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学園の人気者のあいつは幼馴染で……元カノ  作者: ナックルボーラー


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第6話 同じ学校故に

 特に面白い出来事もなく、平凡で退屈な学校生活が終わった。


 その日の放課後、太陽はクラスメイトたちに誘われ、近くのファミレスに来ていた。


 太陽を含めた男子三人が並んで座り、向かい側に女子二人が座っている。


 話している内容に、これといった中身はない。


 学校の愚痴。

 先生の噂。

 次のテストの話。

 高校生らしい、どうでもいい会話だった。


 その中で、女子生徒の一人――藤堂(とうどう)(あかね)が、ジュースの入ったグラスを片手にテーブルへ突っ伏した。


「はぁ~。ほんと、マジで嫌になっちゃうよ。学校が近いってだけで進学校に通うんじゃなかった……」


 明るめの茶髪に、少し乱した制服。

 一見するとギャルのような容姿をした少女だ。


 茜はグラスのストローを指でいじりながら、情けない声を漏らす。


「今度の中間悪かったら、黒髪に戻せって担任に言われちゃったんだけど、マジ最悪」


「あー、それはご愁傷様。お前の黒髪楽しみにしておくよ」


 太陽の左隣に座る桜井(さくらい)和人(かずと)が、皆で注文した特盛フライドポテトを一本つまむ。


「でもさ、家が近いからって理由で進学校に入るか? 普通。入ったら勉強しなきゃいけないって分かるだろ」


「いや~、家が近いってのもあるんだけどさ」


 茜はへらへら笑いながら、髪を指に絡める。


「うちの学校、校則緩いじゃん。赤点さえ取らなきゃ、髪色とか服装にあんまりうるさく言われないし。ほら、私みたいな格好、他の公立じゃ絶対アウトでしょ?」


「自覚はあるのかよ」


「あるよ。あるけど、気に入ってるんだもん」


 鹿原高校は進学校だが、成績さえ保っていれば校則は比較的緩い。

 だからこそ、茜のように自由な格好を目当てに入学した生徒も少なくなかった。


 太陽もその一人……というわけではないが、金髪にピアスという格好をしている。

 それでも今のところ教師から強く咎められていないのは、赤点を取っていないからだった。


「うちらの学校、赤点ラインが平均点マイナス二十点でしょ? 平均高い教科だと地味にきついんだよね」


 茜が唇を尖らせる。


「じゃあ勉強すればいいだろ。今からやれば間に合うんじゃねえの?」


 和人の正論に、茜は露骨に顔をしかめた。


「うわ、出た。天才の余裕。桜井は頭いいからいいけどさ、私たちみたいな馬鹿は苦労するんだよ。ねえ、美智留ちゃん」


「勝手に私をあなたと同列にしないでくれるかしら?」


 茜の隣に座っていた女子生徒、佐々木(ささき)美智留(みちる)が冷たく返した。


 鷹のように鋭い目つき。

 黒髪のボブカット。

 整った顔立ちをしているが、口調はかなり辛辣だった。


「少なくとも、次のテストで赤点を取る心配はしていないわ」


「ぐっ……美智留ちゃんまで裏切るの……?」


「最初から味方になった覚えはないわね」


 あっさり切り捨てられた茜は、今度は太陽の右斜め前に座る男子生徒へ身を乗り出した。


「中原は私の味方だよね!? 前に授業ついていけないって言ってたし!」


 縋るように見つめられた男子生徒――中原(なかはら)達彦(たつひこ)は、にやりと笑った。


 太陽も金髪だが、中原もまた金髪だ。

 ただし、太陽がどこか無理をしているチャラ男なら、中原は中身まで軽い本物のチャラ男だった。


「いやぁー、最近まではそうだったんだけどさ。俺っち、近所の塾に通い始めてから成績ぐんぐん上がってるわけで。悪いけど、俺っちもあかちんとは仲間になれましぇーん」


「はぁ!? あんたが塾!?」


 茜が目を剥く。


「『俺っちのトレンディーは才女みたいな女の子だから』とかいう意味不明な理由で鹿原に入ったあんたが、何を真面目に勉強してるのよ!」


「いや、お前の理由も大概だからな?」


 和人が呆れたように言う。


「それにしてもお前ら、もうちょっと真面目な進学理由はなかったのか、将来設計が雑過ぎだろ……?」


 太陽と美智留は、無言で頷いた。

 すると茜が、中原に指を突きつける。


「どうせあんたのことだから、塾の女の子と仲良くなりたいとか、そんな理由でしょ?」


「ちっちっち、違うんだなー、あかちん」


 中原は得意げに指を振る。


「俺っちの狙いは――塾の若い女講師だったりねー!」


「ほとんど一緒じゃない、この最低チャラ男!」


「うわぉ! 罵倒がストレート!」


「あと、あかちんって呼ぶな! 薬みたいで嫌なのよ!」


 茜と中原の声が徐々に大きくなる。

 ファミレス内はそれなりに賑わっているが、この席だけは妙に騒がしい。


 太陽、和人、美智留の三人は、そっと他人のふりをするように顔を逸らした。

 だが、最後の望みだった中原にも裏切られた茜は、今度こそと太陽へ向き直る。


「こうなれば致し方ない。古坂は私の仲間だよね、ね!?」


 鬼気迫る勢いで顔を近づけられ、太陽は頬を引きつらせた。


「いや、そんな顔近づけられてもな……。悪いけど、俺も赤点は取らないぞ? 成績も、この中じゃ桜井より下だけど、そこそこは取れてるし」


「ちくしょー!」


 最後の希望を失った茜は、テーブルに突っ伏した。


「美智留ちゃんや桜井ならともかく、こんなチャラ男二人に裏切られるなんてぇー!」


「待て、藤堂。中原はともかく、なんで俺までチャラ男認定なんだ」


「だって古坂、合コンとかよく出てるじゃん!」


「出てるけど! だからって変な認定するな! せめて軽い男くらいに――」


「ふぉー、たいちん! 今度可愛い子の連絡先教えてくれよ!」


「黙れ正真正銘のチャラ男! 誰がお前なんかに教えるか! それとたいちんはやめろ!」


「流れで二度目だけど、あかちんもやめて!」


「……あの、お客様。店内ではもう少しお静かにお願いいたします」


「「「「「すみません……」」」」」


 店員に注意され、五人は一斉に頭を下げた。


 店員はにこやかな笑顔を浮かべていたが、こめかみが微かに引きつっていた。

 相当迷惑だったらしい。

 店員が離れていくのを見届けてから、茜は気を取り直すように咳払いした。


「そういえば、昨晩さ。私、健ひろで渡口さんを見かけたんだけど」


「おい。お前の成績の話はどうなった」


 女子高生特有の話題転換に和人が即座に突っ込む。


 茜は手をひらひら振った。


「その話は今考えると心が死ぬから保留でお願い」


「へえ? なら、直前になって私に泣きつかないのね?」


 美智留が涼しい顔で言う。


「いつもテスト前に『勉強教えて』って泣きついてくるから、いい加減うんざりしていたのだけど」


「ごめんなさい。今のは言葉の綾です。現実逃避です。今後とも私をお助けください」


 茜は即座に頭を下げた。

 美智留と茜は同じ中学出身らしい。

 付き合いは長いようだが、美智留の反応を見る限り、茜関係でかなり苦労させられているのだろう。


「で、話戻すけど」


 中原がストローをくわえながら口を挟む。


「ひかりんが健ひろにいたって、何してたんよ?」


 健ひろ。

 正式名称は、県民健康広場健康促進センター。

 屋内プールやジム、屋外の運動場などを備えた公共施設のことだ。


「うーん……遠目だったから、渡口さんってことは分かったんだけど、何をしてたかまでは分からなくて」


 渡口とは、太陽の幼馴染であり、元カノでもある渡口(わたぐち)(ひかり)を指している。


 同学年で渡口という苗字の生徒は光しかいない。

 話題に上がるほど有名となれば、彼女以外にはいなかった。


「健ひろって、運動する施設よね?」


 美智留が首を傾げる。


「でも、渡口さんって去年、足を怪我して陸上を辞めたんじゃなかったかしら」


「そうそう。それで陸上やめたって聞いたけど」


 茜が同調して頷く。


「本当に残念だよね。あの子、全国レベルだったんでしょ?」


「だったね~。ひかりん、有名だったもんな」


 中原が軽い調子で言う。


「俺っちのいた鹿原東中にも、鹿原中にめっちゃ可愛い陸上女子がいるって噂届いてたし」


 そこで中原は、ふと思い出したように太陽を見た。


「そういえば、たいちんってひかりんと同じ中学じゃなかったっけ?」


 全員の視線が太陽に集まる。

 高校に入ってから知り合った相手には、出身中学くらいは話している。

 中原も、それを覚えていたのだろう。


「同じ中学なら、ひかりんが中学の頃どうだったか知ってるよな。なあ、ひかりんって中学の頃どんな感じだったんだ? やっぱモテた? 彼氏とかいたの?」


 中原に悪気はない。

 ただの好奇心で、雑談程度に話しているのだろう。

 だからこそ、太陽の胸に深く刺さった。


 彼氏はいた。

 自分が、そうだった。


 けれど、そんなことを言えるはずもない。


「……さあな」


 太陽は短く答えた。


「マジか~。ひかりんって高校でもかなり人気だし、中学でも有名だったんだろ? 彼氏いたら噂になりそうだけどな」


 中原は楽しそうに笑う。

 太陽と光は、自分たちが付き合っていた事実を周囲にほとんど話していなかった。


 互いに公言しないまま、静かに関係を続けていた。

 それが良かったのか悪かったのか、今となっては分からない。


 ただ一つ確かなのは、目の前の四人は、太陽と光の関係を知らないということだった。


 胸の奥が、きゅっと締めつけられながら、太陽はグラスを指先で軽く弾いた。


「今、彼氏がいるかは知らねえけど」


 馬鹿正直に言う必要はない。

 頭では分かってるはずなのに、喉の奥から勝手に言葉が出た。


「あいつ……好きな人がいるらしいぜ」


「マジで!?」


 中原が驚いた様子で身を乗り出す。


「ひかりんが好きな奴ってどんな奴!? イケメン!? 天才!? 金持ち!?」


 勢い任せに口から出た言葉は、どれも太陽とは遠いものだった。


――――他から見れば、やっぱり、そういう奴の方が光には似合うんだな。


 分かっていたはずなのに、改めて突きつけられると胸が苦しくなる。

 太陽は平静を装い、グラスの中の氷を見つめた。


「……そんなの、俺が知るわけねえだろ」


 自分が振られるきっかけになった相手。

 光が、自分より選んだ相手。

 本当は、誰よりも太陽が知りたかった。


 けれど、その言葉を口にすることはできなかった。

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