『復讐の契約』第一話
ぐちゃり。
べちゃ、べちゃ。
ぼきっ。
壁に飛び散った赤、血液を吸って重くなった絨毯薙ぎ倒された家具たちが集まる、血みどろのリビングダイニング。
並んでいる三つの死体。いや、まだ死体ではない、微かに息がある。
部屋の中央に、一人だけ立っている人間がいる。この地獄絵図を作った張本人だ。全身を真っ赤に染め上げて手足はなぜか真っ黒に染まっている。最早人間と形容するのも恐ろしい、人形の化け物。
「ぁ……」
一番若い少女の死体が何かを口にした。
化け物はそれを聞いて満足そうに笑い、その部屋から去っていった。
がたん。
少しして、少年が部屋に入ってきた。
べちゃ。
血溜まりの上に少年は崩れ落ちる。
「なんで」
震えた声。
「おと、さん」
恐怖が入り混じる。
「おかぁさん」
困惑が入り混じる。
「ねえ……ちゃん」
憎悪が、入り混じる。
「なんで、だれが」
三人ともまだ息はある。だが、もう助からないことは見れば明白。
『おい、小童』
この地獄にどこからとなく声が響いた。艶と、それ以上に圧のある女の声。
『復讐したいとは思わぬか』
甘美で残酷なその誘いに、少年は顔を上げる。
目の前にあるのは、くろいもや。
『妾と契約しようぞ』
紡がれる声に、少年は耳を傾ける。
『代償は、そこの三人じゃ』
床に倒れ伏す、血みどろの三人。
骨は折れ、腹は裂かれ、最早意識はない。
だが、まだ、息は。
『あやつらはもう助からぬ』
まだ、生きて。
『力が欲しいとは思わぬか』
まだ。
――――もしさ、未来で私が殺されたら椿はどうする?
泣くだろうと、その時は答えた。
――――ふふ。そっか。
その言葉を聞いて、少年の姉は笑った。笑って、いった。
――――泣くよりはさぁ。怒って欲しいかな、私。
今、少年は怒っていた。ほおをつたう涙はとめどない。しかし、涙が蒸発してしまうのではないかというほどに、頬は熱かった。怒りで燃えていた。
許されざることだとわかっていた。でも、少年にはその衝動を抑えられない。
『復讐したいとは思わぬか』
再度発された問いに。少年は、頷いた。
「お前と契約する」
血みどろのリビングダイニング。
そこに並ぶのは、もうすぐ死ぬ、しかしまだ生きていた人間。16年間を共に過ごしてきた、少年の家族。
『よい選択じゃ』
彼らは消えた。
今度こそ、死んだ。
復讐のための力と引き換えに。
べちゃり。
べちゃ、べちゃ。
がたん。
少年は部屋を去った。家族の血を踏み締めて、体を赤く染め上げて。
少年は歩いた。これからも歩く。己が事を成すために。
これは始まりだ。
少年が紡ぐ復讐劇。その始まりに結ばれたのはそう――
『復讐の契約』




