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お払い箱の聖女は占いで食べていく 〜冷徹な騎士団長が、なぜか毎日来る〜  作者: 丸ノ内きみこ


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22/24

22.

レオンが「仕事の効率化」という名目で、鑑定室の隅に特設の執務机を(勝手に)新調した日のこと。


カランカラン、と鈴が鳴り、店のドアが遠慮がちに開いた。入ってきたのは、先日騎士団本部でミコトの「講義」を受けた新人騎士の三人組。彼らは店に一歩踏み出すなり、隅で書類を捲るレオンの姿を見つけて直立不動になった。


「「「し、失礼しますッ!!」」」


「あら、先日の新人さんたちね。いらっしゃい。……レオンさん、あなたがそんなに睨むから、彼らが石像みたいになってるじゃない」


ミコトは呆れ顔でレオンを窘め、三人に椅子を勧めた。彼らは震える手で、小さな袋を差し出す。


「あの……顧問! 講義の後、肩が驚くほど軽くなりまして! これは、その……同期のみんなで出し合った、お礼のクッキーです!」


「まあ、ありがとう。……でも、相談はそれだけじゃないわね? あなたたちのオーラ、なんだかソワソワして、お尻に火がついてるみたいだわ」


ミコトが水晶玉を覗き込むと、三人は顔を見合わせ、声を潜めて切り出した。


「実は……講義の後から、宿舎の廊下で『銀色の亡霊』が猛スピードで走り抜けるという噂が広まりまして。みんな、団長のしごきが霊的な呪いになったんじゃないかって、夜も眠れないんです」


その瞬間、隅っこでペンを走らせていたレオンの手が止まった。彼の背後から、どす黒い「威圧感オーラ」が漏れ出す。


「……私の訓練が、呪いだと? 誰だ、そんな根も葉もないことを言っているのは」


「ひっ、だ、団長! 申し訳ありません!」


ミコトは溜息をつき、レオンの前に立って彼の視線を遮った。


「レオンさん、座ってて。……いいですか、皆さん。それは亡霊じゃなくて、単なる『集団心理の残像』よ。あなたたちが毎日、レオンさんの高速移動や厳しい訓練を意識しすぎているせいで、空間にそのイメージが焼き付いちゃったのね」


ミコトはルルに命じて、レオンが持ってきた「白銀の岩塩」を一掴み持たせた。


「これを宿舎の四隅に置きなさい。それと、寝る前に『団長はただの人間、怖くない』って三回唱えること。いいわね?」


「ただの人間……怖くない……。はい! やってみます!」


新人が少し安心した顔を見せたその時、レオンが静かに立ち上がり、彼らの背後に立った。


「……今の言葉、聞き捨てならんな。私が『怖くない』だと? 明日の朝は、その亡霊とやらを追い越すほどの速度で、外周を百周ほど走ってもらおうか」


「「「ぎゃあああああ!!」」」


悲鳴を上げて逃げ出していく新人たち。

それを見送って、ミコトは腰に手を当ててレオンを睨みつけた。


「レオンさん。……あなた、自分の評判を自分で下げてどうするんですか。これじゃ、私がどれだけお清めしても追いつかないわ」


「……ふん。彼らが私のことをそれほど熱心に考えているのなら、それはそれで教育の成果だ。……それより、ミコト。あのような若造からもらったクッキーより、私が用意したこちらを食べなさい」


レオンは対抗するように、どこからともなく高級な果物タルトを取り出した。

ミコトは彼の「負けず嫌い」なオーラに苦笑しながら、結局、新人からのクッキーとレオンのタルトを並べてお茶会を始めることになった。


「……全く。特別顧問の仕事って、騎士団の霊障解決じゃなくて、あなたの性格の矯正なんじゃないかしら」


「……それで構わん。私の魂を導けるのは、世界であなた一人だけなのだから」


「……、……っ。もう、そういう恥ずかしいことを真顔で言うのはやめなさいってば!」


占いの館は、今日も騎士団の騒動と、レオンの重すぎる愛で賑やかだった。

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