4. 後日談
事件が解決してから1週間後。
赤ずきんは、ようやくおばあちゃんと一緒にお菓子を食べていた。
「……まさか、スマホの通知からここまで大きな事件になるとはね」
「そうだな」
ウルフはうなずいた。
「ただ、実際に決め手になったのは通知だけじゃない。警察が端末のやり取りを確認し、ほかの証拠と合わせて捜査したからだ」
「……わかってるよ」
赤ずきんはマフィンをかじった。
「でもさ」
「ん?」
「犯人たち、スマホの使い方が雑すぎない?」
「……そこか」
「だって、監禁事件の指示役が『俺は森の入口にいる』って送ってくるんだよ? もう少し考えなよ! 犯罪の前に情報セキュリティ研修を受けてほしいんだけど!」
「犯罪者に研修を勧めるな」
「だって雑なんだもん!」
おばあさんは、のんびりとお茶を飲んだ。
「まあ、みんな捕まってよかったじゃないか」
赤ずきんはうなずいた。
「……うん。本当にね」
そして、ふとウルフを見た。
「……ところで」
「なんだ?」
「お前、最初から森の入口を見張ってたの?」
「……」
「どうして?」
「君が心配で……」
赤ずきんは深く息を吸った。
「……助けてくれたことには感謝してる」
「……!」
「でもね」
「……」
「人を守ることと、勝手に監視することは別だから!」
「……はい」
「次からは、ちゃんと警察に任せる! 勝手に人の情報を調べない! わかった!?」
「……わかった」
赤ずきんは満足そうにうなずいた。
「よろしい!」
そして、最後にひとこと。
「……あと、私の投稿に三秒でいいねするのもやめて」
「……はい」
「今度は八秒待てばいいとか思ってないよね!?」
「……思っていません」
「その間が怪しいんだよ!!」
「まぁ、いいけど」
テーブルの上には、赤ずきんが持ってきた手作りのお菓子と、おばあさんがいれくれた紅茶。
皿の上には、クッキーに、マフィンに、なぜか形の崩れた謎の物体。
「……赤ずきん」
「なに?」
「この黒いの、なんだい?」
「マフィンだよ」
「炭じゃなくて?」
「マフィンだよ!」
赤ずきんは無言で皿を押し戻した。
「いや、食べ物に圧を感じるんだけど。これ、食べたらHP減るタイプのアイテムじゃない?」
「おばあちゃん、それってとっても失礼だよ。愛情たっぷりなんだから」
「愛情って焦げるんだ……」
ウルフは、そのやり取りを見ながら黒い物体を一枚つまんだ。
「うん。おいしい」
「でしょ?」
赤ずきんが得意げに胸を張る。
「私が作ったんだから。当然じゃん」
「……俺も、君の手作りなら何でも食べる」
「はい、今の発言ちょっと怖い。何でもってなに? 毒入りでも食べるの? そういう重い愛情、求めてないんだけど?」
「いや、そういう意味じゃ……」
「じゃあ、どういう意味?」
「……」
「ほら答えられない。すぐ黙る。そうやって都合悪くなると黙るの、ほんとよくないよ?」
「ウルフ、あんたも大変だねえ」
「おばあさん、助けてください」
「自分で何とかしな」
ウルフは静かにクッキーをもう一枚食べた。
森には平和が戻った。
黒幕も捕まった。
おばあちゃんも無事だった。
ただし、赤ずきんとウルフの関係だけは、まだまだ平和とは言い難かった。




