にお目にかかります、光の神官エルトダリス様。わたくしは神国アルスレイド第2王女ジェイスジニー・アルスレイドと申します。ご尊顔拝し奉り恐悦至極にございます」
自分は王女であるが、目の前の人物は高位の神官で、『光の神官』という称号も持つ雲上人なのだ。
「おはようございます、ジェイスジニー殿下。こちらこそ初めてお目にかかれて光栄の極みにございます」
光の神官も敬意を表すように右手を後ろに回して、一礼を返した。その流れるような所作も洗礼されて美しい。
光の神官は、隣国の神聖クロワ公国の教会である『聖泉堂』の神官であり、訳あってアルスレイド王家が招いた賓客だった。
依頼を受けた光の神官は、クロワ公国から4騎の護衛に守られながら、馬車でアルスレイドの王都ドリトスへ向かったのだが、連日の雨の中を馬車で移動中、街道の難所で土石流に巻き込まれ山の斜面に転落したのである。
幸い出迎えに来たアルスレイドの騎士団が救助に駆けつけ、馬車の中で大怪我を負った神官と共の神官見習いが救出されたが、御者や護衛の二人の騎士は行方不明だった。
そんな災害に巻き込まれた光の神官は1か月の間アルスレイドの王城で床に臥せていて、今まで起き上がる事もできなかったのだ。
光の神官は行方不明の3人の事を心配しながら朝の祈りを天に捧げるために、初めて庭に出てきたのだった。祈りを捧げて天を仰いでいると、偶然にもジェイスジニーと出会ったのだ。
一方ジェイスジニーも床に臥せる光の神官のために、病床の花を選ぶために庭に出てきて所だった。
初対面のせいもあって、ぎこちなく身を起こした王女の右手を神官は両手でやさしく包むと、言葉を続けた。
「どうか私の事は、気軽にエルトとお呼び下さい」
まろやか笑みを浮かべる神官を、王女ははにかんだ笑みで答えた。
「恐縮ですわ、光の神官様。でも、愛称でお呼びするなんて…」
「ジェイスジニー殿下だから、ですよ」
王女の頬がみるみる紅色に広がる。
「で、では私の事も、ジニーとだけお呼びいただけたら嬉しいです」
にっこりと微笑み返したジェイスジニーだが、内心こわばりが表に出ていないか不安だった。
彼女は王女の立場でありながら、極度に人見知りが激しく、社交は苦手でいつも兄弟の陰に隠れるようにいたのだ。
そんなドギマギしている王女を光の神官はじっと見つめる。いたたまれない気持ちになったジェイスジニーは、慌てて話しかけた。
「あ、あの…神官様、何か…?」
「あ、いや失礼した」
光の神官は苦笑しながら言葉を続けた。
「何処かでお会いしたことがあったでしょうか?」
初めて会った王女だが、何故か彼女を見知っているような気がしたのだ。
光の神官の言葉に、王女は改めて彼を見つめ返した。
(…そう言われると、確かにそんな気もしないでもないかしら…?)
王女は光の神官を更に注意深く見つめた。初対面のはずなのに、確かにこの方を知っているような気がする。
それどころか、何故か久しぶりに会う親しい身近な人のように感じさえするのだ。こんな気持ちになるのさえ不思議で戸惑いも感じたのだが、それよりも増して再会した様な不思議な感覚が強くて、何故か喜びが沸いてくるのを感じた。
初めて会った光の神官が、あまりに麗しい姿だから、そう思ったのだろうか?
だとすれば、それはとてもうれしい事だが、人見知りの激しい自分が、果たして本当に初対面でこんな気持ちになるものなのか?
様々な複雑な気持ちが交錯したが、それは驚くほど一瞬の出来事だった。
戸惑いの瞳を向けるジェイスジニーを、光の神官は温かな眼差しで見つめ返している。
「不思議なこともありますね。どうぞ気軽になさって下さい」
光の神官はまろやかな笑みを浮かべたまま言葉を続けたが、突然額に激痛が走り思わず顔を歪めて俯いた。
「痛っ…!」
光の神官の異変に気付いたジェイスジニーは、狼狽えながら光の神官に手を差し出した。
「ご無理をなさってはいけません。部屋に戻りましょう」
「すみません、ジニー殿下」
光の神官は詫びつつ、差し出された手を支えに来た道を引き返すことにした。
これが光の神官エルトダリスと王女ジェイスジニーの運命の出会いだった…
次月回は8月9日を予定していますが、都合により遅れる場合もありますのて、ご了承ください。




