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峠の旗 10
岩尾城の大手門の前に鐘の旗が立った。
信蕃の手には、陽光に反射した金紙采配が握られている。
采配を頭上から振り下ろした。
それを合図に、一斉に依田勢が大手門に取りついた。その背後、一町ほどのところに佐久諸将と徳川の援軍が陣取っている。
頭上から弾丸が雨のように降り注ぐ。
銃声と喚声があたりに木霊す。
味方によって、大手門がこじ開けられた。
信蕃は腰に采配を納めると、すらりと抜刀した。
「我に続け」
叫ぶと、真っ先に大手門をくぐる。
逃げまどう敵。
その背を一刀のもとに切り下げる。
甲高い悲鳴。
信蕃の後ろから続々と依田勢が従い、敵をなぎ倒していく。
信蕃は、三の丸の土塁に取りついた。
それまで静まっていた銃声が、再び轟く。
先ほどまでとは比較にならぬほどの弾丸の雨。
信蕃は土塁を見上げた。
筒先が己に狙いを定めている。
口辺が僅かに緩んだ。
轟音が頭上から起こった瞬間、腹部に衝撃が走った。
そして真っ逆さまに土塁から転がり落ちた信蕃の意識は、二度と戻らなかった。




