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人形店 ピノッキオドリーム  作者: 佐藤 敏夫
第一章 ピノッキオドリーム
17/22

そうして彼女は完成させた

 メユがピノッキオドリームの開店準備のために看板を外に出していると、その時を見計らったかのようにニトがやってきた。

 手土産のお菓子の詰め合わせを掲げて挨拶するニトに、最早初めて店にやって来た時のような遠慮がちな雰囲気はない。むしろ、親しい友人の家を訪れるかのようなどことなく楽しそうな雰囲気さえある。

 まだ開店までに少し時間があったが、メユは笑顔で彼を店の中へと招き入れると、クリエもまたニトのことを快く迎え入れた。

「さて…… そろそろ人形作りも終わりが見えてきた。二人とも、準備は良いかい?」

「もちろん! 準備万端だよ、クリエ」

「はい、今日もよろしくお願いします」

 クリエが柔らかな声音でメユとニトに声を掛けると、汚れても良いように作業着に着替えた二人は力強く返事を返した。完成が目前ということもあってか、二人の士気は非常に高い。クリエは元気の良い返事に満足したかのように大きく頷いた。

 今日の作業は表面の仕上げと彩色だ。

 人形に色を付けていく彩色は兎も角、表面を磨く作業はとても地味で根気のいる作業である。幼い二人が忍耐強く作業できるが不安が無かったわけではないけれど、この分であれば問題ないだろう。

「それじゃあ、早速だけれど作業に入って行こう」


………


 人形作り自体はとても簡単だよ。一つ一つはとても単純な作業の積み重ねだから。クリエのその言葉に確かに間違いはなかったし、疑っていた訳ではないけれど嘘もなかった。

 とはいえ、正直なところここまで忍耐の必要な作業の連続だとは思わなかったのも事実だ。

 メユは防塵マスクと眼鏡で顔を覆いながら黙々と磨きの作業をする。

 大きな傷は水を多めに含ませた粘土で埋め、小さな傷は荒い目のスポンジやすりで削り取る。そうして傷を全部取り除いたら、今度は細かい目のスポンジやすりで表面を磨くのだ。

 クリエが作業がしやすいように分割してくれているとはいえ、すべての部品を磨き上げるのは中々の重労働だった。

「一気に仕上げなくても大丈夫だよ。休み休みでも良いから、丁寧に仕上げるようにね」

 クリエは作業の合間に様子を見に来て、そう声を掛けてくれた。

 そこでようやく私達は、キリエに完成品を見せたい一心で作業に集中し過ぎていたことに気付くのだった。

「ふぅ…… ちょっと作業しすぎちゃったね? ニト」

「うん。少しだけ一休みをすることにしようか」

 ひとしきり人形の目立った傷を取り除いた所で、ニトに声を掛けて一度作業の手を止める。周囲には机の周りには削りカスが散乱していて、作業着のあちこちにもスポンジやすりの切れ端がくっついていた。

「どうだい? ここらで一息入れないかい?」

 一旦、私達が作業場の片づけをしていると、丁度よくクリエが作業場に入ってきた。フッと顔を上げて時計を見遣れば、もうすでに時刻は御昼前だ。道理で身体が固くなって、お腹が空いてきてしまったわけである。

「じゃあ、お昼ご飯にしよう。ニトも食べるだろう?」

「良いんですか?」

「勿論だとも。まぁ、もう三人分作ってしまったのだけれどね。さぁ、二人とも手を洗っておいで」

「はい」

 元気よく返事を返して私達は洗面所へと走って行った。


 手を洗ってからリビングへと行くと、クリエは三人分の食事を机に並べている所だった。

 こんがりと美味しそうに焼かれたパンと、それから、濃厚なクリームシチュー。

「僕も午前中は作業していたから、こんなものしか作れなかったけどね」

「ううん、とっても美味しそうだよ」

「そうかい? それは良かった。ニトも遠慮せずに食べてくれて良いからね?」

「はい。ありがとうございます」

 そう言いながら椅子を勧めるクリエに促されて、私達は食卓に着く。食卓に着くとパンとシチューの優しくて甘い香りが食欲をそそった。

「いただきます」

 私達は手を合わせて食べ始める。普段はクリエと二人で食事を摂るので、お客さんが来てくれるといつもの食事も華やいで見える。

 やっぱりお客さんを迎えてする食事というのは良い物だ。

「それで、人形作りの進捗はどうだい? 順調に進んでいるのかい?」

「うん、順調だよ。あらかた傷は取り終えたところ。午後からは表面処理をして、彩色していくつもり」

「そうか。それなら午後は彩色に使う道具を準備しないとね。でも、彩色する前に複製はしなくて良いのかい?」

「複製?」

 複製という言葉を聞いて、ニトは不思議そうな表情を作った。

 あぁ、そうか。ニトは人形作りの初心者だったっけ。

「複製って言うのはね、さっき作った人形を原型にして同じものを作るの」

「そんなことができるの?」

「そうだね…… 折角だから実際にやってみることにしようか?」

「はい!」

「決まりだね。じゃあ、午後からは複製の作業にはいることにしよう」




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