19.
二人がお揃いの「ルル根付」を身につけてから、数日が過ぎた頃のこと。
鑑定室の隅でレオンが書類を捲り、ミコトが水晶玉を磨くという、いつもの穏やかな午後が一変する。
「……っ!?」
突然、ミコトの胸元にある根付が、焼けるような熱を帯びた。
同時に、レオンの腰にある根付もまた、共鳴するように鋭い光を放つ。
「ミコト、今のは……」
「ええ。心臓を直接掴まれたみたいな嫌な予感。……レオンさん、あなたも感じたのね?」
二人が視線を交わした瞬間、ミコトの脳裏に、王都の北側に位置する「大聖堂の地下墓地」の光景が、鮮明な映像となって流れ込んできた。
「地下墓地……。封印されていた『古の怨念』が、何者かに抉り取られたわ。……これは、セシルの時に感じたものより、ずっと深くて冷たい」
「私の感覚とも一致する。地下から、冷気が噴き出しているような感覚だ。……カイエン! 騎士団の第三・第五部隊を直ちに北の地下墓地へ向かわせろ!」
「はっ! ただちに!」
レオンは即座に指示を飛ばしたが、その瞳は険しく、ミコトの手を強く握りしめた。
「ミコト。お揃いのこれを通じて、あなたの『視る力』が私の『感知能力』と結びついたようだ。……本来、一介の占い師が知るはずのない戦場の気配まで、あなたに届いてしまった。済まない」
「謝らないで、レオンさん。おかげで、手遅れになる前に気づけたんだから。……行きましょう。私が行かないと、その怨念は浄化できないわ」
「……ああ。あなたを危険な場所に連れて行くのは本意ではないが、私が傍にいる。一歩も離れるな」
レオンはミコトを抱き寄せると、風を切って店を飛び出した。
二人の胸元では、根付の「聖樹」が呼応し合い、暗闇を照らす一筋の光の道標となっている。
現場である地下墓地に到着した時、そこには、隣国の残党と思われる数人の魔導師たちが、巨大な骨の塊のような魔物を呼び出そうとしていた。
「させるか」
レオンが抜剣する。その一振りには、ミコトの浄化の力が「共鳴」を通じて宿っていた。銀色の刃が空を裂くと、ただの物理攻撃ではない、神聖な光の波が魔物を飲み込んでいく。
「……臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前! 悪霊、霧散しなさい!」
ミコトがレオンの背後から声を上げ、根付に溜まった魔力を一気に解放した。
二人の力が一つになった瞬間、地下墓地を満たしていたどろりとした闇は、跡形もなく白い光へと浄化された。
◇◇◇
無事に事件が解決し、月明かりの下、二人は並んで占いの館へと戻る。
レオンは自分の剣に下がった不恰好な根付を愛おしそうに撫でた。
「……ミコト。この根付は、単なるお揃いではなかったようだな。……あなたが何を感じ、何を視ているのか。それを共有できることが、これほど心強いとは思わなかった」
「ふふ。……でも、レオンさん。さっき私、あなたが『今日の晩ご飯は何かな』って一瞬考えたのも視えちゃったわよ」
「……、……っ。それは……その、気が緩んだだけだ」
レオンが珍しく狼狽し、顔を赤くして視線を逸らす。その頭上のオーラは、戦場での鋭さはどこへやら、愛しさと気恥ずかしさが入り混じった、とびきり濃いピンク色に染まっていた。
「いいですよ。……今日は特別に、あなたが考えていた通りの、温かいシチューにしてあげますから。……一緒に帰りましょう、レオンさん」
「……ああ。……ずっと、一緒だ」
二人の歩幅が重なり、夜の王都に穏やかな足音が響いていった。




