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3. そして、事後処理

おばあさんは無事救出されました。


トクリュウの一味を全員床に転がした赤ずきんとウルフ。


おばあさんは無事だった。


家の中は散らかり放題だった。



「……とりあえず、警察呼ぼう」


赤ずきんはおばあちゃんの家の電話の受話器をとった。


「もしもし、警察ですか? はい、森の奥のおばあちゃんの家です。知らない男たちに監禁されかけました。え? 何人? 五人くらい? いや、全員床に転がってます。はい、ウルフもいます」


ウルフが耳をピクリと動かした。


「……ウルフもいますって、俺も容疑者みたいじゃないか」


「だって、ウルフが窓から飛び込んできたんだよ? 説明しないと警察も困るでしょ」


「君を助けたんだが……」


「それとストーカー疑惑は別問題だから」


「……はい」


赤ずきんは通話を続けた。


「え? 犯人たちの身元? それはまだわかりません。あ、スマホが落ちてますね。ええ、何台も。はい、触らずに置いておきます」


通話を終えると、赤ずきんは床に散らばったスマートフォンを見た。


「……これ、どうするの?」


ウルフが答えた。


「警察が来るまで、そのままにしておこう。証拠になるかもしれない」


「だよね。じゃあ、触らないでおこう」


二人はスマートフォンから距離を取った。


その瞬間。


床に転がっていた男の一人が、うめき声を上げた。


「……スマホ……」


「ん?」


「スマホだけは……見るな……」


赤ずきんとウルフは顔を見合わせた。


「……ねえ、ウルフ」


「なんだ?」


「今の、めちゃくちゃ見てほしくないって言ってるように聞こえたんだけど」


「……そうだな」


「しかも、なんでそんなに焦ってるんだろうね?」


男は青ざめた顔で叫んだ。


「見るなって言ってるだろ!」


赤ずきんは腕を組んだ。


「いや、警察来るまで触らないって言ってるじゃん。何? 見られたら困るものでもあるの? 浮気相手とのやりとり? それとも闇バイトの業務連絡?」


「違う!」


「じゃあ何!?」


「……」


「ほら、答えられない!」


ウルフは冷静に言った。


「赤ずきん、スマホの中身を勝手に開くのはやめておこう。警察に任せるべきだ」


「……そうだね」


赤ずきんはうなずいた。


「私、ちゃんと理性あるから」


「うん」


「人のスマホを勝手に開けたりしないから」


「うん」


「……で、ウルフ」


「なんだ?」


「お前なら開けられる?」


「開けられるかどうかと、開けていいかどうかは別だ」


「……」


赤ずきんはじっとウルフを見つめた。


「……なんか、今日のお前、まともなこと言うじゃん」


「俺を何だと思ってるんだ」


「SNS監視型変質者」


「……」


「褒めてるよ?」


「絶対に褒めてないだろ!」


そのときだった。


倒れていた男のスマートフォンが、突然鳴った。


画面には、メッセージの通知。


『指示役:回収はどうなった? 予定どおり娘も連れてきたんだろうな』


赤ずきんは通話を一瞬止めた。


「……え?」


ウルフも画面を見た。


『指示役:返事をしろ。俺は森の入口で待っている。車はいつでも出せる』


二人の視線が交差した。


「……ねえ、ウルフ」


「……ああ」


「これ、めちゃくちゃ黒幕っぽくない?」


「……ああ」


「というか、通知で自分から居場所を申告してるんだけど。情報管理どうなってんの?」


ウルフはスマートフォンに近づいた。


「警察に追加情報を伝えよう。だが、これだけでは相手が誰なのか、実際に事件に関与しているのかは断定できない」


「うん。……って、あれ?」


赤ずきんが画面を指さした。


「スマホ、ロックかかってるね」


「そうだな」


「中を見れば、ほかにも証拠があるかもしれないのに」


ウルフは倒れている男を見た。


そして、スマートフォンを見た。


「……ひとつ、確認できるかもしれない」


「何を?」


「顔認証だ」


赤ずきんは数秒間、黙った。


「……え?」


「この男が所有者なら、本人の顔でロックが解除される可能性がある」


「いやいやいや。待って?」


赤ずきんは片手を突き出した。


「今、私たちは警察に通報したところなんだけど? そこで勝手に犯人のスマホを開けるの?」


「……」


「証拠を見たい気持ちはわかるけど、勝手に操作していいかは別問題でしょ!」


ウルフは少し考え、スマートフォンを置いた。


「……そうだな。警察に任せるべきだ」


その瞬間。


床の男が、うめき声を上げた。


「……やめろ……スマホだけは……」


赤ずきんが振り返る。


「……ねえ」


「……」


「今、自分からスマホが重要ですって宣言したよね?」


「違う……!」


「じゃあ何? 大事な思い出の写真でも入ってるの?」


「……」


「答えないんだ?」


「……」


「はい、怪しい!」


ウルフは警察への追加連絡を提案した。


赤ずきんはそのとおりにし、通知の内容と、スマートフォンがロックされていることを説明した。


警察官は、現場の安全を保ち、端末には手を加えずに待つよう指示した。


ところが、その直後。


スマートフォンに、もう一度通知が届いた。


『指示役:返事がない。失敗したのか? 森の入口から動けない。早く連絡しろ』


赤ずきんは、目を見開いた。


「……動けない?」


ウルフが窓の外を見る。


「森の入口……」


二人は顔を見合わせた。


「「黒幕、そこにいる!?」」


赤ずきんはすぐに警察へ再度連絡した。


「追加情報です! 犯人のスマホに、指示役らしき人物から『森の入口から動けない』というメッセージが届きました。入口に車がいる可能性があります!

あたしは町側から来て車はいなかったので、山側の入口に車がいそうです!」


警察は、森の入口にも警察官を向かわせることにした。


しかし、現場に残されたスマートフォンには、まだ謎が残っていた。


やがて町側の森の入口から到着した警察官たちは、現場の安全を確保したうえで、端末の証拠保全と確認を進めることになった。


警察官の立ち会いのもと、端末のロック解除について必要な確認が行われた。


男は最初、頑なに拒んでいた。


「スマホは関係ない!」


赤ずきんが即座に叫ぶ。


「関係ない人が、そんなに必死になる!?」


「黙れ!」


「また黙れ!? こっちは被害者なんだけど! なんで私ばっかり黙らされなきゃいけないの!? 人の家を占拠して、おばあちゃんを監禁して、私まで連れ去ろうとしたくせに、今度はスマホの中身を隠そうとして! 自分の都合が悪くなったら全部なかったことにするつもり!?」


「……」


「ねえ、答えてよ!」


警察官が赤ずきんを制止した。


「落ち着いてください。こちらで確認します」


「……はい」


赤ずきんは座った。


「……警察の人、ちゃんとしてる」


ウルフが小声で言う。


「君も少し見習うといい」


「何か言った?」


「何も言っていません」


警察官による確認の結果、もう言い逃れはできないと観念した実行犯のリーダーが端末のロックを解除し、端末から指示役とのやり取りが見つかった。


そこには、事件前からのメッセージが残されていた。


『対象の家は確認したか』


『周辺の様子はどうだ』


『孫娘が来たら一緒に連れてこい』


そして、事件当日のやり取り。


『現場に入った』


『高齢者は確保した』


『孫娘が到着した』


『予定どおり回収しろ』


赤ずきんは、最後のメッセージを聞いて顔をしかめた。


「……回収って何?」


ウルフが静かに答えた。


「人間を荷物みたいに扱っているんだ」


「……最低」


赤ずきんは拳を握った。


「私、荷物じゃないんだけど。おばあちゃんも荷物じゃないんだけど。人間なんだけど?」


警察官は記録を確認し、端末内の情報をもとに指示役の特定を進めた。


さらに、最新のメッセージにはこう書かれていた。


『俺は森の入口にいる。失敗したなら、すぐに連絡しろ』


赤ずきんは、ゆっくりとウルフを振り返った。


「……これ、もう言い逃れできないやつ?」


「最終的には捜査で確認される必要がある。でも、重要な手がかりにはなるはずだ」


「……よし」


赤ずきんは立ち上がった。


「警察さん! 森の入口にもお願いします!」


「すでに向かわせています」


「ありがとうございます!」


その数分後。


森の入口に停車していた黒い車は、警察官によって拘束された。


運転席にいた男は、警察官の姿を見ると車を発進させようとしたが、すぐに制止された。


男は最初、事件との関係を否定した。


しかし、その後の捜査で、押収された端末のやり取りや関係者の供述などから、実行役への指示に関与していた疑いが強まった。


さらに、別の関係者との連絡記録も見つかり、事件に関わった人物たちのつながりが次々と明らかになっていった。


現場の実行役。


連絡係。


森の入口で待機していた指示役。


そして、別の場所から指示を出していた関係者。


捜査は一気に進展し、複数の関係者が逮捕されることになった。


こうして、赤ずきんのおばあちゃん宅で起きた監禁事件は、単なる現場の犯人逮捕にとどまらず、指示役や関係者の摘発へとつながったのである。



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