episode10 『事故物件←ネタバレ』
episode10
『事故物件←ネタバレ』
[part1]
午後3:40。ノーチェは現場にいた。
オーナー「こちらの部屋になります」
50代ぐらいの男性、宿屋の依頼主兼オーナーはノーチェを案内する。ノーチェは辺りをキョロキョロと見渡す。
ノーチェ「(石造りの古典的な宿屋だ……特に手を抜いてる感はないな。
室内はかなり狭く1/4ぐらいはベッドで占めてる。後はクローゼットのみ……トイレや風呂は共有だろうか。まあ魔女の僕には関係ないが)」
オーナーは簡潔に説明する。
オーナー「冒険者様にはこちらで1泊して貰います。宿泊料金は無料ですので入浴施設や休憩所なども出入りはご自由に」
ノーチェ「食事は?」
オーナー「簡易ですが夕食にパンとスープを差し出します。もちろん料金は入りません」
ノーチェ「わかった」
オーナー「それと……」
ノーチェは首を傾げる。
オーナー「部屋で『決して叫ばないでください』……何があっても」
ノーチェ「え?」
オーナーは続ける。
オーナー「『刺激』をしなければ何も起きません。まあ、普段通りにすれば大丈夫です」
ノーチェ「…………」
ノーチェは深く追求をしようか迷ったが……よくよく考える。
『冒険者依頼でもし魔物などが出没するなら……このような発言は不自然』だと思った。
オーナー「それではごゆっくり……」
オーナーはお辞儀をして部屋を出ていく。
ノーチェ「これ……」
ノーチェ「事故物件じゃね?」
ノーチェは気づいてしまった。
ノーチェ「『叫ぶな』とか……僕の存在全否定だろ……」
しかし、目の前にベッド。彼女は欲望には逆らえない。
ノーチェ「おぉ!!……あ」
若干叫んだ気がしたが一応セーフだった。ノーチェは魔女の格好のままベッドにダイブする。神魔女という存在なので実体が曖昧な彼女は汚れという概念がなかった。
ベッドはスプリングがかなり効いており、生地がノーチェを包みこまず、跳ね返す。
ノーチェ「まーこれはこれで……」
そこまで悪くないと思う彼女。
ノーチェはガキ(外見は15歳程)のようにはしゃいだがふと我に返る。
ノーチェ「風呂……か」
彼女は入浴の経験がほとんどないのだ。汚れないから入る必要性がない。
『お風呂は毎日入ります!心を洗うんですよ!?』
過去世界、ノーチェの4番目の弟子が風呂について熱く語っていた記憶が蘇る。ノーチェは『魔女は服も身体みたいなものだから必要ない』と頑なに否定して結局、その弟子との風呂付き合いはなかった。
ノーチェ「休憩所や風呂も行かないとレビューにならないか……」
[part2]
18:21。大浴場。もちろん誰もいない。というかまずこの宿屋に客がいない。ノーチェはいざ脱衣所で新たな問題が発生してしまった。
難題
・風呂のレビュー基準がわからない
・容姿について
特に後者側。
ノーチェ「服のままでいいよな?」
そう。彼女は人体の構造が資料でしか知らないのだ。なので下手に姿を変えると、極彩色なぐちゃぐちゃな物体になってしまう。
そして浴室に入る。周りが湯気でよく見えない。しかし、この風呂……かなり大きい。
ちゃんとした岩に囲まれた浴槽でお湯が白く濁っている。
ノーチェはためらいもなく、お湯に浸かる。
ノーチェ「…………」
正直、温かい感覚がある気はする。気はするぐらい。
ノーチェ「とりあえず、メモするか」
魔力でホログラムを生み出し、思ったことをメモをする。
ノーチェ「うーん」
彼女が唸っていると突然入口のドアが開いた。
入ってきたのは女性。
女性「ごめんね〜シャワー壊れててー今は使え……」
女性は浴槽のノーチェを見て固まる。
女性「服……のまま?えぇ!!?」
ノーチェ「あ……」
しばらくお互い硬直する。
そして動いたのは……ノーチェだった。
ノーチェ「失礼しまーす!!!!」
ダッシュで浴室→脱衣所→部屋に戻った。
部屋。
ノーチェ「誰だよ!?あのおばさん!」
文句を垂れ流す。そして答え。
ノーチェ「ああ、女将か……もしくはオーナーの奥さん……」
ノーチェ「これだから風呂はヤなんだ!」
再びベッドでゴロゴロ……。
ノーチェ「はぁ……20G」
この依頼が成功しても20G。恐らく早い内に武器と宿代で消えてしまうだろう。だからといって依頼をこなさなければ信用は上がらない。結局、やるしかないのだ。
ノーチェ「休憩所……行くか」
[part3]
休憩所。現代でいうとホテルのラウンジだ。やや硬めのソファーが複数配置されている。
しかし、常時閑古鳥が鳴いてそうなくらい寂しい空間だった。
ノーチェ「この店、潰れるんじゃ……?」
思わず本音をこぼすノーチェ。とりあえず無料のウォーターサーバーのみ頂く。冷たい水。しかしそれももう心地が良い。
ノーチェ「メモメモ……」
彼女がメモ書き終えると……テーブルの下に『子供』がいた。
ノーチェ「あ…………」
子供は彼女をじっと見つめるとスッと姿を消す。
ノーチェ「チャッ◯ー!」
『質問、
異世界にも仏さんっている?』
『返答、
死者のモンスターは 存在 しません』
AIは続ける。
『ただし、現代でいうと幽霊のような噂はこの世界にもあります』
ノーチェ「っぱ……事故物件か!」
ノーチェはため息をする。
その後、部屋に戻る際に従業員がドアの前で箱を持って固まってる。
従業員「ああ!冒険者様!夕食を持ってきました!」
ノーチェは受け取り、部屋に戻る。そして箱を開けた。パン(ちょっと硬い)とカップに入ったコーンスープ。
ノーチェ「食事は必要ないが……ストレス解消にはなるかな……」
硬いパンをかじり、小麦を味わいながらコーンスープをすする。特別喜ぶ味でもないがいかんせんタダなので、どこか味わい深い感じもした。
ノーチェ「メモ、『タダでコレはでかい』っと」
[part4]
23:12。異変は起きた。
ノーチェがベッドでゴロゴロしていると……『頭上から髪の毛』が垂れてきた。
ノーチェ「うわ……邪魔……反応しない、反応しない」
無視して布団を被り、睡眠を優先する。しかし、今度は『足を掴まれる』。とても冷たい感触。
ノーチェ「うわ……うっざ」
イライラし始める。目を閉じてとにかく耐える。耐えれば20G(レビュー必要)。耐えれば20G……。
更に布団の中にもぞもぞと異物感を感じる。『子供』が入ってきたのだ。『子供』はペタペタとノーチェの身体を触る。
カチン。ノーチェ、キレた!
ノーチェ「クソガキャァァァァ!!!」
ノーチェがブチギレ状態になったその瞬間、彼女はまったく知らない所で足元が水浸しの鳥居がある場所に立っていた。
ノーチェ「……おーい」
彼女は困惑する。
ノーチェ「叫んだから変な所連れてかれたんだけど……」
すると目の前に着物を着た少女が1人現れる。
少女「ねぇ?おいでー」
ノーチェ「ここは……?」
少女「黄泉の国」
ノーチェ「黄泉の国?あれ、異世界は?」
少女は首を横に振る。
少女「知らないよ?ここは黄泉の国」
無邪気に笑う少女。そして水面には無数の手が……。
「「「おいでー」」」
ノーチェは俯き呟いた。
ノーチェ「黄泉の国……か」
彼女はどこか安堵を浮かべる。それは『ここは異世界』ではないということ!
ノーチェ「じゃあ!『文句は……無いよな!?』」
魔法陣を展開!空に向かって魔力を放出!!
バリバリバリバリ!!!!
空が壊れる音がした。いや空どころか国が壊れたかもしれない。そのまま世界は光に満ちた。
気がつくと宿の部屋のベッドで目を覚ます。カーテン越しから光が差し込む。
ノーチェ「あーよく寝た」
……今日の天気は快晴だった。
余談、
後日、ノーチェのレビューは雑誌に搭載されなかった。
episode10
END




