そうして彼女は粘土を捏ねる 2
「こんにちは、キリエ。僕の名前はクリエ。ピノッキオドリームという店でしがない人形技師をやっている」
「ピノッキオドリーム? もしかして、メユの製作者さんかしら」
「あれ? メユのことを知っているのかい?」
ネメシアに教えてもらったクライアントのもとを訪れると、彼女はどうやら自分のことを知っているようだった。話を聞いてみると、どうやら少し前にメユがこの病室を訪れていたようだ。
曰く、メユは弟と一緒にやってきてお喋りを楽しんだらしい。
「それでね、メユったら可笑しいのよ?」
彼女は本当に楽しそうにメユのことを話してくれた。短い間ではあったけれど、キリエがメユとすっかり仲良くなってくれたことが伝わってくる。
正直な所、キリエがメユの友達になってくれたのは商売の話を抜きにしても非常に喜ばしいことだった。
メユは多感な時期である。家族とは別に他人と触れ合う時間というのも必要だ。ましてや、同世代の女の子と触れ合うというのは掛け替えのない貴重な経験だ。それらの経験は、どんなに頑張ってもこちらでは代替してやることができない経験だからだ。
キリエの話に耳を傾けていると、ついつい頬が緩んでしまう。
「あら、いけない。ついつい私ばっかり話をしてしまったわ」
「ううん、気にしないで。キリエの話を聞けてよかった」
「そう? それなら良かったのだけど……」
不意に彼女はお喋りに夢中になっていたことに気付き、恥ずかしそうに目を伏せた。笑いながら首を振ると、彼女ははにかんだような表情で胸を撫でおろした。
「代わりと言ってはなんだけど…… これからも、メユと仲良くしてくれないかな?」
「えぇ、もちろん。こちらからお願いしたいくらいですわ」
「良かった。それならこちらも助かるよ。ありがとう」
そこまで話をしたところで、自分の中で彼女のために作る人形の題材が決まった。メユが彼女の人形を作るのであれば、自分が作るべき人形というのは決まっている。
……
出来上がったのは長い金色の髪を結わえ、キリエとおそろいの浴衣を着た青い目の人形だ。その少女の姿には、もちろん私には見覚えがあった。
「もしかして…… わたし?」
「キリエとは友達なんでしょ?」
見間違いようがない。わざわざ指の関節まで彫り込んである。
メユが訊ねると、クリエはニッコリと笑って頷いた。どうやら、クリエはメユがキリエの人形を作ると知った時から、メユをモチーフにした人形を作っていたらしい。
「クリエも良いところあるじゃん」
至高の人形技師の粋な計らいに、私はついついクリエの脇腹に軽く肘鉄を食らわせてしまう。そのまま、恥ずかしそうに笑って誤魔化そうとするクリエにじゃれつくと、私はそのまま甘えるように彼に抱き着いた。
クリエは戸惑いながらも飛び込んできた私のことを受け入れてくれた。
腕の中から彼のことを見上げると、優しそうなクリエの瞳と目があった。
「ありがとう、クリエ」
「どういたしまして。 ……でも、人形の彩色は自分でやるんだよ?」
「……チェ。やってくれると思ったのにな」
甘えていたら釘を刺されてしまった。
ちぇっと舌を鳴らしておどけてみせると、「贈り物は自分で作ってこそ価値があるんだから」と諭されてしまった。
もっとも、私が本気ではなく冗談で言っていることにはクリエも分かっていたようで、「困った時は遠慮なく手を貸してあげるから、言うんだよ」と付け加えてくれた。
嬉しくなって、もう一度だけクリエのお腹に顔を埋めてから離れる。
「ねぇ、クリエ。そろそろ晩御飯にしよう? 私、お腹空いちゃった」
「そうだね。じゃあ、店を閉めたらご飯にしようか」
「うん!」




