表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園の人気者のあいつは幼馴染で……元カノ  作者: ナックルボーラー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/21

第14話 太るぞ?

 川辺の土手で御影と別れた太陽は、一人で家へ続く道を歩いていた。

 帰る最中、頭の中では、さっきの御影の言葉が何度も反芻されている。


『どんなに辛い想いをしても、過去は変えられません。時間も戻りません』


『でも、強く想っていたことまで嘘にはならないんです』


「……過去があって、今の自分がいる、か」


 独りごちた太陽は、通りかかった服屋のショーウィンドの前で足を止めた。

 ガラスに、今の自分が映っている。

 

 金髪に耳にピアスと、流行に乗った服を着るチャラ男な風貌。

 中学の頃の地味な自分とは、まるで別人だった。

 派手な服も着なければ、人前で軽口を叩くような性格でもなかった。


 変わるきっかけは、失恋だった。


 相思相愛だと思っていた相手に振られた。

 惨めで、情けなくて、そんな自分を捨てたくなった。


 金髪にしたのは、昔、光が言っていたからだ。


『私、チャラチャラした男の人って苦手なんだよね』


 なら、いっそ光の嫌いな姿になってやろうと思った。

 とことん嫌われた方が、楽になれる気がした。

 けれど、それは前進でも成長でもない。ただ、逃げているだけだ。


「人には偉そうなこと言っといて、自分の番になったらこれかよ――とんだ笑い者だな、俺」


 太陽はショーウィンドに映る自分を見て、自嘲気味に笑う。

 だが、店内から従業員が怪訝そうにこちらを見ていることに気づき、太陽は気まずくなって歩き出した。


「それにしても……晴峰、すげえな。もし俺があいつの立場なら、同じことをしてたかな?」


 知り合いも、慣れた土地も置いて、この街へ来た。

 親の転勤がきっかけとはいえ、前の場所に残ろうと思えば残れたはずだ。

 それでも御影は引っ越してきた。

 自分がライバルと認めた光と、もう一度走るために。


「……猶更言えねえよな。お前のライバルは、足を壊して陸上を休んでます、なんて」


 光は高校一年の夏、過剰練習(オーバーワーク)により足の靭帯を痛め、今は陸上部を辞めている。

 怪我自体は完治すれば陸上は続けられるらしいが、高校の間に復帰するのは絶望的だと母親経由で聞いている。


 太陽が御影にそのことを言う、言わないにせよいずれ知られることだ。

 この街は狭い。必ず光の怪我は御影の耳に入る。

 その時、わざわざライバルを追って引っ越してきた御影はどう思うだろうか。


「……無関係になったのに、なんで俺があいつのことで悩まなきゃいけねえんだよ」


 苛立ちを吐き捨て、太陽は乱暴に髪を掻いた。

 その時、視界の端にディスカウントストアの看板が入る。


「……菓子でも買って帰るか」


 考えていても気が滅入るだけだ。

 最近買った漫画のお供に、菓子と飲み物でも買おう。

 そう決めて、太陽は店内へ入った。


 外の蒸し暑さから一転、店内はクーラーが効きすぎているくらい涼しかった。


「寒っ……」


 思わず身震いしながら、太陽は菓子コーナーへ向かう。


 この店は安い物が揃ってるため、太陽はよく利用している。

 慣れた足並みで目的の棚の前へ行き、並んだスナック菓子を見比べた。


「今日は九州しょうゆでいいか」


 特にこだわりがあるわけではない。

 気分で選んだ袋をカゴへ入れ、他にもいくつか菓子を放り込む。


 寝転がりながら漫画を読み、菓子を頬張る。

 それは太陽にとって、ささやかな至福の時間だった。


「飲み物もいるよな」


 そう思い、飲料コーナーへ向かおうとした時だった。


「うーん、あと少し……あと少しで届くのに……ふ、にゅーん!」


 聞き覚えのある声がした。

 見ると、小柄な女子が棚の前で必死につま先立ちをしている。

 一番上の棚にあるチョコ菓子へ向かって、腕をぷるぷる震わせながら伸ばしていた。


 見なかったことにしよう。

 そう思い、太陽は無言で踵を返そうとした。


「…………」


 だが、後でバレたら怖いと、太陽は小さく溜息を吐き、その女子へ近づいた。


「……何してんだよ、千絵」


「あっ、太陽君」


 高見沢千絵は背伸びをやめ、太陽の方を振り返った。


「どうしたの、こんなところで?」


「どうしたの? じゃねえよ。それはこっちの台詞だ」


 太陽は近くに置かれた踏み台を指さす。


「お前、そこに台があるんだから使えよ。気づかなかったのか?」


 踏み台は別に従業員用でもなく、誰でも使用できる。

 しかし千絵は真顔で首を横に振り。


「ううん。あるのは知ってたよ。ただ使わなかっただけ」


「いやいや、届かないんだったら普通使うだろ……」


「太陽君が言いたくなるのも分かるよ。けど、これだけは言わせてほしんだ。……これを使うとね、なんだか負けた気になるんだよ……」


「知らねえよ!」


 千絵は悲しげな目で踏み台を見ている。

 その表情には、妙な哀愁すら漂っていた。


 千絵の身長は中学1年の頃からほとんど伸びていないと本人が何度も愚痴っていた。おそらく、150cmにも届いていないだろう。


「だとしても、意地張るなよな。届かないなら使えって。今後も世話になるかもしれないんだから」


「それって、私がこのままチビだって言いたいの!?」


 本音を言えば殴られるのは必至だと誤魔化す様に苦笑しながら、太陽は千絵が取ろうとしていたチョコ菓子を取ってやる。


「ほらよ。これだろ? 欲しいの」


「……ありがと」


 千絵は少し不満げにしながらも、それを受け取ってカゴに入れた。


「太陽君はいいよね。男の子だから背が高くて。だからチビ女の気持ちなんて分からないんだよ」


「男にだってチビはいるぞ。まあ、俺は平均くらいだけどな」


「平均が羨ましいんだよ!」


 千絵は頬を膨らませる。

 だが千絵はメラメラと背景を燃やし、固く拳を握る。


「でも、まだ私は諦めてないよ。私の成長はこれからだ!」


「打ち切り漫画の最終回みたいなこと言うな」


「まだいける。諦めないよ、成長期」


「なんで俳句調なんだよ」


 千絵は本気でまだ身長が伸びると信じているらしい。

 人間の成長期は個人差がある。

 だから可能性がゼロとは言い切れない。


 だが太陽は、千絵の胸元をちらりと見てしまう。


「……まあ、お前の場合、そこは周りから羨ましがられるかもな」


 小柄な身長とは反比例するように、千絵の胸はそれなりに主張がある。

 おそらく平均以上だ。


「何か言ったかな、太陽君?」


 低い声だった。

 見ると、千絵は笑顔のまま拳を開いたり閉じたりしている。

 完全に聞こえていたらしい。


「いや、何でもありません」


 太陽は即座に視線を逸らした。


「そ、そういえば、お前も買い物か?」


「何その今更な質問。当たり前だよ。冷やかしで来るほど暇じゃないし」


 千絵は自分のカゴを見せる。


「今日の夜食を買いに来たんだよ」


「夜食?」


 太陽は千絵のカゴを覗き込み、頬を引きつらせた。


「……お前、どんだけ買うんだよ」


 スナック菓子にチョコ菓子、インスタントラーメンにさらに炭酸飲料まで入っている。それらが籠から溢れんばかりに詰められていた。


「って、そうか。家族の分もあるんだよな? さすがに全部自分用じゃ――」


「ううん。全部私のだよ」


 太陽の自分への言い聞かせを千絵は一蹴する。

 千絵は両親と兄二人の五人家族。家族の為ならこの量も妥当だと思った。

 だが千絵は、あろうことかそれを自分用だと言った。


「あぁ、何日か分ってことだよな。確かに、何度も買いに行くのは面倒だし―――」


「ううん。今日の分だよ」


「うん、すまん、それは流せねえや。どう見ても1日分の量じゃねえだろ!」


 太陽なら一週間は持ちそうな量だった。

 だが千絵は、ふっと不敵に笑う。


「甘いね、太陽君。このデラックスチョコクッキーより甘いよ」


 籠からお気に入りの菓子を太陽に突き刺し千絵は言う。


「いい、太陽君。勉強には糖分が必要なんだよ? 頭を使うにはエネルギーがいる。これは世の常識。そして医大を目指す私は、毎日勉強に励んでいる。つまり、これだけのお菓子は必要経費なんだよ!」


「必要経費の概念が壊れてるぞ~」


 頭を使うには糖分が必要という話は聞く。

 だが、それは適量の話。

 過剰に摂取すれば、眠気も来るし、将来的には健康にも悪い。


(たまに、こいつ本当に頭いいのか疑いたくなるな……)


 これでも千絵は、進学校の鹿原高校で上位を維持している秀才だ。

 昔からこの調子で勉強しているなら、結果は出ているのかもしれない。


 だが、太陽はどうしても言わずにはいられなかった。


「…………太るぞ?」


 今度は見逃してもらえず、太陽の腹部に強烈な拳が入ることとなる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ